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苦手な方はご注意ください。

さつまびと

作者: 新之介

 同作者が連載している別の作品『こころあつめる』が、丁度一周年を迎えたので、その記念企画として、この作品を書きました。


 それでは、妖怪と戦う男の物語への扉を開けるとしよう!


※ラストで、こころあつめるのあの人が登場しちゃうかも。

 僕はその日、初めて妖怪を目にした。


 身の丈を越える大きな巨体、蜘蛛のような複数の足、見上げれば般若のような恐ろしい形相の化け物。


 確か、あの人は『土蜘蛛』と呼んでいた、とんでもない怪物。


『ニンゲン~ナゼジャマヲスル? オレハ、ソノ娘サエ喰エレバオマエタチニ危害ヲクワエヌト言ッタハズダ~』


「ひっ!?」


「あー、悪いね。この人は俺の依頼主なんで、金を貰ってる以上、そう簡単には()らせねぇよ」


『グハハハハ! デハ、トモニ死ネ!!』


 土蜘蛛の鋭い爪が目の前の青年を襲う、しかし避ける気配すらない、あんな熊よりも大きな爪に切り裂かれたら、命がいくつあっても足りない。


 即死、喰らえば即死の一撃。


 だが、彼はその爪を『素手』で受け止めた。


『ヌゥ!? キ、キサマ!』


「ん? おいおい、爪の中汚いなぁ、ちゃんとお家に帰った後に石鹸で手洗いしてんのか?」


『オマエ! タダノニンゲンデハナイナ! 名ヲ 名乗レ!』


「.....刹間(さつま)、『刹間 龍朗(たつろう)』。刹間生活相談事務所所長だっ!」


 そして彼は、肩に担いでいた釣竿を入れるバッグの中から、一本の真っ黒な刀を取りだし、土蜘蛛の腕を薙ぎ払った。


『グ、ギャアアアアアア!! ナ、ナゼダ! オ、オレニ刀ナンテ通ジナイハズナノニ......ナゼコンナニ痛インダァァァァァ!! 』


 これは、昨日まで普通の生活を送っていたこの僕『蓮野(はすの) 修斗(しゅうと)』と、生身で妖怪と戦う謎の男『刹間 龍朗』の出会いの物語である。


 六時間前。


「おい、どこに目つけてんだ、あぁん?」


「す、すみません! すみません!」


 僕、蓮野 修斗は、絶賛不良に絡まれていた。


 僕の歳は16歳、普通なら高校生だが、今は高校を中退して、アルバイトで生活費を稼いでる貧乏生活をしている。


 それもこれも、一年前に、僕の唯一の家族でもある姉さんが、突如失踪、両親も引き取り手も居らず、一人取り残された僕は、高校に進学もできず、日々の生活費をアルバイトで稼ぐ毎日を送っていた。


「へへ、こいつかなり持ってるな」


「か、返してください! それは僕が稼いだお金です!」


「うるせぇんだよ!」


「ぐぇっ」


 だから嫌いだ。こう言う平気で人を傷付ける人が、このままでは今日の生活費が盗られてしまう。こんな名前も知らない暴力しか取り柄がない奴に、


 その時であった。不良の背後に、見知らぬ男性がいつの間に立っていた。


「よっ」


「あぁん? ぬがぁ!?」


 殴った。見知らぬ男性は、不良をいきなり殴った。しかも一発で気絶させた。何なんだこの人?


「危ないところだったな坊主」


「は、はい、ありがとうございます」


 ......うわ、助けてもらっておいて何だけど、この人見た目こわっ!?


 ボサボサ頭に、革のジャケット、腰のベルトから複数のお守りらしき物が大量にぶら下がってる。


 あ、怪しい。


「さて、少年、このままじゃ面倒だ。俺の事務所に来てくれないか?」


「え?」



「さ、『刹間生活相談事務所』?」


「そ、俺の事務所」


 流れで付いて来ちゃったけど、この人何なんだ? ま、まさか、ヤ〇ザと関わりのある人なのか?


 そのまま事務所の中へと案内された。外観も屋内も、至って普通の事務所だ。


「まぁ座れよ」


「は、はぁ......」


 怖い、なんでこんな事になってるのか分からない、そういや最近、アルバイト先の客からクレームを言われたり、犬のウ〇コ踏んじゃったり、野球をしていた小学生達の球が後頭部に直撃するなど、なんだか最近不幸続きではあったが、さっきの不良といい、この人といい、なんでこんな目にあってんだろ?


「自己紹介が遅れたな、俺は『刹間 龍朗』ここの所長だ。現在は従業員もアルバイトも誰も居ない。言わば俺一人で経営を切り盛りしてる」


「そ、そうですか......あ、僕は『蓮野 修斗』です。あの、先程助けて頂き、ありがとうございます。ですが、何故僕をこの事務所まで案内したんですか?」


 そう、やっぱりそこが気になる。ま、まさか、本当に裏社会の住人じゃないだろうな、この人。


「その前に一つ確認させてくれ」


「確認?」


「そう、最近君ってさぁ、『不幸続き』だったりしない?」


「え......」


 何故、その事を聞く? いやそもそも、これじゃまるで、今の僕の現状を的射ているかのような質問━━。


「......はい、その通りです。それが何か関係が?」


「あるね、君『つかれてるよ』?」


「疲れてる? ......確かに最近、全ての物事がマイナスに考えてしまうのは、僕が疲れてるのが原因でしょ。しかし、それには訳が、いたっ!?」


 ちょ!? いきなり消しゴム投げてきたよ、この人!?


「違う! 『憑かれてる』だ! 君が不幸なのは、悪い妖怪に取り憑かれてるのが原因なんだよ!」


 .......? 話が見えない、妖怪? 何言ってんだこの人? やっぱりヤバイ人だ。


「そ、そうですか、すみません、わざわざこの事務所にお招き頂いて申し訳ありませんが、僕はこれで失礼を......!?」


「いった~、何も投げる事はないじゃないか! もー!」


「う、うわぁぁあぁ!?」


 な、なんだ!? さっき刹間さんが投げた消しゴムから手足が生えたかと思いきや、しゃ、喋った!? しかも目らしきものまである!?


