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(4)カメリアと迷子と失踪事件?

「王宮で迷子ってないわ…。しかもイヴァンとはぐれてしまうし…」


カメリア・クラウディウス。

見た目は十二歳の侯爵令嬢であるが、色々あって前世が沖縄の離島に住む十八歳の女子高生である事を思い出したので、中身は庶民である。


今日はお父様と一緒に王宮にやってきて、従兄弟で第一の攻略対象であるイヴァンとともに、この国の第二王子であり第二の攻略対象でもあるユーステス樣を待っていた。


しかし、一時間待っても王子は来ず。

紅茶が空になったのを契機に、応接室で待つのを止めたイヴァンは自分から王子に会いに出て行ってしまったのだ。

イヴァンの後を追って応接室を出た私だったが、途中でトイレに行きたくなってしまい王宮の使用人を急いで捕まえてトイレに案内してもらい、トイレに入ってすっきりして…。


現在、王宮で迷子の身となった。

一応、精神年齢は十八歳。

迷子になったのは、前世で沖縄本島に行った際に立ち寄ったショッピングモール以来である。

あれは恐ろしかった。

人が多すぎてしり込みしてしまい、勇気を振り絞ってたまたま通りすがりの人に声をかけてみたらまさかの外国人だったし…。

日本人だと思って話しかけたら韓国語で返事を返され……あの時はマジでびびったものだ。


今はそんな状況ではもちろんない。まあ、この世界にはショッピングモールなんてものは存在しないから当たり前だが。

しかし、広すぎてどこにいるのかもわからない場所での迷子は、やはりきつい。

案内してくれた使用人さんを頼ろうにも、もうその人の姿はなく。トイレに行く前に、せめて応接室に戻る通路を聞いていればよかったと後悔した私である。


「それにしても広いな~。まあ、王宮だから当然か」


きょろきょろと辺りを見渡しながら、改めてこの王宮の広さに圧倒される。

遠目で見た時から「ヨーロッパのお城みたい」と思ってはいたが、王宮の内部も私の想像に近い豪華な作りだった。前世の記憶で見たもので例えるなら、ディズニー映画の「シンデレラ」に出てくるお城に近い気がする。こんな風景を拝めるだけでも一生に一度くらいじゃないだろうかと思うのに、まさか入れるなんて。公爵という立場を与えてくれたゲームの設定には感謝である。


でも、今いる場所は…なんかおかしい気がする。

まず、人気がまったくない。王宮なのでそれなりに使用人さんも多くいらっしゃるはずだ。トイレを出てからは階段を上って、ちょっと進んでまた降りて…を何回か繰り返しているが、どこもかしこも同じ風景のように感じる。

