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(2)カメリアと始めてのルート回避

『イル・フィオーネ ~魔法と恋の物語~』


舞台は十八世紀のヨーロッパの一国。『魔法が科学よりも進歩した世界』を背景に、主人公である孤独な平民の少女・リリィが偶然にも魔力を発現してしまう事から物語はスタートする。

科学より進歩した魔法であったが、魔法の分類が『地』『水』『火』『風』『空』がある事だけがわかる以外まだまだ未知数な力であり、リリィの魔力はその中でも稀な『空』の魔力だったため、特例として平民の出自でありながら魔法学校の名門『イル・フィオーネ』に入学する。そこでスペックの高いイケメン達に囲まれながら誰かと恋に落ち、一緒に過ごしていくうちに本当の愛を知っていく…というストーリーの乙女ゲームである。最初はただの携帯ゲームだったが、口コミから人気に火がつき、前世の私の世界ではアニメ化も決定した乙女ゲームだ。


攻略対象は通常+隠しキャラの私も含めて全部で五人いる。

だが、ここでは私の死亡エンドに関連する二人だけをピックアップしよう。



まず、イヴァン・クラウディア。

名門貴族・クラウディウス公爵家の分家にあたるクラウディア公爵家の嫡男。サラサラの金髪に黄緑の瞳が特徴の美形。名門貴族の次期当主としての重圧とプライドから自分にも他人にも厳しいが、根は優しく思いやりのある一面も持つ。主人公と出会う事で、自分自身を蝕んでいた重圧とプライドから解放され、本来の持っていた優しい自分を取り戻していく。魔力は『地』。普段の一人称は「私」だが、素が出るとうっかり「僕」になってしまうなどのエピソードを持つ天然キャラでもある。ライバルキャラはカメリア・クラウディウス。イヴァンとカメリアは父方の従兄弟の間柄である。


次に、ユーステス・ヴェルエステ。

国の第二王子であり、銀髪碧眼の正統派顔の王子。国内中でもトップクラスの魔力を有している。しかし、自分の魔力をうまく制御できず、幼少期に起きた事件から、本来の白い肌が魔力の暴走によって褐色の肌となる。本来の性格は温厚だったが、褐色の肌になって周りの目が変わった経緯から腹黒い性格に成長。その一方でありのままの自分を素直に受け入れ、どんな時も変わらずに接してくれる主人公を本気で愛するようになり、最終的には魔力を完全に制御し本来の自分の姿を取り戻す。魔力は『風』。ライバルキャラはカメリア・クラウディウスで二人は政略結婚を前提とした婚約者の間柄である。


最後に隠しキャラ、カメリア・クラウディウス。

四人の攻略対象を全て『友情エンド』でクリアした時に初めて現れる攻略対象。ユーステスを婚約者に持つ傲慢で我儘な公爵令嬢。腰まで長い黒髪に黄緑色の瞳で容姿はギリギリ上の下。主人公が家族の墓参りへと墓地へ訪れた際に、椿の花束を供えて静かに泣く彼女と偶然出会う事からスタートする。それをきっかけに少しずつ交流を深め、主人公は後に彼女が『正体不明の謎の魔力』を有し、ずっと悩んでいた事を知る。それでも持ち前の明るさで変わらずに接し親密になっていくが、周りに謎の魔力がばれて彼女は危険人物として拘束、さらには王子の婚約者でありながら他の想い人と通じていたと判明し、不敬罪により処刑される事になる。彼女が亡き後、「死んでも貴女を愛しているわ」と彼女の墓の前で主人公が椿と供え涙を流す…というラストで攻略達成となる。




………とまあ、思い出せる範囲のゲーム設定ではこんな感じであるのだが。

正直言ってやりきれない気持ちだ。

確か、通常キャラの場合は二人目の攻略対象であるエドワードが卒業する日までが攻略期間となっている。カメリアルートは本当におまけルートみたいなもので、確か卒業式を前日に控えたおめでたい時期に処刑されるはずである。

