(9)カメリアと追いかけっこの終着点
お待たせしてすみません!
次回は長めになると思います!!
「はぁ…はぁ…。ローズちゃん…足早すぎでしょ…」
私の名前はカメリア・クラウディウス。
前世は沖縄の離島に住んでいた女子高生。
今世ではライバル兼隠しキャラなのですが、残念な事にハッピーエンドでもバッドエンドでも、おまけに隠しキャラルートでも死亡エンドの公爵令嬢。
しかし!
私には前世から心に決めたカンナという想い人がいるのです!
ずっとカンナを一生想っていたい!!
だからこそ、死亡エンドなんて華麗に回避!!!
カンナのためにも、一生独身を貫いていくぞ!!!!
そんな私は現在、訳あって美少女・ローズちゃんを探しておりますが……早くも挫けそうです。
*****
ローズちゃんを探してクラウディウス邸の玄関へとたどり着いた私だったが、ローズちゃんはいなかった。
近くで庭仕事をしていた若き庭師のトーマスさんに尋ねてみたが、残念ながら女の子どころか誰も玄関を通っていない事がわかり私はしょんぼりする結果となった。
でもトーマスさんはそんな私を可哀そうに思ったのか、現在はイヴァンに禁止されているお菓子を内緒でくれた。
実は私、三日前からイヴァンのマナー講習で居眠りしちゃって、一週間お菓子禁止令を出されているのだ。
しかもご丁寧にお父様だけでなくクラウディウス家の
使用人さん達にも、次期当主の権限をフルに使って私にお菓子をあげないように手を回すものだから末恐ろしい。
イヴァンっていつの間に小姑どころか、母親みたいなポジションも兼ねるようになったのかしら?
確か、イヴァンは私と同じように幼少期にお母樣を亡くしているはずだ。
私的には、お母様ポジションはローラみたいなもっと優しい人がよかったが…。
お菓子をもぐもぐ食べながら、玄関をスタート地点に私はローズちゃん探しを再開する。
トーマスさんの話が本当なら、ローズちゃんはまだクラウディウス邸のどこかにいるはずだ。
さっきまで私達がいると考えてローズちゃんが東館エリアに戻る事はないだろうが、それを省いたとしてもクラウディウス邸は無駄に広い。
本館・西館だけでなく、西館の庭園や本館裏にも果樹園が広がっている。
きちんと広さを聞いたことはないが、私が将来通うであろう魔法学校の名門『イル・フィオーネ』の三分の一はあるかもしれないぞ、とお父様言っていた気がする。
「初めて自分の家が大きい事を後悔したわ…」
溜息の代わりにチョコレート、マカロン、苺ソースのかかったマフィンを食べつくし、トーマスさんからもらったお菓子はクッキーが一枚となっている。
本当はローズちゃんのために半分くらいは残しておこうと思っていたが…食欲というのは恐ろしい魔物だ。
これ以上食べてしまえばローズちゃんにあげる分が無くなってしまうので、己の誘惑を押さえつつ、私はもらったお菓子袋を静かに閉じた。
結構疲れていたが、お菓子のおかげで体力もばっちりだ!
お菓子袋をポケットにしまい、私は次の目的地をどうするか考える。
本館裏の果樹園はあまりにもだだっ広いし、日が暮れてしまう。
東館エリアをもう一回探すという手もあるが、それで無駄足になるのは嫌だしな…。
色々と考え、私はとりあえず西館エリアを回る事に決めた。
一番遠目のエリアだが、先に動いた私が西館エリア探している間に、もしかしたらイヴァンやユーステス樣が本館や東館付近で先に見つける可能性もあると思い至ったのだ。
根気のいる作業になるが、これも美少女のためだ。
『やったるどー!』とガッツポーズをして気合を入れたその時、何やら焦げ臭い臭いが鼻をついた。
臭いの元は、どうやら私が向かおうとしていた西館エリアから漂う。
漂うというより…え!?なんか煙立ってませんか!?
私はギョッとして目を大きく見開き、煙がどこから立っているのか確認する。
本館から西館までは回廊を通るので少し距離があるが…西館エリア付近から真っ黒な煙が立っているではないか!?
クラウディウス邸の雰囲気は、煙が立っているのに驚くほどのんびりとしている。
もしかしたら、誰かが火の始末を怠ってしまったのか…?
いや、家の使用人さんってそんな不用心な人いないけどな…。
てか私が不用心すぎてイヴァンに一番怒られては、最近雇われたはずの新人の使用人さんに慰められたし…。
そこまで考えて、私はローズちゃんがこの屋敷に初めて来た事を思い出す。
私やイヴァンやユーステス樣は慣れているからいいとしても、ローズちゃんは右も左もわからないこのだだっ広い屋敷を彷徨っているのだ。
万が一あそこにローズちゃんが居たとしたら…それこそ大変だ。
火傷や擦り傷など、美少女に傷跡を残すような事態になれば、きっと私の美少女大好きプライドが許さないだろう。
ん?美少女大好きプライドって何だろ?
自分で言っておいてなんだが、今の私変態みたいだな…?