「な、なんですかこれ!? あ、そうか、小型ロボットか何かですね」


「違うわい! 僕は『ケッシー』。消しゴムの付喪神だよ!」


 とうとう疲れが表面化してきたか。危険だ、ここは危険な匂いがする!


「し、失礼し━━」


「おっと! 大丈夫、君?」


 うわ、なんだ? 事務所の出口に向かったら、OL風の女性が現れた! ......やわらかい。


「ちょっと龍郎。まぁた強引に客寄せしてんの? そんなんだから赤字続きなのよアンタ」


「あぁん? しょうがないだろう、こうでもしないと、いかにも軟弱そうなそこの少年が逃げ出すかもしれねぇだろうが」


 軟弱で悪かったな。



「やぁ、さっきは御免ね、このボサボサ馬鹿が」


「誰がボサボサだ」


「アンタの事よ」


 また椅子に戻された。しかも今度は見知らぬ女性まで現れたし、たぶんこの人はマトモ......と、信じたい。


「自己紹介が遅れたね。私は『日津神(ひつがみ) 舞香(まいか)』。普段は大学生をしてて、裏では『除霊師』を生業にしてるの」


 あ、この人もマトモじゃなかったorz


「で? 舞香、お前何しに来たんだ?」


「馬鹿ね。普段仕事がないアンタの為に仕事を持ってきてあげたんじゃないのさ」


 すると、舞香さんは鞄から一枚の封筒を取り出して、刹間さんに手渡した。


「......へぇ」


 わ、笑ってる。と、いうか、未だにこの人たちが何なのかよくわからない、妖怪だの付喪神だの除霊師だのと、ここはオカルト倶楽部か何かなのか?


「じー」


 しかも、さっきの消しゴムが、僕を凝視してる、もうやだ帰りたい。


「よし、んじゃ行ってくる。でだ舞香、その少年の事頼めるか?」


「私? ......聞くけど、君ってお金持ってる?」


「え? お金ですか?」


 お金、いくらだろ? てか、まだ払う気なんてこれっぽっちも━━。


「君は確かに妖怪に憑かれてる。それを私が追い払った場合のお値段は......ざっと10万円ぐらいかな?」


 は!? む、無茶苦茶だ! いや、ボッタクリだ! こんな訳もわからない事にこれ以上付き合いきれない!


「お前......こんな貧乏そうな少年から10万って、鬼か?」


「だったらアンタがしなさいよ。んじゃ、無理なら私帰るから、それじゃ~」


「あ、おい......ち、昔っから面倒な女だ......て、ん?」


 も、もう、もう無理だ。不幸もここまで極めるとこんなことになるのか......おしまいだ。


「......蓮野君」


「ふぁい?」


「俺も、多少は焦ってたのかもしれねぇ。今月金欠なものでな、妖怪なんて、そんなすぐに信用できないよな......」


「さ、刹間さん?」


 な、なんだ? 急にしんみりし始めたぞこの人。


「......てなわけで、俺に付いてこーい!!」


「えぇ!?」



「ぎゃぁああああああああああああ!!」


 誘拐だー! この人何処まで強引なんだよー!


 手錠嵌められた挙げ句に、バイクのサイドカーに放り込まれて、そのまま何処かに移動してるようだ。なんで手錠なんて持ってんだよ!


「ど、何処に向かってるんですかー!?」


「決まってる! 君に妖怪を見せてやるんだよぉ!」


「えぇ!?」


 一時間後。


 何処かの山の上にある、とあるお屋敷に到着した。なんとも立派なお屋敷だ。


「さってと、まずはインターホンを押すか」


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


「押しすぎぃ!! 何やってんすか!」


 いきなり嫌がらせか!?


 と、インターホンのマイクの部分から男性の声が聞こえてきた。


「......刹間様でありますね。噂は聞いております。どうぞ中へ」


 え? あ、あんな嫌がらせなインターホンで分かったのか?


「アレが俺流の合図だ。俺の仕事は特殊でな、依頼者には俺だと分からせる為に合言葉か、普通では分からない合図が必要だったりするんだ」


「そ、それがあのインターホンなんですか?」


「おう......(半分嫌がらせだがな)」


 ん? 今何か呟いたような......正直分からない、この人の仕事って、妖怪とかそんなの仕事何だろうけど、それに託つけた詐欺商法をしてるんじゃないだろうなこの人。


 流れでこの人に付いて来たけど、もしこの人が不審な動きを見せたら、僕がそれを阻止しないと!