同じ作りのドアに、同じ作りの窓。敷かれているカーペットも、飾りとして置かれている高そうな壺も同じような印象を受ける。


窓の外を見てみると、テレビで見た樹海のような森が広がっている。

自分がどこにいるのかを外の風景を目印にして確認しようとしたが、目印にできそうなものは特に見当たらない。

まるで、同じ場所を何回もループしているような感覚に陥る。

王宮の人は「場所がわからないです」とか「迷子になります」とかの苦情を言ったりしなかったのだろうか。


「とりあえず、もう少し頑張ってみるか」


自分を励ましながらその後も散策を続けるが、これと言って成果はない。

やはり、どこに行っても同じ場所にたどり着いてしまう。



「私ってこんなにも方向音痴だったのか…」


我ながら、とても情けない。思わず溜息をついてしまう。


「…いやいや。弱気になってどうする」


自分のほっぺを両手で軽く叩き、自分のマイナスな感情をリセットさせる。

よくよく考えると、私は王宮にくるのがこれでやっと二回目。

一回目の時は王宮の中にさえも入っていないので、実質今回が初めての王宮内部なのである。迷子になっても仕方ないのだ。

でも状況が一向に良くなっていないのも現実な訳で。

やはりあの時に我儘令嬢ぶりを発揮して、マイナスイメージになっても断ればよかった、と後悔する。


歩き疲れたので、喉が渇いて死にそうである。

さっき応接して飲んでいた紅茶をもっと大切に飲んでおけばよかった。

前世ではいつも飲んでいた、紙パックのリプトンが急に恋しくなる。

学校の売店に置かれていた紙パックのリプトンをよく買って、学校帰りにストローをさして飲みながら歩いたものだ。

確か、私はいつもレモンティー。

…カンナは、いつもアップルティーだったな。


「なんか、急に悲しくなってきた…。」


迷子になってしまったせいだろうか。すっかり私の心は弱気になってしまっていた。

いつもはカンナの事を思い出すと心が幸せになるのに、思い出した途端に悲しくなっているなんて。

前世の記憶の引き出しをあけて、カンナとの思い出を探す。

カンナは飲んでいる姿も、すごく可愛かった。

同じ女の子なのに、どうしてこんなにも美しいのかと。

学校帰りの夕焼けを浴びて輝くカンナを、私は思い出す。


長い髪を耳にかけながら、ストローにキスするように飲むしぐさに、「あのストローになりたい」と我ながらアホな事を考えていたものだ。

飲んでいるカンナに見惚れていて「何かついてる?」って聞かれた時の笑顔に、何度心臓が跳ねたことか。

しかも、彼女のよく飲んでいたアップルティーの香りを思い出すたび、あの頃の記憶が鮮明に蘇るから心臓に結構悪かったし…。


「…え?アップルティーの匂い、がする?」


さっきまで、匂いなんてまったくなかったはずだ。

カンナとの思い出に浸っていた私だが、急に感じた違和感から現実に戻ってくる。

見えている景色は、さきほどと全く変わらない。

が、さっきまでは感じていなかった匂いが私の鼻腔をくすぐっていた。


「この匂い、どこからきているのかな…?」


これは、もしかしたら解決の糸口を見つけたのだろうか?

私の心の中に、希望の光が見え始める。

もしかしたら、誰かが紅茶でも淹れているのかもしれない。

探し出してその人に道を尋ねれば、少なくとも知っている場所には戻れるはずだ。

「…よし!」

弱気になっていた心に仄かに火が灯って暖かくなるように、私は匂いの元を追って早足になりながらも、再び歩き始めた。


*****


「ふんふん…。この扉から匂いがするわね」


匂いを嗅ぎながら歩く事、数分。

沢山ある同じような扉の一つに立ち、私はくんくんと匂いを嗅ぐ。

前世のリプトンのアップルティーのような匂いは、間違いなくここからする。

耳をそっと扉に近づけると、わずかだが誰かの話す声が聞こえてくる。

間違いない、誰かがいる。

これでようやく迷子じゃなくなるぞ!!!

