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魔王王弟殿下と召喚の乙女 後編

少々長めです。

 

 「父上、 ちょっとお話したい事があるんですけど」


 私は、 おもむろに父上の寝室を蹴り開けるとそう言いきった。

少し、 行儀が悪いとは思ったのだけど、 私の腕の中で泣き疲れて眠るティーアを片時も手放したくなかったので許して欲しい。


 「セティウス…… お前は死にたいのか? 親の寝室に殴り込みに来るとはいい度胸だ」


 長い髪をかき分けて、 父上が目を眇めて私を見た。 良し。 最中じゃない。 事後だ。

上半身だけ起こした父上の身体は逞しい。 私ももう少し筋肉をつけようかなぁ。


 「母上を悲しませたくないなら止めた方が良いと思いますよ。  って言うか別に殴りこみに来たわけじゃないですし。 もう昼ですよ」


 私の事を殺したりしたら、 母上…… 今度は半狂乱じゃあ済まないだろう。

その指摘が正しかったようで、 父上は面白く無さそうな顔をした。


 「まだ、 昼だ」


 えぇ、 昼です。 まぁ、 隠居の身には時間とか関係ないのかもしれないけれど。


 「本当は母上にも伝えたい事があったんですけど…… 」 


 父上の横のシーツの膨らみを見る。 ピクリとも動かないその様子に母上の苦労が偲ばれた。


 「シェルは、 夜まで起きないと思うぞ」


 …… 父上。 母上は夜まで起きないんじゃなくて気絶してますよね。

そう思ったけれど、 あえて突っ込まない。 面倒そうだからね。 


 「…… 確かに、 起きないでしょうね。 まぁいいや。 父上だけの方が色々都合がいいし…… 後で母上に言っておいて下さい」


 母上に言うと反対されそうだしなぁ…… だったら事後報告の方が都合が良い。


 「分かった。 先に出てろ。 着替えてから行く」


 父上が欠伸を噛み殺しながらそう言った。 大人しく、 部屋から出て応接室で待っている事にする。

ティーアは良く眠っている。 可愛らしい寝顔に見惚れていると、 父上がのっそりと現れた。


 「…… それにしても相変わらずですね…… 」


 少し呆れたようにそう言えば、 父上は鼻でフンと笑った。


 「文句なら聞かんぞ」


 改める気は無いらしい。 まぁ、 そうだろうとは思っていたけれど。


 「これ以上弟妹が増えなきゃいいですよ」


 一応、 これだけは釘を刺しておく。 増え過ぎると、 名前も覚えられなくなりそうだからね。


 「…… 増えなければ良いのか……? ところで話と言うのはお前が後生大事に抱えているソレの事か」


 ティーアをソレ扱いされても、 父上が相手なら不快になるだけ無駄と言うものだ。

そのせいか、 腹は立たない。 


 「まぁ、 そうですね」


 「フン。 お前がソレを連れて来たと言うのなら…… ゼフィルも逝ったと言う事だな。 これで俺の弟妹も一人残らず死んだわけだ」


 悲しんでる風ではないけれど…… 少し惜しむような気配を感じて驚いた。

父上にもそんな弟妹への愛着のようなものがあったらしい。


 「もしかして、 叔父上から聞いてました? 」

 

 驚いた事はおくびにも出さずに、 そう聞いてみる。


 「少しな。 ソレが産まれた時に―― 自分が死んだら気にかけてくれとだけ言われた。 ゼフィルも馬鹿な奴だ。 よりによって死ぬ間際になって伴侶を選ぶなんてな。 てっきりそのまま一人で逝くと思っていたぞ。 アレは親父の所為で伴侶という存在を恐れていたからな…… 」


 意外な話が出て来た。 若い頃の義父上は伴侶を選ぶ気が無かったのだと勝手に思っていたのだけれど、 どうやらそうでは無かったらしい。

魔界において、 父上を抜かせば一、 二を争う実力者だった義父上。 一体どう言う事だろう。


 「若い頃は随分と浮名を流していたとは聞きましたが…… ずっと妻を得なかった理由が恐れて、 ですか? 」


 当然の疑問だろうと思えたので、 父上にそう聞いてみた。


 「伴侶を失って親父は壊れた。 子供の事も分からずに殺しまくったからな。 自分がそうなる事を恐れたんだろうさ」


 神話の裏側の暴露情報を聞かされた。 闘神ヴェルムが子殺しをした理由が、 伴侶を無くして狂ったからとか…… 今ソレを知ってるのは、 父上と私くらい…… あ、 兄上は絶対知ってるかな……。