「いやはや、よくぞ来てくださった刹間殿......おや? そちらの少年は?」


「何、俺の仕事を見学したくて付いて来ただけだ。気にするな」


 言った覚えはない。


 恰幅のよい男性に招かれて、僕らは応接室へと招かれた。


「実は、今回の依頼なんですが......娘が妖怪に取り憑かれてしまったようでして......」


「根拠は?」


「......最近、娘の容態が突如悪くなりまして、医者に見せたところ『マラリア』に感染してるとの事だそうです」


「マラリア?」


「え!?」


 日本でマラリアの感染? なんだそれ、アマゾンとかアフリカのような亜熱帯地域なら判るが、日本でマラリアの感染なんて聞いたこともない。


「マラリア、ねぇ、江戸時代の日本にも瘧病(おこりやまい)、つまりマラリアが存在していたが、1950年代には撲滅したはず」


 そう、確かに、海外からマラリアを持ち込まない限り、マラリアの感染なんてあり得ない。


 そう思っていると、刹間さんが少し悩んだ後にある質問をした。


「すみませんが、娘さんは今どちらに?」


「い、医師の診断で、今は病院に隔離されております......ですが、これはきっと、あの男の仕業だと私は睨んでおります」


「あの男?」



 はい、あれは先週の雨の日です。


 雨の中、2m以上の大男が私の屋敷を訪ねてきたのです。


「この家に娘は居るか?」


「な、なんだアンタは!? は、早く帰ってくれ!」


「いいのか? オレを追い払うと、災いが起こるぞ?」


「い、いい加減にしないと警察を呼ぶぞ!」


「......良かろう、では引くとしよう。代わりに災いを置いてゆくがな」


 大男はあっさり帰って行きました。何だったのか、私はそのまま屋敷に戻ると。


「!? おい! 何があった!」


 娘が高熱を出して廊下に倒れていたのです。


 最初は、ただの風邪か何かだと思いました。しかし、さっきの男の災いとやらが気になった私は、医師を呼んで診察させると、娘はマラリアに感染していたのです。


 偶然、そう偶然だと思いました。あの大男とマラリアは関係ないと、しかし、娘が通っている大学の友人に徐霊師をやっていると言う、何とも胡散臭い娘さんが居てな。彼女が言うには、私の娘の病は妖怪が関連してると。


 しかも、かなり強力な、彼女の手に負えない程の厄介な相手なので、知人の『専門家』を紹介するから、彼に任せてくれ、そう伺ったしだいだ。



「今日はどうなさいました?」


「はい、504号室の患者さんと面会したいのですが」


 僕達はあの後、依頼者の娘さんが入院している病院へとやって来た。


「大変申し訳ありません。その患者様とは、現在面会はできないのです」


「......そう、ですか」


「? 刹間さん?」


 あれ? 潔く身を引いたな。


「刹間さん、このまま帰るんですか?」


「何いっちゃってんのよ。ここまで来て引くわけないだろ?」


「え? え?」


 理解できない。急に外に出ちゃったぞ。


「ふぅむ、504号室はあそこか」


「? て、ちょぉ!?」


 いきなり病院の壁を登り始めたぞ!? しかも早っ!!


「! よぉし」


 何かを確認した刹間さんは、そのまま五階の高さから飛び降りて、着地した。


 ひ、膝大丈夫なのか? と言うか、病院側にメッチャ迷惑だ。


「蓮野君。今から一時間後に妖怪が拝めるぞ」


「え、なんでそんなこと分かるんですか?」


「ん? だって、もうすぐ夕方、日が沈み、夜になる境目の時間『逢魔ヶ(おうまがとき)』こそが、妖怪達が大好きな時間帯だからさ」


「??」


 妖怪が大好きな時間帯? 夕方が?


「こらー! そこの革ジャン! 今勝手に病院の壁を登ったでしょ! 警察に通報するわよ!」


「やっべ、蓮野君、一旦逃げるぞ!」


「ええ!?」



 一時間後、僕達は一度病院を離れて、再び病院へと戻ってきた。


 時刻は午後六時。日が沈みかけてる夕方の時間帯。


 僕達は病院を離れた後に刹間さんの事務所に戻って、何故か刹間さんは釣竿バッグを担いで、再び病院へと辿り着いていた。


 ......そのバッグの中には何が入ってるんだ?


「......もう閉まってるんじゃないですか?」


「いや......予想通り空いてるな」


 あ、本当だ。正面口が空いてる。そのまま刹間さんは普通に入るものだから、僕も後を付いて行くと......。


「うっ!?」


 病院のロビーに、大勢の患者さんと看護師さんが倒れてる!?


「だ、大丈夫で......」


「触るなぁ!!」


 ビクッ、となった、さっきから冷静沈着(?)そうな刹間さんがいきなり怒鳴るものだから、患者さんに伸ばそうとした手を思わず引いてしまった。


「全員マラリアに感染してる」


「ええ!? そ、そんな、なんで分かるんですか?」


「分かるさ、このマラリアは『本物ではない』からさ」


「???」


 本物ではないマラリア? 僕の理解を待たずに、刹間さんはどんどん病院の奥へと進んでいく。


「ま、待ってください! これは何がどうなってるんですか!?」


「まぁまぁ、そう焦るな、もう少しで会えるから」


「ふざけてる場合ですか! また妖怪だのなんだのと、ありもしないオカルト話持ち出すんですか!? 今はそんな......こと......」


 な、なんだ? 壁に、何か、糸みたいなのが、!?


「う、うわぁあああああ!!」


 ひ、人が、人が、喰われてる!? 糸に絡め取られた人が、子犬サイズの巨大な蜘蛛の化け物に喰われてる!!


「あ、ひゅ、た、すけ、て」


「うわ、あぁ、あああ、ぐえっ!?」


「慌てんなよ蓮野君。そら」


 逃げ出そうとした僕の首根っこを掴んだまま、刹間さんは、その蜘蛛の化け物を蹴り飛ばした。


 床に落下して、仰向けになったところで、刹間さんは蜘蛛を踏み潰して殺した。


「な、なん、な、こ、あ」


「く、くくく、蓮野君。ろれつが回らなくなってるなぁ」


 そ、そりゃそうだ! こんな化け物見せられたら、誰だってそうなる!


「これが妖怪だ。やっと信じてくれた?」


 僕は何度も頷いた。あ、そ、そうだ! さっき食べられていた人は......!?


「うっ!?  お、おぇぇぇ!!」


 駄目だった、遅かった、腹から臓物が大量に溢れでて、絶望に歪ませた表情で、その人は死んでいた。


 死体を見るなんて初めてだ。生まれて初めてだ。人の死が、こんなにも惨いものなのか?


「さ、刹間さんは、こうなること知ってたんですか?」


「知ってた」


「じゃあなんで! なんでこうなる事を病院側に教えなかったんですか!? 刹間さんが教えていれば......」


「ほぉ、言うじゃねえか、さっきまで妖怪を信じなかった小僧が」


「あ......」


 そ、そうだ、こんなこと、何も知らない人に話しても、信じて貰えるはずがない、さっきまでの僕がそれじゃないか!!