ドアノブに手をかけ、私はガチャリとドアを開けた。


………のはよかったが。

目の前に紅茶を淹れているメイドさんが立っていると思えば、予想外のものが立っていた。

あまりの驚きに、一瞬思考が止まりかけた。

美しい金髪に整った顔立ち。良く見ると、耳は昔映画で見た妖精みたいにとんがっている。

この世のものとは思えない雰囲気を醸し出しているし、女性かな、と言いたいところだが綺麗な男性にもみえる。


しかも、ここはどうやら誰かの寝室みたいだ。

高そうな調度品が備わっており、私の部屋の数倍高級感が漂っている。

でも、このお姉さん(お兄さん?)は、豪華なこの部屋の雰囲気とは比較にならないくらい、神聖な人に見える。

どちらかというと、前世の教科書でみた古代ギリシャの神殿にいるほうがふさわしい気がする。


なんか、場違いなものを見ている感が否めない。


「え?コスプレ?」


そして、私の選んだ言葉のチョイスも場違い感が否めない。

携帯で「言葉、ふさわしい、キレイ系」って検索して会った言葉を探したい。

まあ、この世界は科学が衰退しており、携帯なんて存在しないが。

だが、驚いていたのは私だけではなかったようだ。


『……なぜここに。誰だ?』


あ、この人ちゃんと言語が通じる人だ。

ちょっと聞き取りづらいというか、マイク越しから声を聞いているような声だが通じているだけでもいい。

よかった~

私は心の中でガッツポーズを作る。

王宮の使用人とは明らかに雰囲気は違う人だが、今まで誰とも出会えなかった私には十分すぎる出会いだ。

ようやく状況が好転したな、と安堵する。

あ、ついでに聞けることは聞いておこう。


とりあえず、まずは挨拶だ。イヴァンからも「初対面の人には挨拶をして絶対に失礼のないように」と言われている。

何事も最初が肝心だ。

気合を入れイヴァンから言われた事を思い出しながら、スカートの裾をつまんで軽く会釈する。


「私、カメリア・クラウディウスと申します。実は、迷子になってしまったところ偶然貴女様に出会いまして。先ほどは場違いな言葉を発してしまい、失礼致しました」


令嬢のように、きちんとできた。相手の方も態度に変化はない。

これなら大丈夫だろう、と確認しつつ私は話の本題に入るために口を開く。


「大変申し訳ないのですが応接室までの道順か、それかユーステス樣がどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?私、元々ユーステス樣を探しているうちに迷子になっておりまして…」


呆気に取られているお姉さん(という事にした)から、返事はない。

しかし、言葉の代わりに白くて細い指を伸ばしベッドの方を指差す。


「そちらにいらっしゃるのですね」


失礼のないようにそっとベッドの方へ歩き、のぞき込んでみる。

お姉さんの指の差したベッドの中にユーステス樣は確かにいた。

体調不良でも起こしたのだろうか、疲れたように眠っている。


「よかった、こちらにいらっしゃったのね」


なるほど、体調が悪かったのだな。

どうりで一時間待っても来ないはずだ。

ユーステス樣をよく見てみると、結構顔が赤い。

もしかして熱でもあるのかもしれない。


ゲームの設定では、幼い頃に魔力の暴走をして肌が褐色になっている。

病弱な場面は見た事がなかったが、もしかしたら裏設定とかであるのかもしれない。

ユーステス樣の熱がどの程度かを確認しようと、私は褐色のおでこに手を伸ばしかける。

すると、視界がちょっとだけ陰ったことに気が付き、くるりと視界を後ろにむけると。


お姉さんは私の動きを止めるように手のひらを見せていた。

表情を見ると、さっきよりは焦りの色が浮かんでいる。

もしかして、もう治療を施しているから触らない方が…と止めようとしたのか。


「もしかして、触らない方がいいですか?」


もし魔力のせいでそうなっているなら、触るのはよくないのだろうか。

勝手な行動をした手前なんとなく申し訳なくなり、許可を取ってみる。

お姉さんは何か言いたそうに口を開いたが、伸ばしていた手を元の位置に戻しただけで、何も言ってこなかった。

うーん。とりあえず触らない方が良いのかもしれない。

私は伸ばした手を引っ込める。


しかし、お姉さんが近づいてくれたおかげでわかった事がもう一つある。

改めてお姉さんを見た私はつい、まじまじと見入ってしまう。

この人って本当にギリシャ神話に出てきそう人だな。なんて綺麗なお姉さんなのだろう。

雪のように白い肌にはデキモノどころか毛穴の一つも見当たらない。切れ長の美しい目の形に、美しい紫色の瞳。唇はほんのりと薄く、ピンクに近い綺麗な赤さがあって艶めかしい。まるで、ギリシャ神話に出てくるヴィーナスみたいにキレイだ。

こういう人って、やっぱり名前もキレイな名前なのだろうか?


「あの、失礼でなければ、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」


つい好奇心から、私はお姉さんに名前を尋ねてみる。

これで神話の女神の名前とかだったら、仰天しそうになるが…。

なぜか、お姉さんは先ほどの表情とは打って変わり、苦々しい表情に変わる。

良く見ると、わなわなと身体を震わせ始めていた。

私はというと、いったい何が癪に障ったのかわからず、反射的に目をそらして口を閉ざす。


……あれ?