 つくづく、 うちの家系は妻に弱いのか……。 伴侶を失えば壊れるくらいに。

 父上なんてこの世界で一番の最強生物なはずなのになぁ…… それなのに母上がいなかったら、 駄目な気がするから不思議だ。


 「ふうん……。 まぁ、 確かに伴侶を失った叔父上の精神状態は薄氷の上を歩いてるようなものだったかもしれませんね」


 義母上の残したティーアがいたから、 正気を保っていたのもあるんじゃなかろうか。

死にゆく妻に頼まれたら、 死ぬまで守ろうと言う気にもなるだろう。  


 「妻に良く似た娘がいなければ、 とっとと壊れてくたばってただろうさ」


 同じような事を考えてはいたものの、 父上の言い方はどこか、 どうでも良さそうだ。


 「自分の弟に随分な言いようですね、 父上…… 」


 苦笑してそう言えば、 真面目な顔で返答される。


 「俺にとってはシェルが全てだ。 子供達おまえらはシェルの血を引いてるから価値がある。 まぁ、 殺さない程度には愛情は持ってるぞ? お前の事も大事だとは思える。 特に、 娘は可愛いものだ。 弟は…… その次だな。 愛着はある。 あぁそれと一応、 子供達の伴侶は気にかけているぞ―― 間違って殺さないように」


 本当に正直だな父上は。 よもや、 私達の価値が母上の血にかかっているとは思わなかった。

我が家では男兄弟は、 総じて女姉妹に甘いので…… 父上の娘は可愛い発言には全力で同意しておくけれど。


 「私達に愛情が無い訳じゃないのは有難いですけどね…… 今、 父上が言った以外はどうなんです? 」


 聞くだけ、 無駄な気もしたけれど…… 一応聞いてみた。


 「お前は、 足元の虫を気にするのか? 俺にとってはそんな物だ」


 あぁ…… 父上ならそうですよねー。 予想を外さない返答に苦笑がもれる。


 「父上の息子で良かったです。 ところで最近知ったんですけどね、 ヒトはこの世界の事を廃棄世界ヴェルムと呼んでるらしいですよ」


 我々は、 この世界を魔界と呼ぶか世界としか呼んでいない。

なので、 人間のいる街に様子を見に行った時にその呼び名を聞いた時は驚いたものだ。


 「らしいな。 こちらに来た時に弟妹の誰かがこの世界の浮島の成り立ちを話したとみえる。 ロクでもない名前を付けやがって…… まぁ今更、 世界の名前なんぞどうでもいいが」


 父上は一応は知っていたらしい。 自分の親のはずなのにロクでも無いとは…… 余程嫌な目に合ったのだろうか。 それとも親子仲が悪かったとか? 最終的に殺し合ったのだし複雑なものがあるのかもしれない。


 「まぁ、 認識できれば名前なんてどうでもいいですからね」


 父上の親子事情にはそんなに興味はなかったので、 どうでもいいという発言に同意しておく。


 「フン。 で、 お前はそのヒトがいる国に行く気か? 」


 流石は父上と言うべきか……。 どうやら、 ちょっと人間の話を出しただけで私がしたい事を予想したらしい。 私としてはどう切り出すか悩んでいたと言うのにあっさりしたものだ。


 「言いにくい事をハッキリ言いますね」


 諦め口調でそう言えば、 ニヤリと笑って父上が言う。


 「どうせソレが行きたいと言っているのだろう? 」


 まぁ、 概ねその通りです。 義母上のいた人間のいる街にティーアは興味を持っていたからねぇ。

時々、 私が街に行って土産話をしたせいでティーアは人間の街に憧れのようなものを持つようになったらしい。 この辺は私の自業自得だ。 義父上には良い顔されなかったからね。