「......落ち込んでるところ悪いが、この人助けられるぞ?」


「......無理だ。だって、もうお腹があんなにズタズタにされて......」


「救える。今なら、俺の言葉信じられるだろ?」


「!」


 何故だろ? あれほど胡散臭かった刹間さんの言葉が、今なら心強く聞こえる。


 確証はない、だが、刹間さんが救えると言うなら救える、そんな謎の確信を得られるぐらいに、今の僕は刹間さんの事を信用できているんだと思う。


「うし、んじゃさっさと504号室に向かうぞ。そこに全ての元凶......がっ!?」


「え?」


 何だ? 何が起きた? 刹間さんが何かに突き飛ばされて、廊下をゴロゴロと転げ回っていく。


 刹間さんが何に突き飛ばされたのか確認しようと振り返ると、そこには2mを越える大男がそこに立っていた。


「あ、ひ」


 声が出ない。なんでこんな大男が近付いてくることにすら気付けなかったんだ?


「......まだ、平気な人間が居たか。まぁいい、あの男の娘に会いに来たのなら諦めろ。あの娘はオレの今晩のご馳走なのだからな」


 わ、分かった。こいつだ。こいつが、あの依頼主の男性が言っていた大男だ!


 今なら分かる、こいつは『人間』じゃない。


「あの娘に近付かないのならば、これ以上お前たちに危害は加えん、『オレ自身はな』」


「え?......ひぃ!?」


 い、いつの間にか、さっき刹間さんが殺した蜘蛛の化け物が、壁や天井を覆い尽くす程に沢山集まって来ている!?


「ふはははは、オレは手は出さないが、そいつらがお前達に手を出すであろう、ではさらば」


 大男が背を向けて去っていく、完全に大男の姿が見えなくなったところで、蜘蛛の化け物達がゆっくり、またゆっくりと迫ってくる。


「あ、あぁ、く、来るなぁ!!」


 く、喰われる、さっきの人みたいに、お腹を裂かれて喰われる! い、いやだ、死にたくない!


「ふ、くく、ははははは!!」


 後ろから大きな笑い声が聞こえたかと思うと、背後から数体の蜘蛛が吹き飛んできた。


「こ、れは?」


「いいねぇ、いいねいいねぇ、これだけの雑魚を使役できるって事は、アイツ相当の上物のようだなぁ!!」


 振り返ると、刹間さんが起き上がって、次々と蜘蛛の化け物を吹き飛ばしていく、しかも素手で。


「はっはぁ!!」


 殴り、蹴り、投げ、踏み潰し、壁に叩き付け、窓から放り投げたり、担いでいる釣竿バッグで殴ったりと、次々と群がる蜘蛛の大群を圧倒していくっ!


 何なんだこの人!? 本当に人間か?


 そう思っていると、刹間さんが蜘蛛達の糸に絡め取られて動けなくされてしまった。


「ぬぅお!?」


「刹間さん!」


 そのまま、蜘蛛達は一斉に飛び掛かり、次々と刹間さんの体に、その牙を突き立てていく。


「あ、あぁ、うわぁぁぁぁぁ!!」


 もう駄目だ、一瞬でも刹間さんなら、この状況をどうにかしてくれると、そんな希望を抱いていたが、もう駄目だ、もう、刹間さんの姿が見えないくらいに大量の蜘蛛が噛み付いている。


「さ、刹間さん、刹間さ......!?」


 僕は、刹間さんの元に歩み寄ろうとした。だが、足に蜘蛛の糸が!?


「ぎ、ぎゃぁぁぁ!!」


 そのまま蜘蛛の一匹が、糸を手繰り寄せて僕を手元に引き込もうとする。


 や、やめろぉ!! 僕を食べるなぁぁぁぁ!!


「誰か助けてくれぇぇぇぇ!!」


「了解したぜ蓮野君よぉ」


 な、刹間さんの......声?


 僕が刹間さんの方を見ると、さっきまで刹間さんに群がっていた蜘蛛達が、次々と仰向けになって、地面へと落ちていく。


「く、くはは、どうだ俺の血は、肉は! 死にたくなるぐらい美味いだろぉ!!」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 本当に何したのこの人!? 刹間さんに噛み付いた蜘蛛が、一匹残らず死んでる!?


 そのまま、刹間さんはボロボロになりながらも、僕を食べようとしてる蜘蛛に向かって、渾身の飛び蹴りをお見舞する。


「わぁ!?」


「......ふぅぅぅぅぅぅ」


 あ、あんなに血を流してるのに、なんで平気でいられるだよこの人!?


「さ、刹間さん、だ、いじょう......ぶ......」


 あれ? あれだけ猛攻が激しかった蜘蛛達が、ボロボロの刹間さんを見て怯えてる?


 どう考えたって、今畳み込めば刹間さんに勝てる筈なのに、一体、何を怯えてるんだ?


 そんな蜘蛛達を見て、刹間さんは深呼吸した後に、蜘蛛達に向かって言いはなった。


 ━━おい虫けら共、これで分かったろ? 俺の血肉を喰らえば、お前達も唯では済まない事をぉ、死にたい奴は残れ、死にたくない奴は......。


「さっさと失せろやゴミカス共!! 逆に喰ってやるぞぉ!!」


 あっさり、まさに蜘蛛の子散らすが如く、蜘蛛の化け物共は、刹間さんの一喝で一目散に逃げていった。刹間さんに殺された仲間を置いて、一匹残らず。


「......はぁ~、いって~、アイツらガブガブ噛みやがって、妖怪に噛まれても全然嬉しくないんだよ。まったく」


「あ、あの、刹間さん、その前に治療しないと......」


「あー、大丈夫大丈夫。これ飲めば大抵の傷はすぐ治るから」


 そう言って刹間さんが取り出したのは......栄養ドリンク?


「んぐ、んぐ、ぷっはぁ!」


 何を飲んだんだ? すると、僕は目を疑った。なんと、刹間さんの傷口がみるみるうちに塞がっていく。


「えぇえ!? も、もう訳がわかりません......」


「このドリンクの説明は今度してやるから、早く依頼主の元に向かうぞ蓮野君」



 はぁ、はぁ、


「どこへ向かう? その体力では長く持つまい」


 な、何なのあの男、なんで、わたしを狙うの?