周りのみんなとしては「危険人物がいなくなったぞバンザーイ」って感じだが、カメリア本人からしてみれば死んでも死にきれないオチである。

ちなみに通常のイヴァンルートとユーステスルートでも、彼女の最後はかなりやばい。

というよりライバル令嬢の時でも隠しキャラの時でも、どっちにしても死亡確定エンドである。

せめて違いがあるとするならば、イヴァンルートの時は主人公に対する迷惑行為から家族の方から絶縁を言いわたされたのち僻地で孤独死。

ユーステスルートの場合は主人公が王子の婚約者にとって代わろうとするのが許せずカメリアが襲い掛かり、それをユーステスが颯爽と守りあえなく失敗、カメリアは犯罪者として投獄され獄中死である。ちなみにこれはハッピーエンドの方であり、バッドエンドとなる

と、二人に直接手をかけられて死ぬのである。

「はぁ…」

思わず溜息が漏れる。

そして怒りのゲージがぐんぐん上がっていく。


いやいやいや。どれだけカメリアを殺したいんだよ。

怒りのせいで拳にぐんぐん力がこもる。

隠しキャラになってまで、『ラストは死亡エンド』って聞いたことないわ‼

それともに何か?ゲーム制作者の中に彼女を女に取られた男でもいるのか?

「せめて二次元の中でだけでもぶっ殺してやる」ってやつか?

ほんと制作会社を訴えにいきたいわ‼名誉棄損もいいところだわ‼

ただでさえ学園に入学するより前の年齢に前世の記憶を思い出したからいいものの、これで学園生活がスタートしていたもんならまた転生した暁には半殺しにしてや―――


「…い、おい、聞いているのか?」

「って……え?」

すっかりゲーム制作者への怒りでいっぱいだった私だが、不機嫌さを帯びた声にさっきまでの怒りは引っ込んでしまった。

声をあげた主を見れば、「まったく情けない」と呆れ顔をしている。

記憶を思い出す前の私であったら、その言葉にすぐさま反論しただろう。

だが、さすがに精神年齢は十八歳。

おまけ前世では庶民だった事実を知った今となっては、小学生相手にそんなこと恥ずかしすぎてできなかった。

おまけに、自分よりも可愛い子に反抗なんて私にできるわけもなく。

「すみません、聞いていませんでした……」

素直にイヴァンに謝る事にした。

予想外の返答だっただろうか、一瞬目を丸くして驚いた表情をしたイヴァンだったが、まるで思い出したかのようにすぐさま先ほどの不機嫌顔に戻っていた。

ああ、さっきの顔の方が可愛いのに…。

思わず言いそうになるのを、グッと堪える。


まあ婚約を即決で断るほど嫌いな相手と再会となれば、不機嫌になるのも無理はないが……。

彼は何の用でやってきたのだろうか?

婚約の話はすでに破談になったし、しばらくは会う事もないと思っていたのだが。

とりあえず訳を聞こうとした私だったが、イヴァンの方が先に答えを教えてくれた。

「……お前を訪ねて、ユーステス樣がお見えになられた」

一瞬イヴァンの言葉を理解できず、私の脳内には?マークが浮かぶ。

「……はい?」

ゆーすてす、さま?

それって私がぶち壊したお茶会の時に会うはずだったあの王子?

あの王子の顔が頭に浮かぶ。

だが、最初に見た頃の気持ちはもう出てこなく、むしろ自分の死亡ルートに関わるとなると今の私には死神の使いにしか見えない。

むしろ、ただでさえイヴァンに対してもびくびくしているのに、これ以上心臓に悪い出来事はご勘弁である。

「…人違いとかでは?」

僅かな可能性にかけて聞いてみる。

「人違いはありえない。突然来訪してきたのには驚いたが…」

ばっさりと否定された。

え、でもあれ以降、王宮からの連絡はまったくなかったぞ?

急に自分の立場を思い出し、血の気が引くのを感じる。

…まさか、橋を壊した罪とかで私を捕らえにきちゃったとか?

