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第二話 平和と鐘と、兵士の行進

先週はお休みしてすみません! 次回からは少しペースを上げていきます!

驚愕の表情を浮かべて、私は自分の身体を見つめていた。長く艶やかな銀髪を持つ、スラッとした女形の身体が私の目に写っている。私は、興奮するでもなくただ、焦りや不安を浮かべていた。


「この髪もそうだ。銀色で、しかも長い。それに、む、胸も膨らんでる。この身体は私のじゃない。」


「よ、よく分からないけれど、とりあえず落ち着いた方がいいと思うわ。」


「あ、......すいません。取り乱してしまって。」


「いいのよ。記憶も混乱しているのでしょう。ゆっくりと休みなさい。」


老婆ラベンが私をもう一度ベッドに寝かせると、落ち着きを取り戻して、呼吸も柔らかくなった。ラベンも安心したのか私に笑顔を見せる。


「とはいっても、その様子だと寝付くまで時間がかかるでしょう。それまで、あなたの事を聞いてもいいかしら。」


「はい。ですが、こちらも思い出せるのは少しですので、分からないことも多いと思いますが。」


ラベンに年齢や出自などを聞かれたが、答えられたのは名前(ミネと答えた)と年齢ぐらいだった。それ以上の回答を出来る状態ではなかった。


「そう。もしかしたら、記憶喪失が起こっているかもしれないわ。治療は得意なのだけど、脳の損傷に関してはどうしようもできないの。奇跡を信じるしかないようね。」


「すいません、色々としてもらえたようで。おかげで、少し熱は残っているみたいですが、気分も落ち着きました。」


「いいのよ。落ち着いたのなら、少し寝るといいわ。頭も身体も休めたら、明日から頑張れるわ。」


ラベンの言うとおりに、今度こそベッドに潜り込む。そして、無理やりに目を閉じた。

今は、混乱や不安を沈めて休まなければならない。何故ここに来たかは思い出せないとはいえ、生きている限り前に進むべきなのだ。


私の身体が変わってしまったことは、理由の分からない不可解な現象だ。これから先、この世界で何が起こるかも分からないまま、新しいこの身体で過ごさなければならないだろう。それは、今も、そしてこれからも私にとって変わらない、仕方のない現実なのだ。


私は変わらなければならなかった。銀髪の少女、ミネという人物に。


ラベンはパンに布を被せて机に置き、小屋の外へと出ていってしまった。その頃にはもう、眠ってしまいそうで、私の顔は窓から差し込む月光に照らされていた。






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ミネが目覚めたのは、顔を照らす光が日光に変わったころだった。鳥のさえずりが聞こえてくるというありきたりな朝。ミネは顔をしかめながら身体を起こした。


小屋の中には誰もおらず、ラベンが持ってきてくれたパンが机に置いてあるのと、それと同時に服が追加して置いてあるのが確認できる。女物だった。


昨日は聞こえなかった喧騒が窓の向こうから聞こえてくる。朝だというのに、外は賑やかなようだ。この小屋は、町の中にあるようだ。


「......外に出よう。」


ミネは目覚めてから初めてベッドから下りる。

ミネの脚はしっかりと機能していて、力強く地面を踏みしめることができる。スラッとして、それでいて大きなチカラを感じさせるようなミネの脚は、まるでどこかのモデルのようだった。


「これを......着るのか。」


メイドさん、というジャンルが存在したのを思い出すが、机の上の服はまさにそのメイドさんが着るようなものだった。紫と白、ラベンが着ていた紫よりも濃いものだが、似ていた。


ミネがこれを着るのは抵抗がある。ミネの顔は複雑な表情へと変わる。


「だぁあ! これは仕方ない、仕方ないんだ!」


一人恥ずかしさを堪えて、ミネは今着ている服の裾に手をかけた。



---------------------------------------------



「中々着心地は悪くないな...。」


ミネは現在、小屋の扉の近くにいる。それは小屋の内側ではなく、外側の方の意味だが。


ミネが扉を開けて見た世界は、一言で言えば城下町だった。真っ先に目に入って来たのは大きな城。日本のような城ではなく、西洋風の先が尖ったような城だった。見る限りここからかなり距離はあるが、それでもその巨大さが伝わってくる。


その城を中心に今ミネが立っているような町が広がっている。こちらも西洋風で、白い石でできた家が円形に立ち並ぶ、といった町並みだった。日光が家の壁に反射しているようで、辺りは朝から爽やかに輝いている。