 助けを求めたくても、みんな倒れてる、お医者さんも、看護師さんも、他の患者さんも、皆倒れてる、しかも、外に連絡したくても、電話が通じない、なんで、こんな事、に、


「諦めろ、ここはお前達人間が住まいし次元とは異なる結界の中、我々のような妖怪が十分に力を発揮できる魔境よ」


 はぁ、あぁ、く、苦しい、もう、走れない、


「『契約に基づき』、お前の血肉を一つも残さずに喰らってやろう」


「い、いやぁ! 誰か、誰か、助けて!」


「くくく、何故拒む? こうなる事が判っていてお願いしたんだろ? 『キング様』に」


「あ、あぁ、知らない、知らない知らない! そんなもの知らないぃぃぃぃ!!」


 あ、そ、んな、必死になりながら逃げ惑うと、わたしは病院の運動場に辿り着いていた。逃げないと、苦しくても、逃げないと、


「ほぉ、随分と開けた場所に出たなぁ。これならば、もうこんな窮屈な体でいる必要はナクナッタナァァァァァァ!!』


 う、嘘、お、男が、わたしを追いかけ回していた男が、みるみるうちに大きくなって、人ではない姿に、5m近くありそうな巨大な蜘蛛の化け物に変貌していく。


「いやぁぁぁぁ、あぁ、ぁ」


『グハハハハ!! イイゾォ、モット恐怖シロ! 『(おそ)レ』コソガ、我等妖魔ノゴ馳走ヨォ!!』


 な、なんで、なんでこんな、あ、あんな都市伝説のおまじないをしたのが間違いだったの?


『サァ、ソノ柔ラカイ体ヲ捧ゲヨ!』


 日中、日中に窓の外に現れた『変な男の人』の指示で、この運動場に来たのに、あの男の人居ないじゃない! わたしは、何の為に逃げて、もう駄目、おしまいだわ。


 



 そう思った矢先であった。


『ヌゥ? コレハ、ワガ同胞?』


 え? なに? 蜘蛛? 大きな蜘蛛の死骸が足元に転がってきた?


「ちわー、出前でーす」


『ヌゥオ!?』


 あ、あの人は、日中の変な男の人! が、大量の巨大蜘蛛の死骸を、蜘蛛の化け物に投げつけてる。


『ナンダト? 貴様、コレダケノ同胞ヲ殺セルト言ウ事ハ、退魔師カ何カカ?』


「退魔師? いんや、それとはちょいっと違うな」


 た、助けに来てくれたんだ! でも、こんな蜘蛛の怪物、どう考えたって勝てる訳がない。


「大丈夫ですか!」


「え? き、君は?」


 今度は、とても小柄な男の子が現れた。とても気弱そうな少年だけど、すぐにわたしに駆け寄って、肩を貸してくれた。


「安心してください......て、言っていいものなんですか? 刹間さん」


「おう! 安心しちゃっていいよ!」


 こ、この人達はいったい......。


 わたしの疑問を察したのか、気弱そうな少年がわたしに答えてくれた。


「貴女のお父様に依頼されて、僕達は来たんです。まぁ、僕はその場の流れで付いて来ただけですが」


「え、パパに?」


 パパが、この人達を寄越してくれたの? じゃあ、わたしが『あのおまじないに手を出したこと』知ってるのかな?


『ク、クク、ニンゲン~ナゼ邪魔ヲスル? オレハ、ソノ娘サエクエレバ、オマエタチニ危害ハクワエナイト言ッタハズダァ』


「ひぃ!?」


 蜘蛛の怪物は、まるで目の前にご馳走があるかのような眼差しをわたしに向けてくる。


 こ、恐い、けど、革ジャンにボサボサ頭、腰に大量のお守りをぶら下げ、背中には何故か釣竿を入れるバッグを担いだ変な男の人が、わたしと少年を守るように、わたしと蜘蛛の怪物の間に割って入った。


「あー、悪いね。この人は俺の依頼主なんで、金を貰っている以上、そう簡単には()らせねぇよ」


『グハハハ! デハ、共ニ死ネ!!』


「あ━━━━」


 危ない! そう叫ぶ間もなく、蜘蛛の怪物は変な男の人に向けて、巨大な爪を振り下ろした。


 あ、あんな熊よりも大きい爪に切り裂かれたら、死んでしまう!


 ......そう、思った、はずだった。


『ヌゥ!? キ、キサマッ!?』


 えぇええええええ!? あ、あんな大きな爪を、素手で、しかも片手で止めたぁ!?


「ん? おいおい、爪の中汚いなぁ、ちゃんとお家に帰った後に手洗いしてんのか?」


 そこ気にしちゃう!? それにしても、いくらなんでも余裕すぎない!?


『オマエ! タダノニンゲンデハナイナ! 名ヲ名乗レ!!』


「俺? 俺は『刹間 龍朗』。刹間生活相談事務所の所長だぁ!!」


 て、今度は釣竿バッグの中から、一振りの刀を取り出し、そのまま蜘蛛の怪物の腕を斬り付けた。


『グ、ギャアアアアアア!? ナ、ナンデ、オレニハ刀ハ通ジナイハズナノニ、ナンデコンナニ痛インダァァァァァァ!?』



 数分前の刹間さんと蓮野君。


「土蜘蛛......ですか?」


「ああ、あの大男の正体はそれだろうな、まず、依頼主の娘さんが瘧病、マラリアに感染したのがその証拠だ」


 土蜘蛛、刹間さんが言うには、土蜘蛛は古事記にもその名があるとされている古い妖怪で、鬼の頭領『酒呑童子(しゅてんどうじ)』を討伐したことで有名な『源 頼光』が瘧病を患い床についた時に身長七尺(約2.1m)の怪僧の姿をして現れ、縄で頼光を絡めとろうとしたが、頼光は瘧病を患っているにも関わらず、名刀「膝丸」で斬り付けると、怪僧は逃げていった。