もしかして私、過去にこの人と会ったことでもあるのだろうか。こんなにキレイな人、絶対に一度見たら忘れないと思うのだが。

それとも、結構失礼な質問をしてしまっただろうか。名前を聞く際にタブーな事でもやってしまったのだろうか。


私の一言のせいか、まずい空気が流れている。

うっ、この空気感、重苦しくて耐えられない…。

何かこの空気を変えるものはないだろうか…。

とっさに手を後ろに回した時、ポケット付近に固い感触。

その瞬間、私はひらめく。

なんてすばらしいものをポケットにしまったのだろう!

ナイス!カメリア・クラウディウス!

これを使えば、雰囲気もなんとか和むのでは…!

ポケットに手を伸ばしつつ、私は起死回生の策にでる。


「あ、えっと…!い、言わなくても大丈夫です。し、失礼致しました…!あ、突然ですけれども私今クッキーを持っておりまして!と、とてもおいしかったのでどうぞ、お召し上がりくださいませ!」


そういいながら、お姉さんの腕を掴んでポケットに入っていた数枚のクッキーを強引に手渡す。

このクッキーは、イヴァンが出た時に私が慌てて掴んだ王宮のものだ。

私もそうなのだが、何かイライラしている時はよく甘いものを取って自分を和ませていた。カンナを怒らせてしまった時にもこの対応はかなり効果があった。

なので、お姉さんにも同じようにすればもしかしたら機嫌が良くなるのではとひらめいたのだ。

正直言うと一枚は残して食べればよかった、と後悔がよぎるが、渡した今それは言えない。

お姉さんは私から渡されたクッキーをぼんやり眺めながら、『クッキー……?』と呟く。


「はい、とても美味しいですよ。それに看病もお疲れ様です」


さらに、労ってみる。実際はお姉さんが何をしたのかはわからないが、とりあえずご機嫌くらいは取っておこう。


これでお姉さんの機嫌も少しは良くなるはず、と思っていたが。

お姉さんは目をぱちくりとしただけで、渡したクッキーも持つだけのまま。

完全に無言になってしまった。


あれ、起死回生の策は空回りしちゃった…?


私の手に薄っすらと汗がにじむを感じる。

なんとなく、まだ気まずい雰囲気が残っている。

クッキーはもうない。次の作戦も思い浮かばない。

どうしよう…。

これでユーステス樣が運よく起きてくれて場の雰囲気を変えてくれたら嬉しいのだが、残念ながらユーステス樣は起きそうにない。

このままではいけないがどうしようか…と考えあぐねたその時。


「おいカメリア!!そっちにいるのか!?」


いつも私に小言をいうあの声が、私の鼓膜を震わせた。

この声は…イヴァン!?

予想外の救いの声に、思わず扉まで走って両手を付ける。


「イヴァン!イヴァンだよね?!」

「ああ、僕だ!いいから、早く扉を開けてくれ!!」


私はほっと胸をなで下ろす。

何故開けたままでいたはずの扉が、いつの間にか閉じているのかは謎だが、確かに扉の向こうから聞こえる声はイヴァンだった。


「今開ける!」


ドアノブ回しながら扉を開けつつ、はっとしてお姉さんの事を思い出して振り返る。

しかし、振り返った先を見ても。

まるでそこに人がいなかったかのように、お姉さんの姿はどこにもなかった。


「あれ?確かにいたはずなのに…」


いつの間に?なぜ消えてしまった?