 けれど、 ティーアの喜ぶ顔には代えられない。


 「まぁそうです。 本当は今あっちはゴタゴタしてるので連れて行きたくは無いんですけど」


 そもそも義母上は訳ありで人間の街に居れなくなったみたいだし、 本当は気乗りしないんだけどね。

ゴタゴタしてるのは、 つい先日…… 人間の街に多くの魔物が押し掛けたからだ。

 被害がだいぶ出たようなので、 今はちょっと騒がしい。


 「なら、 行かなければいいだろう。 落ち着いてから行けばいい」


 父上がもっともな事を言った。 


 「…… 魂を半分こにするのは断られたので、 魔族の血は引いていても、 ティーアは人間寄りですからね。 彼女の寿命を考えると早めに行った方がいいかと」


 私と長生きして欲しいって言ったら、 義父上と義母上に会いたいから嫌だってさ。

私の魂を半分わけると相当、 長生きする事になるからねぇ……。 

寿命をまっとうして、 土産話を沢山持って二人に会いたいんだそうな。

 まさか、 そんな理由で断られるなんて……。 正直凹んだよ。


 「馬鹿か。 断られたからって何だと言うんだ? 魂くらい、 無理矢理繋げて半分わければいいだろうが」


 実際に無理矢理繋げた人が何か言ってますよ。 ――無理なんですよ父上。 私にその手は使えません。


 「父上と兄上はそうしてましたもんねー。 残念ながら、 叔父上にティーアの望まない事はしないと誓約ゲッシュ をしたので無理です」


 父上は両手で頭を抱えた。


 「…… お前は俺の子の中で一番の阿呆かもしれん」


 ハッキリ言ってくれるもんだ。 確かに阿呆かもしれませんけど。 誓ったもんはしょうが無いです。

義父上ちちうえ死んじゃったし、 取り消しができません。


 「自分でもそう思いますけど。 でも、 他にも手はありますから」


 魂を分けるのは無理でも、 未来永劫離れない手段は存在する。


 「…… それはその娘が首から下げてる首飾りに魂が二つ入ってる事と関係があるか? 」


 直接的には関係ないけれど、 間接的にはありますかねぇ。 まぁ、 保険みたいなものですが。

これを上手に使う気ではいますよ。 ティーアを離したくないからね。


 「…… 一応は」


 ニッコリ笑ってそう言えば、 父上は呆れたように嘆息した。


 「ゼフィルは了承して…… ないのだろうなぁ」


 義父上の了承? ないですねぇ。 けど、 同じような立場だったら父上も同じ事してそうですけどね。

いや、 父上ならこんな事になる前にさっさと逃げられないようにするか……。


 「はい。 まぁでも文句を言われる筋合いもないと思いますよ。 叔父上だって、 伴侶に魂を分ける事は出来なかったにしても、 自分の妻を手放す気はなかったようですし。 …… 父上だってそうでしょう」


 知ってますよ。 父上、 とそう伝えると当たり前だろうと言うような目で見られた。


 「まぁな。 俺が死ねば、 魂を分けたシェルも死ぬわけだが…… 転生しても、 逃がす気は無い。 シェルは俺のものだからな」


 魂の伴侶。 そう言う呪いじみた力がある。 本来は互いの同意のもとに行われるのが普通だが……。

まぁ、 手っ取り早く説明するなら…… 何度転生しても結婚しようねって感じのものだ。

 魂の伴侶以外とは何があっても|絶対に結ばれることができない(・・・・・・・・・・・・・・)。

 義父上が義母上の同意の元にソレをしたかは今となっては分からない。

逆に自信を持って言えるのが、 父上は同意なしでやったろうなぁ…… 絶対に。


 「まぁ。 そう言う事です。 父上も叔父上も、 私もね。 ――そうだ。 話は変わりますが、 他の兄妹達は元気にしてますか? 」


 暫く帰って来れないかもしれないので、 兄妹達の事も聞いてみた。


 「あぁ。 皆それなりに元気だ。 …… そう言えばリシェイラの所は三人目が出来たぞ」


 早い物だな。 三人目か……。 正直、 あのぽやぽやした妹が子供の母親というのが未だに理解できない。 長男が産まれてから百年位たってそうなんだけど、 リシェイラはまだ幼さが残っていて、 そもそも人妻に見えないんだよなぁ……。  


 「三人目ですかぁ…… あぁそうだ、 そういえば知ってましたか父上。 リシェイラが一人目が出来た時の事」


 ふと、 昔グレゴリアス卿―― 義弟となったガロンドと飲んでた時に聞いた話だ。


 「ん? なんだ」


 「グレゴリアス卿から直接聞きましたが、 リシェイラが薄物のネグリジェで夜這をしに行ったそうですよ」


 正確には、 かなり酔わせて口を割らせた…… が正しいのだけど。

ある日の夜。 ガロンドが寝室で寝てたらリシェイラが上に乗ってたらしい。

 どうやって入ったのかはまぁあれだ。 そこは可愛い顔をしても魔王の妹なんで。


 「…… はぁーーーーーーー。 そんな事を教えたのは双子か? 双子だろうなぁ。 俺の子じゃなかったら消し炭にしている所だが…… 」


 父上正解。 こんな事を教えるのは双子のリュミエルとサミュエルしかいない。

押しても引いても靡いてくれないガロンドに(正確には父上と兄上に釘を刺されてたから、 慎重だっただけだけど) 傷心してたリシェイラは、 よりにもよって双子に相談した。