 翌日、頼光は四天王を引き連れて、怪僧の血痕を追うと、北野神社の裏手にある塚に辿り着いた。


 そこには、四尺(約1.2m)の巨大な山蜘蛛が居て、その山蜘蛛を頼光は四天王と共に捕らえて、鉄串で刺して川原に晒した。すると、頼光の瘧病はたちまち治ったらしい。


「つまり諸説あるが、頼光の瘧病は、元々土蜘蛛がもたらした妖術の類いだったんじゃないかと、俺は推測している」


「じ、じゃあ、依頼主の娘さんも、この病院の人達のマラリアも、全てあの大男、もとい土蜘蛛が関係してると?」


「ああ、しかも、俺達が今居る場所は、土蜘蛛が作り出した『魔境』の中、つまり現実の病院に似てはいるが、こことは別の次元の中に居るんだ俺達は」


「はぁ、もう何言われても、もう驚きませんがね」


「......さっき、俺が蜘蛛に喰われた人を救えると言ったアレ、アレは、現実のあの人ではないからだ」


「は、はぁ?」


「まぁぶっちゃけて言うと、俺達は今平行世界の中に居て、現実のあの喰われた人は、現実世界では、まだ平気と言うわけさ」


「......あ、すみません。よく理解できませんが、つまり、あの土蜘蛛を倒せば、あの喰われた人は救えると?」


「あぁ、その通り。しかし、もしも土蜘蛛の奴が目的、つまり依頼主の娘さんを喰って、この結界を解除してしまうと、結界の中で妖怪に喰われたり殺されたりした人は、元の世界でも同じように死んでしまう、てことさ」


「は、はぁ?」


「だから、土蜘蛛が自発的にこの結界を解除する前に始末すれば、実質犠牲者ゼロで、今回の依頼を完了することができるって、わけさ」


 ......なるほど、わからん。妖怪の存在を知らなければ、確かにオカルト、或いは中二病として見られがちな話だが、あんな蜘蛛の大群を見せられては、信じざるおえないだろう。


「あ、次に質問。さっきのドリンクはなんですか?」


「ああこれ? このドリンクの中には、どんな傷おも瞬時に治してくれる霊薬が入ってるんだが、これの製造方法は企業秘密」


「それって、刹間さんが作ったんですか?」


「まさか、俺にそんな技術はねぇよ。買ったんだ、一本500万円で」


「たっけぇぇぇぇぇぇ!?」


 そ、そんな高価なものをあっさり飲んだのかこの人!?


「ああ、高過ぎるから、うちには三本しかないんだ。つまり残り二本しかないな」


 この人、確か金欠って言ってなかったか?


 そんなもん買ってるから金欠になるんじゃないの?


 次に、僕が疑問に思ったのは、やはりアレだな。


「刹間さんって、結局なんなんですか? 素手で妖怪の群れを薙ぎ払ったり、刹間さんに噛み付いた妖怪は死ぬし、とても一般的な徐霊師とか退魔師とは異なるような気がするんですが」


「......ああ、確かに、俺はこう言った妖怪絡みの怪事件を専門に扱ってはいるが、俺は徐霊師でも退魔師でもない、俺は『殺魔師(さつまし)』なんだ」


「さつ.......ま......し?」



『グァァァァァ!! 刹間、刹間ダト!? アノ忌マワシキ一族ノ末裔カァ!!』


「その忌まわしくて意地汚い一族の末裔こそがこの俺だッ!!」


 土蜘蛛の腕を斬り落とした後、手に持っている刀を土蜘蛛の口の中に投げつけ、そのまま刀の柄頭に飛び蹴りした後、そのまま柄を握って、口内から土蜘蛛の頭を斬り上げて両断した。


「す、すごい......」


 もうそれ、それしか言葉が出ないよ。


『刹間、刹間ァァァァァ!!』


 頭を両断されてもなお、土蜘蛛は刹間さんを掴んで地面に叩き付けた後に跳躍し、六本の槍のように鋭い足を地面に倒れている刹間さんに向けながら落下する。


「刹間さ━━」


 つい、叫んでしまったが、冷静になれば、この人なら大丈夫な気がしなくもない。


『ア、アアア、ギ、ガ、ア!!』


 まるで豆腐を斬るが如く、刹間さんは六本の足を細切れにした後、土蜘蛛の胴体を切断した。


「ふぅ、いっちょ上がり!」


 強すぎる。あまりにも強すぎる。刹間さんは自らを『殺魔師』と名乗った。


 殺魔師って、こんなにも強いのか!?


『ア、ガ』


「よぉ、まだ息はあるな。よーし、では質問、お前らを裏で操ってる『キング様』について答えな」


『キング様。無駄だ、お前ではキング様には辿り着けぬ』


「あっそ、んじゃな」


 そして、容赦なく刹間さんは土蜘蛛に止めを刺した。


『グ、ハハ、刹間の者よ、どうしても、キング様に辿り着きたくば、大いなる災いを受ける覚悟を持つこと、だ、な』


「大いなる災い? 興味ないね。刹間として生まれた以上、大いなる災いとか大いなる不幸と隣り合わせで生きる運命。だからこそ、覚悟なんて赤ん坊の頃から、とっくにできてるさ」


 そして、土蜘蛛は消滅した。最後の最後まで笑いながら消えた。


「よっし、んじゃ帰るか」



 その後、依頼主の娘さんのマラリアは、土蜘蛛を倒した直後に完治、そして刹間さんの言う通り、翌日のニュースにも、新聞にも、昨日の病院での妖怪騒ぎは報じられなかったし、蜘蛛の化け物に食べられていた人も、普通に生きていた。


 本当に僕達は、刹間さんが言うように別の次元の中に居たのかもしれない。


 なんとも奇妙な体験であった......ん? そういや、何か忘れてるような。


 ピンポーン。


「こんな朝早くから......誰だ?」


 あの後、依頼主の娘さんはもうしばらく入院した後に早期で退院できるらしい。


 昨日はあのまま刹間さんと別れて、僕は誰も居ない自宅へと帰って一夜を過ごした......正直、眠れなかったけど。


 ピンポーン。


「はーいはい、今行きま......」


 ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


「......刹間さん!!」


「よぉ蓮野君、おはよう、よく俺だと分かったな」


「そりゃ分かりますよ! あんなインターホンの押し方なんて刹間さんしか居ませんよ!」


「ははは、ではでは、早朝で悪いが、事務所に行こうか」


「は? 何でですか?」


「......え? まさか忘れてるのか? 君も妖怪に憑かれてる件について」


「......あ」


 そんなこと言ってた気がする。じゃあ何か? 僕も昨日の土蜘蛛のような怪物に狙われてるって事か!?