町の人々は、ある人は食料の入った籠を持って走っていたり、ある人は子供と手を繋いで歩いていたり、またある人は点々と存在する出店の店主と会話していた。


そんな平和な町、人々の中で一人、ミネは自分の姿を気にしていた。メイドさんの格好など経験したことのないもので、生まれて初めての事にミネは少し顔を幼く見せた。頬も少し、赤くなっている。


しかし、ミネはそんな自分が周りから注目を浴びていることに気づいていなかった。それはメイド服を着ているからという理由ではない。


実際端から見れば、銀髪の美少女が初々しくもメイド服を着て町に出てきた、という光景なのだ。注目されても不思議ではないのだ。町行く人は、ミネの姿をチラリと見たり、もしくは仲の良いもの同士で囁きあったりしている。それでも、ミネは気づいていない。


「町に出たはいいけど、これからどうしよう。」


ミネは未だにノープランだった。外に出たのにそこまで理由は無かったのだ。理由はないが、ラベンからは何も言われていないし、そうかといって小屋の中で過ごすのは退屈だ。今はとりあえず気を紛らわしておきたいのだろう。


「......ここは、町の人から何でもいいから情報を引き出さないと。」


ラベンが日本語を話していたように、この町の人は同じように日本語を話せる確率が高い。ミネは、町の人々に目を走らせた。


「あれ? 何かが、付いてる?」


ミネがみたのは、ある人の首もと。その人の首もとには、剣が二本交差しているタトゥーがあった。


ミネは他の人の首もとにも目を向ける。すると、同じように、全ての町の人々が首もとにそのタトゥーを入れていた。驚いたのは、生まれたばかりの赤子にもそのタトゥーがあったことだ。


「この町の風習なのか? 町のシンボルのようなものなのかな。」


その時、どこかで重く巨大な音がなった。


ミネはその音に耳を塞ぐ。音の正体は、近くの教会のような建物にある、大きな鐘の音だ。黒く、全身を覆うような服を着た人が鳴らしている。


ミネがようやく音に慣れてきた頃、町の人々はまるで隊列を組むように、綺麗に道の真ん中を開けて、建物の近くで土下座のようなポーズをした。それは瞬く間に行われ、家の中にいた人々も出てきて、その中に加わる。


「おいっ! 何やってんだ、嬢ちゃん! お前も早くやるんだ!」


「あっ、はい! すみません!」


突然、近くで土下座していた筋肉質な男に腕を捕まれ、ミネも同じポーズをさせられる。ミネは戸惑いながらも、その指示に従った。


間もなくして、人々にこれを行わせた正体が現れた。


「従順なる町民の皆様、おはようございます。我々は王国直属騎士団でございます。通りを開けてもらい、感謝する。そのまま渡りきるまで、崩すな。」


地鳴りのような、多数の足音が聞こえてきたと思えば、現れたのは鎧を着た巨大な馬と、それに乗る鎧を着た人だった。町の人々に付いていたタトゥーと同じ模様を描いた旗を掲げて、行進している。


先頭にいる、一人だけ背中に二本の剣を付けている兵士の後ろに、何人もの兵士が続く。背中に武器を持っているのは先頭の兵士だけで、他の兵士は腰に一本だけ剣を下げている。


「繰り返す。そのまま、我々が渡りきるまで、崩すな。」



先ほどから、同じ言葉を繰り返し読んでいるのは、拡声器と酷似したものを持った兵士だった。


兵士たちの団体は、先頭の兵士、そしてその後ろに立つ拡声器を持った兵士も含め、綺麗な隊列を崩さずに進んでいる。


ミネにとっては、このような事は初めてだった。兵士がこのように行進することは何となく分かるが、それ以上を間近で見ることはミネには想像の出来なかった体験だろう。


ミネは周りの雰囲気や、兵士たちの圧倒的な強者のオーラに気圧されたようで、大人しくポーズをとっていた。


すると、丁度先頭の兵士がミネを通り過ぎようとしたところ、地鳴りが止まる。


先頭の兵士が手を挙げて、他の兵士を止めていた。たったの一秒にも満たない間だった。


ミネは頭を下げているため、何が行われているか分からないだろう。ただ、ガシャガシャという鎧が奏でる音が聞こえるだけだ。


そして暫くすると、拡声器を持った兵士の声ではない声が聞こえた。


「そこの銀髪の女。立て。」


呼ばれたのはミネだった。ミネはゆっくりと立ち上がると、周りの光景を見る。


ミネの周りには、複数の兵士がいて、全員が剣を抜いてミネに向けていた。そして、ミネの正面には、あの先頭の兵士が立っていた。


「少し、話を聞かせてもらおう。」


「は、はひ......。」


ミネの額からは、冷や汗が滲んでいた。

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