 それで、 双子が既成事実を作っちゃえとけし掛けた訳だ。


 「聞いた後、 リュミエルとサミュエルは絞めときました。 特にサミュエルを。 グレゴリアス卿は…… 災難だったと思いますよ」


 妹には優しくしないとね。 弟はまぁ頑丈に出来てるからね? ちょっとくらいキツめにやらないと懲りないし。 暫くは、 二人とも私が傍にいくたびにハリネズミみたいになってたなぁ……。 

 おもしろ…… イヤイヤなんでもない。


 「良くやった。 ―― あいつがリシェイラが孕んだと報告して来た時、 ジークと思わず半殺しにしたんだが…… 可哀想な事をしたな」


 その時の事を思い出して遠い目をする父上。 いやぁ…… あの時は凄かった……。

父上と兄上の最恐コンビが殺気と怒りを撒き散らすもんだから、 城の近くにいた魔族のほとんどが失神。

 落とされる雷に城は半壊。 その状態でも、 父上と兄上は自分たちの伴侶にその状況を悟られないようにする徹底ッぷり。 ガロンドは見た目が誰だか分からないありさまになった。


 「グレゴリアス卿が頑丈で良かったですね。 彼は全殺しされる事も視野に入れて、 リシェイラを屋敷に置いて父上達の所に報告しに行ったらしいですよ。 というか…… 父上でも、 そんな事思うんですねぇ…… 」


 結婚前に妊娠させちゃったって言うのは褒められないけど良くある事だ。 しかしその娘の保護者が父上と兄上とあっては、 死を覚悟したのは当然だ。 むしろ、 良く死ななかったと思う。 

 なんの反撃もせずに、 攻撃されるまま…… ただひたすらに結婚を許して欲しいと土下座し続けた男は私の中で根性があって信用できるヤツにという位置に収まった。

 それでも、 少しガロンドを苛めてしまったのは私だって妹が可愛かったからだけどね。


 「好きな女がそんな格好で上に乗ってきたら、 そりゃ反応するだろ。 男なんだしな」


 あぁ。 ガロンドがリシェイラの事を好きなのに気付いてたんですか父上。 

なら、 さっさと交際を許可してたらリシェイラが暴走する事も、 ガロンドが半殺しにされる事もなかったはずなのになぁ……。 まぁ、 男親は複雑って事だろうか。


 「まぁ、 否定しませんが」


 そう答えたのは、 ティーアがそんな事してきたら迷わず美味しく頂くだろうと言い切れるからだ。

父上も確実にそうだろう。


 「だろうが」


 力強く、 二人で頷き合う。

間違いない。 物凄く、 父上と共感しあった瞬間だった。


 「まぁそっちはもう昔の話だ。 それよりお前だ。 人間の街に住む気なら、 もう一つ誓約していってもらおうか」


 急に真剣な口調で父上がそんな事を言った。

 

 「? 何をです」


 誓約…… 何か必要だろうか。 


 「あちらに行ったら、 基本的に戦闘禁止にしておけ。 壊す系の力は使うな」


 基本的って言うのは伴侶に関わる有事のさいにはその誓約が無効になるって事だ。

まぁ、 大体のやり取りから推察できるように、 我々魔族…… というかむしろウチの一族は伴侶に対する執着が激しい。 

 伴侶が…… とか伴侶のために…… が頭につけば大抵は何やっても許される。 そこに伴侶である母上とかの好き嫌いは反映されない事が多いけれど。 


 「何故です? 」


 とはいえ、 基本戦闘禁止とは。


 「お前の妻の大切な場所を壊したくないだろう? 人間の中で暮らすには…… お前は力が強すぎる」


 確かに父上が躊躇いなしに力を使えば、 この世界くらい簡単に壊れるだろう。

けれど、 私にはそんな力はない。 


 「父上は理解できますけど、 私もですか? 」


 そう訝しげに聞いたら、 父上が呆れたような声を出した。


 「―― 魔界の魔族を相手にするんじゃないんだぞ? 普通に力を使っただけで、 国を壊せるぞお前」


 魔族は頑丈である。 力も強いので、 住居などの建物は魔力が込められ補強してある。

けれど…… 人間達が住んでる所は……? 