やばい。これは相当やばいのでは…?どうしよう…‼

一人歩きの想像により混乱する私。

その様子を見ていたイヴァンだが、どうやら彼も私の様子には納得しているようだ。

溜息をつき、手で額を抑えている。

確かゲームの設定では、この行為は彼が何か困ったときによくやる癖だったはずだ。

うわあ…ここはマジでゲームの世界なんだ…。


まだ混乱する私をよそに、イヴァンは腹を括ったのか。

額に当てていた手を離すと、くるりと向いて退出しようと歩き始める。

私も思わず、その後に続くようにベッドから降りた。


「とりあえず、先に私が戻ってユーステス樣のお相手をする。お前は急いでメイドを呼んで謁見用のドレスに着替える準備を――」

「その必要はありませんよ」

部屋を出ようとしたイヴァンの会話を阻むその声に、私の背筋にゾクッと悪寒が走り、思わず身体が固まる。

この声は、池のほとりで聞いたことがある。

でも、二度と会う事もないから、もう聞く事もないと思っていた声だったが…。

むしろ、王子が自分を死亡エンドに導く存在と分かった今では一生会いたくないと思っていたが…。


ちらっとヴァンの方を見てみると、イヴァンも私と同じ様に固まっていた。

背中しか見えないが、明らかに私と同じように動揺したようだ。


やっぱり血の繋がった従兄弟なのだな。まさかここで私と同じ反応をするなんて。

さっきまでのきつい印象が薄れそうである。

いや、今は悠長にしている場面ではない。

イヴァンの奥に私の姿を見つけた美少年は、嬉しそうに微笑んだ。

「是非ともお会いしたくて、お見舞いも兼ねて参りました。初めまして、カメリア嬢」


褐色の肌を持つ銀髪碧眼の王子、ユーステス・ヴェルエステ。

カメリアを死亡エンドに追い込む、ゲームの攻略対象。

微笑を浮かべる王子様に二度も会えるなんて本来はきっと奇跡なのだろうが、自分の立場が分かった今となっては地獄をもう一度見てしまった気分だった…。



*****



「僕と彼女の二人きりにしていただけませんか?」

と死神のつか…ユーステス樣が言ったためにイヴァンはすぐさま部屋を退場してしまい、私の精神は崖っぷちまで追い込まれている状況である。

これほどイヴァンがいない空間を切望した事はないほど、追い込まれている。


ユーステス樣は「すぐにお見舞いに行けず申し訳ありません。」だとか、「元気そうで何よりです。」と会話を投げかけてくれる。

だが私としては「二度と会わないと思っていたので気にしないでください。」だとか「貴方様が訪ねてきたものだから恐怖を感じております。」などうっかり言ってしまいそうだったので、首を振って返事をするのがやっとだった。

もちろんお茶会の話や橋を壊した話なんて、後から何を言われるかわからないから、話題に出て欲しくない気持ち一杯である。

ここがゲームの世界なら、彼とはこの先婚約者の間柄になる運命だが、そのさらに先の死亡エンドを考えるとなると丁重にお断りしたい気持ちでいっぱいである。

私とて、毒のあるフグをおいしいから食べようとは思わない。


それに、忘れそうになるが私には前世から心に決めた想い人がすでにいるのだ。

ずっと好きだった相手と二度と会えないとわかってはいても、だからといって自分の心を簡単に変えるつもりは一切ない。

己の命と前世から続く乙女の恋心を守るためにも、婚約者なんてポジションは今のうちに回避するのが得策である。


「カメリア嬢?やはりまだ体調が優れませんか?」

「え?」

私があまりにも無言なので、体調がまだよくないと思ったのだろう。

身体の方はすこぶる元気で、どちらかというと精神的ダメージからの疲労できついです。

でも、そんなことは言える訳もなく。


「いえ、体調の方はご安心ください。最初の頃は発熱できつかったのですが、今は平熱まで下がりましたし。むしろ、先のお茶会の件ではご迷惑をおかけし、すぐに謁見して謝罪することもできず大変申し訳ございませんでした。」

とできるだけ令嬢を装いながら、ぺこり頭を下げた。   

元々きちんと謝罪をしないといけない立場でもあるし、何よりこれ以上面と向かっていたら本当に精神崩壊しそうである。

いわば、タイムってやつだ。


「いえ、お顔をあげてください」

と言いながらさりげなく肩に触れるユーステス樣。

これが他の令嬢だったら黄色い悲鳴をあげるだろうが、私個人としては断末魔をあげそうである。

思わず目をきゅっと閉じる。

これがせめてカンナだったら、私も黄色い声をあげるだろうに…。

いや、そしたらカンナに怪しまれるだろうからどちらにしてもできないか。


というか、私が怖くて顔を上げないからもあるかもしれないが、王子様、私の肩に触れる時間が長くないか?