私は訳が分からず、一瞬茫然としてしまう。


「何!?何かいたのか!?」


イヴァンの怪訝そうな、でも少し怒ったような声が響く。

あ、これ般若みたいに起こった時に出る声だ。

私の胃がきゅっと縮む。

現在、なぜかマナー講習をイヴァンから喰らっている私にとって、般若顔の顔は結構苦手なのだ。

お姉さんの事も気になるが、まずはイヴァンの怒りを鎮めるのが優先である。

ゆっくりとイヴァンに向き直って、そしてイヴァンの表情に私は目を見開く。


そこには、いつも見るイヴァンではなく。

泣きそうな、私の初めて見るイヴァンの姿がそこにあった。金髪の髪は少し乱れ、私と同じ黄緑の瞳は潤んでいる。よくよく見ると、まるで捨てられた子犬のように身体を震わせていた。

「どうした?」と私が話しかけるよりも早く、イヴァンが一気に喋り始める。


「探している最中にユーステス樣の姿が確認できないと連絡がきて、しかも、その直後にトイレに行ったきりお前が戻ってこないと、案内をした使用人からも言われ、それで誘拐されたと、」


言葉に詰まりそうになりながら、イヴァンは必死に状況を説明し始める。

ん?私が戻ってこなかった?しかも、誘拐?


「え?」


予想外の言葉と情報量に、今の私はそれだけしか言えなかった。

私は確かにトイレから出たし、使用人さんの方がその場にいなかったのだが…。

だが、今のイヴァンを見ているとそんな余計な事を言える雰囲気ではない。

とりあえず、イヴァンにきちんと今の状況を説明するのが良い気がする。


「いや、迷子にはなったけど…。でも、ユーステス樣ならそこに」


ベッドを指差しながら説明を始めようとしたその時、ベッドから「んっ…」弱弱しい声が。

私達二人は話を中断し、すぐにベッドへ駆け込む。

「ユーステス樣、大丈夫ですか?!」「王子、お身体は!?」と一気に詰め寄る。

褐色の瞼は、やや弱弱しく動きながらゆっくりと開かれた。

アイスブルーの瞳が徐々に見えてくる。


「……?ここは…?」


まだ苦しそうではあるが、ユーステス樣は目を覚ましたようだ。

イヴァンも私も、安心のため息が漏れる。

とりあえずは一安心だ。ちらりとイヴァンを見る。

目的のユーステス樣を見たことで、イヴァンは冷静さを取り戻しつつあるようだ。

一方で、ユーステス樣は目を覚ますとすぐ、無理に体を起こそうとして少しバランスを崩す。

「あ、まだ無理して起きないでください」

バランスを崩したので、反射的に私はユーステス樣の背中をそっと支えた。


支えられてもまだ少しボーッとした虚ろな表情をしたユーステス樣だが、だんだんと霞が取れてきたのか、瞳に生気が戻り始めている。

アイスブルーの瞳に、私の姿がくっきりと移ると。

その瞬間、予想外の事が起きた。

先ほどまで起き上がるのも困難だったユーステス樣が突然軽やかに動き出し、私に思いっきり抱きついてきたのだ。


「!?」

「なっ、」


私は突然抱き着かれた事があまりにも突然で、驚きすぎて言葉を失ったがイヴァンもそれなりに驚いたようで「なっ」と言ったきり言葉を発することはなかった。


思わず「離れてください」と言おうとしたが、気が付けばユーステス樣はまた寝てしまっていた。本当はカンナの事もあるので正直離れたかったが、体調が悪いので無下には出来ない気持ちもあり「もうこのままでいいか」とそのままにしておく事にした。


その後すぐ、憲兵さんやら使用人さんやら、果てはお父様に国王夫妻までやってきて、この部屋は数分でキャパオーバーになった。

ユーステス樣はすぐに私から剥がされると、そのまま医務室へと運ばれていった。


ちなみにお父様はユーステス樣と入れ替わるように

「カメリア~~~~!!!よかったあああああ」

と鼻水だらだらの泣き顔で私を抱きしめ、私はちょっとドレスが汚れる羽目になった。


これにて、ユーステス樣と私の失踪事件?は幕を閉じることになったが。

私には、まだモヤモヤする事があった。

人気のなかった理由。

ループする感覚。

唐突なアップルティーのような匂い。

そして、急に消えたあのお姉さん。


あれは一体、なんだったんだのだろうか?


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