表紙
全てのはじまりの日。
2週間程前から、クローゼットの中から物音がするようになった。
もそもそと布の擦れる小さな音が。
そして、それは決まって夜中に聞こえてくる。
皆さん初めまして。おはようございます、こんにちは。
夜見てる人はこんばんは。
僕の名前は大西樹輝、しがない専門学校生です。歳は20、最近一人暮らしを始めたばかり。
親、友人共に良好な関係を築いている、つもりです。
好きな物はカルボナーラとおもち、嫌いな物はトマトと肉。
見た目とか雰囲気は……クラスメイト曰く『背は高い方で少し垂れ目。何だかのほほんとしてる』だそうです。髪は高校を卒業してから、友人に勧められて金色に染めました。以前の髪の色の方が本当は気に入っていたんですけどね。
そしてこの頃、家にあるクローゼットから毎晩謎の物音が聞こえてきて困っています。
……べ、別にビビってなんかいませんよ!?
「…………」
…………ああ、まただ。
物音がした後、すぐにクローゼットの扉を開いて中を見回してみる。
しかしそこには誰も居ない。あるのは服や小さなテーブル、そして段ボールだけ。
まさか、そんな。
「ゆ、幽霊……?」
それは断じて無い。大丈夫だ。落ち着け、冷静になれ僕。
この家でかつて人が死んだだなんて話は聞いてないから。
否、そうじゃなくて……もう一つ気に掛かっていたことがあるのを思い出せ。
そう、物音が聞こえるようになってから、何故かぐっすり眠れるようになったのだ!この家に来てからと言うもの、昔の夢を観てばかりでロクに眠れていなかった僕としては有難い限りだ。
クローゼットから物音が聞こえる夜には、やけに良く眠れる――――そんな日々が続いていった。
「………綺麗だ」
12月の中旬。目覚めてカーテンを開ければ、そこは一面雪景色だった。どうやら初雪が降ったらしい。
枕元に置かれたスマホ、そこには『外見てみろよ、めっちゃ雪積もってるぞ!』という友人からのメッセージが入っていた。
トーク画面を開き、『今見たよ、かなり積もってるね。後でちょっと外散歩しようかな』と文字を手早く打ち込み送信する。「これは寒そうだなぁ……あ、そうだ」
部屋の中と外を二度見して、僕はぼそっと頷いた。
「こたつ解禁しよう」
そうと決まれば早速設置だ!
僕はこたつが片付けられたクローゼットへと一直線に向かい、豪快に扉を開け放つ。
「一年ぶりのぽかぽかこたつ……早く入りたいなぁ………あれ?」
クローゼットの上の段、そこに置かれた大量の服。
その中でも、特に着る機会が多いお気に入りの白いシャツの胸元が不自然に膨らんでいる。
「…………何これ」
首を傾げてシャツを持ち上げてみると、そこからシャツと同じ色をした何かが落っこちてきた。
一瞬、鳥の羽のようなものが見えたのは気の所為だろうか。
「…………!」「わ、わっ、」
床に落ちそうになったそれを、空いていた両手で慌しくキャッチ。
危なかった……と溜息を着き、僕は改めて両手に目を向ける。
「キュ……?」
そこには、何とも愛らしい鳴き声を上げる白い犬のような生き物が乗っていた。