このままお茶会の責任を取ってもらうために、私が逃げる前に先手を打っているのか?

とりあえず怖すぎるので、手をどけてもらわなければ…⁉


そっと目を開きつつ、

「あの、できるなら手を放していただければ――」

と言ったところで、アイスブルーの瞳と目が合った。


どこまでも透き通るほどの青さに「こんなにキレイだったっけ?」と驚いたが、それを映えさせていたのは銀髪ではなく真っ白な肌だった。

あれ?肌、白かったっけ?

「先ほどは褐色の肌だったはず……」

思わず、心の声が漏れる。だが、ユーステス樣自身もご自分の肌色に気が付いているようで、突然の色の変化に頭が追い付いていないご様子だ。

確かゲームでは褐色の肌は魔力を制御できない事が理由で、魔力を制御できるようになったのは学園に入ってからのはずだ。偶然にも今、魔力を制御できたのだろうか。

ユーステス樣はそっと私の肩から手を放し、座っていたソファにすとんと座る。

白い肌はこのままなのだろうかと思ったのも束の間。

まるで指で押した肌が本来の色に戻るかのように、真っ白な肌は再び褐色の肌に戻っていった。

ユーステス樣は自分の褐色の腕を眺めると、悲しそうな表情を浮かべた。

その表情は、かつて見たあの時の表情とやけに似ていて…ほんの少しだけ、私の胸は熱くなった。

だから、相手がこの国の王子だという事も忘れ、思わず前世の頃の自分の口調に戻ってしまった。

「白い肌の時もいいけど、褐色の肌の時も変わらずに素敵ね」

「…え?」

どこか弱弱しい声とともに、悲しみだけだった表情に驚きが混じりあう。

そうだ、この表情。

あの時のあの子も、確かそんな顔してた気がする。

思わず、笑みがこぼれてしまう。

この人はカンナじゃないし、素直に言ってもいいかも。


「ユーステス樣と同じように、肌の色が急に変わってショックを受けていた人がいまして…。でも、その子、肌の色が変わっても相変わらず綺麗で…。むしろ私としては新たな魅力を発見?した瞬間で…。あ、今のユーステス樣を見て、あの子以外にもそう思える人に会えると思ってなかったから、びっくりして…。それに、男の人なのに、思わずキレイだな~と」


そうだ。思い出した。

カンナがそういう顔した事があったんだっけ。

初めてカンナと海で遊んだ帰りの事。カンナが日焼け止めクリームを塗り忘れて日焼けして、それを不安がった事があったのだ。

カンナの両親曰く、今はかなり良くなったらしいが、幼い頃の彼女には紫外線アレルギーがあったらしい。

幼い頃はそのせいでかなり大変だったと聞いてはいた。

今まで当たり前のようにやっていたケアを怠ったために「肌色が戻らなくなったらどうしよう…」と初めての経験に不安を感じた時があったのだ。

でも、私個人としては健康的な焼け具合だったし、カンナのいう「真っ黒」の数倍黒い男子達をさんざん見てきたので、そんなに悩む事はない、大丈夫だよと言ったのだ。

結果として、カンナはきちんと病院にもいって大丈夫と太鼓判を押されて一安心。

むしろ私個人としては不謹慎だが、いつもとは雰囲気が違うカンナにドキドキとしたものだ。

さすがにユーステス樣のようにストレートに素敵だと言えず、何重にもオブラートに包んで言ったのだが。

ストレートに言えなかった理由は、私だけの秘密だ。


懐かしい思い出だな~あとカンナ意外と胸が大きくて思わず凝視してたな~

ユーステス樣がいる事も忘れ、つい思い出してにやにやしてしまう。

すると、ユーステス樣は目をぱちくりさせた後、「ふっ」と鼻で笑い、それからどうしてか思いっきり笑い始めた。


え?なんで笑うの?もしかしてそんなに可笑しな話をしちゃってた?

って私、王子相手にタメ口使っちゃった…?