余計な事を考えていたせいか、さっきよりも煙は幅を大きくし、より黒さを増している。
私はローズちゃんが安全である事を祈りながら、西館エリアに向けて猛ダッシュで走り始めた。
*****
身体が、焼けるように熱い。
喉の渇きどころか、喉そのものが焼けてしまうのではないかというほど、水を欲している自分がいた。
私の中に宿っていた炎の魔力は、まるで私を拒んで逃げていくかのように座っていた大木だけでなく、その近くの草花も巻き込んで盛っていた。
人が炎で燃える時大半は叫びを上げると聞いた事があったが、実際の私はそんな事さえもできず、悶えていた。
どうしてこうなってしまったのかはわからないが、なんでこんな参事になっているのかは何となく察していた。
目の前で涼しい顔をする人ならざる者が、その証人だった。
*****
『お前が、カメリア・クラウディウスか?』
大粒の涙を止めようと必死になっていた時、それは音もなく現れた。
声のする方に涙目の視線を送ると、そこには無表情だがゾッとするほど美しい人がいた。
でも、それが人ではないと理解するのに時間はかからなかった。
見た目はイヴァン様よりもほんの少し短めの金髪で、瞳の色は珍しくお兄様と同じアメシストのような紫色。透き通るような白い頬と整った中性的な顔立ちはどこか妖艶さを持っているはずなのに、神聖さも併せ持っている。
しかしやけにとんがっている耳と、魔力が弱いはずの私でさえも感じられる魔力の圧迫感が、目の前の存在はこの世の者ではない、と私の本能に向かって命令しているように感じられた。
それに、どうして私の事をあの令嬢だと思ったのかしら?
確かにここはクラウディウス公爵家の屋敷だけど、私は「紅色の天使」と称されるローズ・ド・モンテスキュー伯爵令嬢だ。
目の前の存在の美しさには確かに負けるけど、だからと言ってあの令嬢に間違えられるなんて。
そこまで私は、落ちぶれていない……!!
多分、これは嫉妬と僻みからくる感情だろう。
それらが私の中に押し寄せた時、目の前の存在への畏敬を忘れ、つい嫌味事を呟いてしまった。
「私を間違えるなんて…。とんだ勘違いさんね、あなた」
でも、今思えばそんな行為自体が間違いだった。
無表情だった美しい顔がほんの少しだけ眉をひそめて、手を私に向けてかざした時。
私の身体は突如、激しい炎の痛みに襲われた。
*****
突然の炎に混乱する私を無視し、それは口を開いた。
『お前がカメリア・クラウディウスでなければ、用はない。しかも私が高貴な存在と知らずも、暴言を吐いたのだ。結界も張っている。誰も助けには来れん。』
そして、私を嘲るように口元を歪め。
『自らの火で、焼かれるがいい。』
まるで家畜でも見ているかのような冷たい声が、私の心の中に深い恐怖と混乱を埋め込んだ。
自らの火で焼かれる?
炎の魔力を持つ人間に、その言葉は理解不能だ。
なぜなら、炎の魔力を保持している人間はそんな事ができないように身体がコントロールする機能を元々備えているのだ。
勿論、感情が高ぶればそれに反応してうっかり炎が出る事もあるが、そんな事で死んでいたら、今頃炎の魔力を持つ人間は絶滅しているだろう。
でも、死ぬまでとは行かなくても自分を傷つけてしまう事はある。
私も昔、自分の我儘が通用しなくて炎を出し、自らを火傷させてしまった事があった。
そんな時は、同じ炎の魔力を持つ人さえいれば私の魔力を吸収してもらう事で解決できる。それは幼い頃、お兄様が教えてくれた解決方法だった。
*****
『同じ魔力を持つ人間は、相手の魔力を吸い取る事も可能なんだよ』
『ほかの人のまりょくを、すいとる?』
『そう。もちろん他人同士は難しいけど、家族みたいに血の繋がっている人なら火種は同じだから、吸い取りやすいんだ』
幼い私にもわかるように説明しながら、お兄様は私の火傷跡に塗り薬を施す。
『もし、ローズが何かの拍子で炎を止められなかったら、必ず兄さんが助けにくるから』
『ほんとうに?』
『本当さ。だってローズは、僕にとってただ一人の妹なんだから』
*****
「お…にい、さま…」
かつての記憶を思い出し、私は泣きながらお兄様を呼んだ。
でも、現実はとても残酷で、無慈悲だった。
さっきも言っていたはずだ。誰も助けにはこない、と。
まさかここで私の人生が終わるなんて。
お兄様の顔、お母様の顔、お父様の顔……ユーステス樣の顔。
死に向かう私は、自らが発する炎の中に愛していた人を投影させていた。
いや、どちらかというと幻を見ているのだろう。
でも、私はもう死んでしまうのだ。
この世の者ではない存在に対する不敬の償いとして。
せめて、愛しい人達の幻を見て、私は終わりたい。
炎と幻が混ざり合おうとしたその時。
予想外の顔が、炎を越えて颯爽と現れた。
「やっと見つけた!!!」
黄緑の瞳と、乱雑な切り口の短い黒髪。
頬は煤で汚れ、彼女が着けていたはずのドレスは、所々燃えてボロボロになっていた。
片手には汚れた小さな袋。
もう一方の手には……長い、黒色の髪の毛の束が。
それだけしかわからなかったが、それだけで理解できた。
彼女が…カメリア・クラウディウスが、私の炎を乗り越えてやってきた事を。