 自分が力を振るった時の事を想像してげんなりした。 そう言えば人間は脆いのだったか。


 「…… 分かりました。 誓約していきます」


 私は力強くそう頷いた。

 

            ※     ※     ※


 「…… 嘘です、 嘘です。 おじい様…… っ とうさまっ」


 亡骸に覆いかぶさって泣き声を上げる。 最後まで父様と呼ばせてくれなかった酷い人。

ずっと、 ずっと知ってました。 私の父様だったって。

そんな私を、 セティウス様が抱き締める。


 「知ってたんだね」


セティウス様はぽつりとそう言った。

 自分が年老いているからと、 そんな理由で父親である事を隠した私の父様。 けど、 私は貴方を父様と呼びたかった。

 私が十八歳になったある日。 苦しそうに胸を押さえて倒れてしまった父様に――。


 「寿命だ」


 ただ一言それだけ言ってベットの上に横になる……。

昔より、 細くなった手足。 

 セティウス様が来た時は、 もうだいぶ憔悴していた。

少しだけ二人で話がしたいと、 セティウス様が来る前に言われていたので外に出る。

 覚悟はしてたはずだった。 実際に、 父様からはもうすぐ死ぬと言われていたし。

けど、 現実を目の当たりにして信じられない位に動揺した。

 父様がしんでしまう……。 ショックと混乱で涙がボロボロと流れる。


            ※     ※     ※


 「来たな」


 叔父上にそう言われて、 傍に寄る。 憔悴したティーアが、 外に出て行った。

私が来たら、 二人にして欲しいとあらかじめ言われていたのだろう。

 叔父の命はもはや風前の灯だ。 

おそらくは、 私が来るまではと意志の力で命をもたせていたのだと思う。


 「気付いているか、 あの娘は妊娠しているぞ」


 そう言われて頷く。 気付いていないのはティーア位だろう。


 「まったく、 お前にアレを任せる羽目になるとはな」


 「そこはいい加減諦めて下さい。 義父上ちちうえ


 「死にかけた老人にムチを打つとか。 本当良い性格してるな。 お前…… まぁいい。 ―― 義息子むすこよ」


 「なんです。 義父とうさん」


 「誓え。 俺の娘が望まぬ事はしないと」 


 死にかけた目に、 ゆらりと揺れる鬼気迫る炎。 自分が死んだ後、 ティーアを守るためだけの言葉。

頷かなければこの人は私を殺そうとするだろう。 私を殺す力なぞ残っていないのに、 死にかけの最後の命の火をそうやって使いきるだろう。

 もしそんな事をしようとすれば、 ティーアはこの人の死に目に会えない。

ズルイなぁ。 私がそれを出来ないと知っていてそんな事を言うなんて。


 「…… そう来ましたか…… まぁ、 死にゆく義父上に餞別です。 我が名、 我が魂にかけて誓いましょう。 我が妻の望まぬ事はしないと」


 ぼんやりと、 首が温かくなる。 おそらく首に一周、 茨模様の痣ができて消えたはずだ。

誓いを破れば死ぬ―― そのしるし


 「まだ、 妻じゃないだろうが」


 「でも妻にしますんで」


 「本気で嫌な性格に育ったな。 誰に似たんだお前。 …… とにかく幸せにしてやってくれ」


 「死んだ貴方に背後から蹴られたくないですからね。 幸せにしますよ」


 「…… 感謝する。 ティアラを呼んでくれるか? 」


 「…… えぇ」


 扉を開けるとティーアがはっと顔をあげた。 泣いていたのだろう。 その目尻に唇を這わせて拭ってやる。 そのまま、 部屋に連れて行った。 微笑する義父にかけ寄るティーア。 義父はただただ、 愛情を込めてティーアを優しく撫でる。 

 義父はどうも、 魔族らしくない。 娘への愛情表現が豊かな事や、 自分の死を私にまで見せる所も。

魔族は誰かに看取られたりしないものだ。

 義父の横にはずっと女性が寄り添っている。 私は他より目が良いからね。 義父も、 ティーアも気付いていない。 ―― ティーアに良く似た彼女はきっと義父の妻だ。


 「幸せになりなさい」


 「えぇ。 大好きよ…… 私、 私…… とうさ」


 ティーアの言葉を最後まで聞く事無く、 義父は息をつくとそのまま眠りについた。

その、 魂が抜ける。 

 ―― 義父上、 義母上…… 悪く思わないで下さいね。

心の中で謝罪した後に、 私はその魂を二つ一緒に首飾りに捕らえた。

 ご隠居様が出て来るとどうしても、 主張が激しく……。 この話の主人公はセティウスです。

セト様ですよ――? そのうち他の弟妹の話も書きたいですが、 ご隠居さまが魔王になった日とかの方が書くの早いかも……。 

 別の連載を優先しているので、 いつになるかは分かりませんが(汗) 

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