「そうそう、て、事でさっさと着替えてこい」



 再び刹間さんの事務所。


「よう、また来たな少年!」


 また歩く消しゴムが居る。やっぱりこれも妖怪の一種なのか......。


「まぁそうだな。本題に入る前に雑談がてら昨日の後日談を語ろう。まずキング様についてだ」


「そのキング様ってなんですか?」


「都市伝説の一種さ。やり方は簡単、まずトランプと火をつけられる物、例えばライターやマッチなどを使うおまじないだ」


 ようはキング様とは、トランプの一番上から順に、トランプのキングが出るまでカードを引き続けるものらしく、その出たキングの標印によって、その人の将来叶う願い事が決まるらしい。


 ハートは恋愛、ダイヤは財産、クラブは健康、スペードは仕事。


 この時、キングが出るまでに引いた枚数が、願いが叶うまでの期間を現してるそうだ。(1枚一週間、10枚で十週間)


 しかし、もしそのキングが気に入らなければ、他のキングが出るまで引き続けるのもありらしく、自分の気に入ったキングを引き当てたら、そのキングを燃やす。これで、キング様へのおまじないは完了するそうだ。(その際に、何度も火をつけるのはダメで、キングが燃えきるまで手を出してはいけない)


「......ただのおまじないですね。これって、そんなに危険なんですか?」


「危険だねぇ。キングを燃やした際、キングが完璧に燃えきれば願いが叶う。ただし、もしも、キングが燃えきらずに火が消えて残ってしまうと......」


「し、しまうと?」


「引いた枚数の期間内にキング様本人が現れて、キングと同じように下半身をとられてしまうそうだ。アシヨコセェェェェェ!!」


「う、うわぁぁぁぁぁ!? ......て、驚くと思いましたか?」


「......昨日あんだけ騒いでたくせに、もう耐性ついたのか?」


 キング様、そのキング様と昨日の土蜘蛛が関係してる? 昨日の依頼者の娘さんが狙われたのも、そのキング様のおまじないを失敗したからなのか?


 て、事は、巷で噂されてるキング様の正体が土蜘蛛?


「いや、昨日の土蜘蛛が死に際に残したあの言葉通りなら、キング様は別の妖怪が関係してるんだろ。最近ある人の依頼で、そのキング様ご本人を退治してくれなんて言われちゃったわけよぉ」


 キング様、いったい何者なんだ? 土蜘蛛はそのキング様の配下に過ぎなかったのか?


 あれ以上の化け物がまだ潜んでるなんて......僕の知らないところで、こんな事になっていたなんて。


「おっはよぉ、元気にしてる?」


「あ、舞香さん。おはようございます」


「おやおや? 昨日会ったばかりなのにもう覚えてくれたのかい? 嬉しいねぇ」


 徐霊師の『日津神 舞香』さん。この人も、昨日の刹間さんみたいに、あんな化け物と戦ってるのか?


「遅かったな舞香。で、報酬は?」


「はい、ここよ」


 すると、舞香さんは重たそうなスーツケースを刹間さんの所長机に乗せた後に開いた。


 気になったので、スーツケースの中身を確認すると......!?


「さ、札束がたくさん!?」


「これ、全部でいくらだ?」


「軽く一千万よ」


 たっかぁ!? これが土蜘蛛退治の報酬なのかぁ!?


「おう、ありがたく貰っておく......ん? どうした蓮野君。そんなに大金を見るのが珍しいか?」


「め、珍しいですよ! 刹間さん、いつもこんなに稼いでるんですか!?」


 ぼ、僕がいくらアルバイトで稼いでも一生辿り着けないかもしれない金額を、刹間さんはあっさりと机の下に置いた。


「......あ、忘れてた、昨日は蓮野君に妖怪の存在を教えるために連れ回したが、まだ蓮野君本人の要件は済んでなかったな」


 あ、そういえば、僕も妖怪に憑かれてるんだっけ?


 ......でも、きっと高額何だろうなぁ。


「そ、そのぉ、いくらになりますか?」


「100億」


「......ん?」


「だから100億」


 ......ハァァァァァアアア!? 高い以前の問題だったぁ!?


「だって、君の場合、よく見たら憑かれてると言うより、妖怪の魂が君の魂に根強く絡み付いていてさ。このまま退治すると、君死んじゃうんだよ」


「ホギャアアアアアア!?」


 オワタ、人生オワタ\(^o^)/


 すると、舞香さんが僕の肩をつかんで、憐れみに満ちた眼差しを向けてくる。


 やめたげてよぉ!


「まぁ、100億なんて大金、俺個人だったらそんな金額要求しないが、俺と舞香を含めた百人近くの徐霊師、退魔師の力が必要なんだなこれが」


「えぇ!? そ、そんなに酷いんですか、僕って......」


「ああ、可哀想なぐらい」


「酷いわ」


「ね♪」


 刹間さんに舞香さんに、消しゴムにまで言われたぁ。


「まぁそう落ち込むな。蓮野君、まだ希望がある」


「と、言いますと?」


「俺の見立てでは、後半年、半年以内に100億稼げれば、君の命は助かるだろう」


「は、半年なんて......あ」


「気が付いたか? そう、俺の元で働け、そしたら、100億なんてすぐ手に入るぜ?」


 た、確かに、土蜘蛛倒して一千万なら、それ以上の妖怪絡みの事件を解決していけば、もしかしたら、本当に半年で100億が稼げるかもしれない......そもそも、半年後、僕はどうなるんだ?