リアル不敬罪してしまった⁉

もしかして怒りを通り越して笑ってる?もしかしてお縄になっちゃう⁉

だからさっきまでボロが出ないように首だけで返答していたのに、私のアホ…‼


あたふたしている私を見てさらに笑い続けるユーステス樣。

その後に何とか笑いを抑えたユーステス樣だが、「カメリア」と、とうとう私に対しての嬢付けまでやめてしまった。

これはお怒り確定かもしれない。

まさか前世の記憶を思い出して、たった数日で事態が悪化するなんて…。


あまりにも早すぎる死期の訪れの予感に、私は茫然とするしかなかった。

そのままお立ちになられるので使用人でも呼びに行くのかと思ったが、ユーステス樣は私に近づくと私の手をそっと両手で包み込む。

あれ、どうして手なんか握るの?

ふと顔をあげてみると、そこにはさっきの笑顔とは雰囲気が少し違う笑顔がそこにはあった。

なんか、さっきよりも慈愛に満ちた感じだ。

先ほど笑い過ぎたのだろうか、少しだけ顔が赤い。

あ、笑うと顔が赤くなるタイプなのか。ゲームにこんな設定あったかな?


「カメリア。初めてお会いした貴女にこんな事を言うのはおかしいかもしれませんが。

……どうか、これからは僕の事を『ユーステス』と呼んでいただけますか?」


ユーステス樣の言った言葉は確かに聞こえていたが、一瞬、理解ができなかった。

………え?

今、『ユーステス』と呼んでって言った?

マジ?呼び捨てオッケーって事?でもそれってどういう意味?

………あ、これってもしかして『お友達宣言』?

もしかして手を握っているのって、握手のつもり?


「け、敬称を付けずにお呼びしてもよろしいのですか?」

念のため、確認も兼ねてユーステス樣にお聞きする。


「もちろん、私も貴女の事を『カメリア』とこれからはお呼びしたいので」


王子様はさっきの悲しみとは打って変わって最高潮にご機嫌だ。

とりあえず、怒ってないって事だよね?

なんだ~。てっきり死刑判決を言い渡されるくらいの覚悟だったが、ここへきて「お友達になってください」宣言をされるとは‼

目上の人を呼び捨てするのは恐れ多いけど、せっかく相手が「いいよ」って言ってる事だし、さっき悲しい顔していた人をしょんぼりさせるのは悪いよね…。


それに、もしかしてお友達になったし、お茶会と橋の弁償も水に流していただけるかも!

男で美形の友人は今までいなかったし、王子様を友人に持っていて絶対損はない。

しかも『友達宣言する人』を『婚約者』には選ばないだろうし!

それならば、話は早い。私も笑顔で返答を返す。


「えっと、もちろんです!これからもよろしくお願いします。…ユ、ユーステス。」


焦って名前を噛んでしまった…。

いや、これからは友達だし!これくらいどうってことないだろう!

主人公との恋だけは私が死んじゃうから応援はできないけど、それ以外は友人として協力するからね!

私の言葉に満足したのか、ユーステスはとても嬉しそうに笑った。

彼はどっちの肌色でも美しく見える。美形ってすごいな。

それにさっきの悲しい顔も憂いがあって良いが、私としては笑っている方が好ましい。


「そうしましたら後日、正式な書類を送らせていただきますね」


とってもにこにこしながら、書類なんて言葉をさらっと出してくるユーステス樣。

書類?となった私だが、「本当はお茶会の後すぐに渡すべきでしたが…」との発言に、私は思い当たるものを見つけた。

あ、書類って、『橋の請求書』か。

お茶会の後に私がもらいそうな書類なんて、それくらいしか思いつかない。

やっぱり、友達になったから「無料で」という訳にはいかないよね。

そこはケジメをつけなくてはね。うん。

『親しき中にも礼儀あり』ってことわざもあるしね。

「わかりました。書類に関しては必ず同意するとお約束します」

いよいよ本格的にお父様に土下座しに行かなくてはいけないな。

でも、これで婚約者の道を回避できて長生きできるなら安いもんだ。


「ありがとう、カメリア」


ユーステス樣は相変わらずの笑顔。

いえいえ。こちらこそ、どういたしまして。

災難ばかりだったが、これでようやく幸せな生活をすごせるぞ!

今日はパーティーを開きたい気分だわ!

……………ところで、いつまで私たちは握手をするのだろうか……………?

結局、イヴァンが数分後に様子見で部屋に戻ってくるまで、私たちは友情の握手を交わす事となった。





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