 ......深く考えるのは止めよう。


「は、はい、僕を雇ってくれませんか? いえ、雇ってください! お願いします!」


「いいよ。正直今人手不足だったんでな。むしろ助かる」


 かなりあっさり雇ってくれた。けど、僕は基本的にはどうすればいいんだ? そもそも、刹間さんが言う『殺魔師』って、結局何なんだ?


 分からないことだらけのまま、僕は謎の殺魔師『刹間 龍朗』さんと共に、これから半年間に渡って、色んな妖怪絡みの怪事件に挑み続けるのであった。



 そこはとても広い、広い部屋、会社などの会議室ぐらいの広さ、うす暗い部屋、その中央に円形状の机、そこには七つの席があり、一つは空席、残り六つの席には、それぞれ六人の人物が座っていた。


「......まさか、土蜘蛛が負けるとは......これが刹間の力なのか?」


 六人の人物のうち、力士のような体格の男がそう漏らすと、向かいに座ってる小柄な小男が、本を読みながら言葉を返した。


「刹間、刹間刹間、結局さぁ、刹間ってなんなの? 木幸(きさき)さん」


 小男の質問に対して、隣に座ってる可憐な女性が質問に答えてくれた。


「刹間、元々は『殺魔』と名乗っていたそうです。いつ、どこから現れたか知りませんが、他の徐霊師や退魔師とは異なり、『魔を殺す為だけに存在し続けてる』我等妖怪からすると、天敵じみた厄介な存在です」


「ふーん、魔を殺す、ねぇ。人間風情がそんなことできるの?」


「可能にしちゃってるからこそ、厄介極まりないって、話っしょ♪」


 今度は、可憐な女性の向かいに座る、枯れ木のように細く長身の男が割って入った。


「あいつら、どういう経緯でそうなったか知らんが、あいつらの気、肉、血、全てが俺達妖怪に取っては致死性の猛毒になってんだよぉ。だから誰も刹間なんかとは関わりを持とうと思う妖怪なんて居ないのさ♪」


「その通りですわ~」


 今度は、妖艶な雰囲気を醸し出す、絢爛豪華な着物を着た女が語る。


「あんなゲテモノ、本来なら関わりたくありませんが~、我等の計画上、都合が悪いようでしたら、排除せざる終えませんね~。どう判断されますか? 『月影様(つきかげさま)』」


 他の五人の視線が、一人の優男に集中する。


 ずっと黙っていた優男は、皆の意を察し、その沈黙を貫いていた口を開いた。


「無論、消すだけだ。刹間の血肉を喰らう事が出来ないなら、我等に取っては不要。今後邪魔が入るようなら消せ、それだけだ」


 と、今度は背後から拍手をしながら、六人とは別のもう一人の人物が現れ、優男の背後へと近付いてきた。


「ははは☆ どうです月影さん☆ 私が考案した『キング様システム』は、中々に効率よく、人々の願いと恐怖のエネルギーが集まりやすいでしょぉ?」


「......何しに来た『シコク』」


 シコク、そう呼ばれた男の容姿は、全身を覆い尽くす程の黒いローブに包まれ、頭には、その素顔を拝めないくらいに深くフードを被った痩せ形の男であった。


「いやいや、皆さんの頑張り具合を見に来たのですが、まさか土蜘蛛の『土蔵(つちくら)』さんが敗れるとは☆ その刹間とやら、中々に厄介そうですねぇ☆ 手を貸しましょうか?」


「いらん、これは我々の問題だ、貴様はただワタシが要求する物を提供してくれればいい」


「さいですか☆ では、今後とも、この『不知無(しらない) 死刻(しこく)』を御贔屓くださいませ~☆」


 そう言い残し、黒ずくめの男は、闇の中へと消えていった。


「......相変わらず気味が悪い奴~、月影さん、あんましあんなのに関わらない方がいいんじゃない?」


「確かにのぉ、本来なら刹間の次に関わりたくない奴じゃな」


「......だが、これは我々の計画を完遂するために必要な事、皆の者、我等『七曜妖怪』が、それぞれ『キング様』となり、より多くの人の願いと恐怖を集めるのだ!!」


 この数週間後に、月影率いる『七曜妖怪』と『刹間 龍朗』と、その仲間達が激突するのだが、その話はまた何処かで語るとしよう。


 完

 実は、この作品事態は、僕が中学生の頃からずっと考えていた話で、恐らく、他に書いてる作品達の原点とも呼べる作品かもしれません。


 しかもちゃっかり、『こころあつめる』との繋がりを仄めかすようなシーンもありますしね☆


 それでは、本編では語られなかった設定を一部紹介します。


・消しゴムの付喪神『ケッシー』


 このキャラ自体は、僕が小学生の頃に考えたキャラで、文房具達が、人々の心に巣くう『悪』と戦う話の主人公なんですが、小学生の頃に思い付いた話なので、これ自体は書く予定はありません。


・殺魔師


 気、肉、血、全てが妖怪にとって猛毒となっている謎の一族『刹間』の者だけがなれる役職。


 その力で殺された魔は、文字通りこの世から殺す事(消滅させる事)ができる。ただし、デメリットとして、陰陽術や退魔術、徐霊術と言った、『技術』としての対妖怪用の技が扱えない。更に言うと、妖怪ではなく人を殺してしまうと、全身から血を流して死んでしまうという『呪い』を一族全員持っている。


 蓮野君に憑いている妖怪を無闇に殺せない理由がこれ。


 現在、この物語を連載させる予定はありません。


 どうしても連載させるには、他の作品を完結してからになるでしょう。


 それではさらば!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーの展開が好きです(^_^) [一言] とても面白かったです!! 連載化して欲しいです!(^_^)
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