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魔王王弟殿下と召喚の乙女 中編

今度はティーア視点です。

 セティウス様と出会ってから、 九年が経った。 十六歳になった私は、 彼に恋をしている。

馬鹿みたいだって知ってるわ。 セティウス様に比べたら私はあまりに幼い。

 それでも…… セティウス様が召喚術を教えて下さる時、 そっと触れる手に胸の鼓動が高鳴る。

気付かれないように…… そう願いながら顔を伏せる私。 

 私とは違うゴツゴツとした大きな大きな手―― 肌から伝わる熱に、 きゅうっと心臓が苦しくなるの。


 「セティウス様。 あの、 今日は夕飯を食べて行かれますか? 」


 「うん? ティーアの手料理は美味しいからねぇ。 お誘い頂けるのなら喜んで」


 私が少し照れながらそう聞くと、 セティウス様がそんな嬉しい事を言って下さる。

お料理、 頑張って練習して良かった。 失敗作も食べさせられた、 おじい様にはちょっと申し訳なかったけれど……。 


 「はい! 」


 嬉しくて、 嬉しくて大きな返事になってしまったわ。 恥ずかしい。

 頭を撫でて貰って、 子供扱いだって分かっていても、 嬉しくて……。 馬鹿みたいな私。

おじい様は、 そんな私に溜息をつきながらも見てみない振りをして下さる。

 以前、 一度だけ…… 『なんで、 アレなんだ? 』 って聞かれたけれど。

私にも分からないの……。 きっと初めて会った時から好きなのよ。 こんなに綺麗な人が世の中には居るのだと初めて知った日。 あの日に戻ったとしても私の心は変わる事はないと思うの。


 「ティーア? 」


 不思議そうな顔でそう問いかけられて我に返った。 私ったら…… まったくセティウス様のお話を聞いてなかったわ。


 「あっ…… はいなんでしょう」


 慌ててそうお返事して顔をあげたら、 セティウス様が私の顔を覗き込んでいた。

綺麗なお顔が近くにあったので、 思わず赤面してしまう。


 「呼びかけても聞こえないようだったから…… 大丈夫かな」


 心配そうな顔に目が合わせられなくて、 あちこちに彷徨う。


 「はいあの大丈夫で…… ふあっ?!」


 やっと、 そう返事を出来たと思ったら…… セティウス様が私の前髪を手であげて――

おでこをこつんと…… わた、 私、 今セティウス様とおでこ同士でくっついてるわ!

 ぼふんと音がしそうなくらい全身、 真っ赤になってしまった。


 「熱はないみたいだねぇ…… ふふ。 少し意地悪しすぎたかな」


 楽しそうに笑いながら、 セティウス様がそうおっしゃる。


 「あ…… う…… そのあの! ち、 近いです…… セティウスさま…… っ」


 呼吸が上手くできません。 涙目でそう言えばセティウス様が、 あやすように私の目じりに唇を落とす。 私が泣いてしまうと良くして下さる仕草だ。 あぁ…… また子供扱いなのね……。

 流石に少し落ち込んでいたら、 セティウス様が頭を撫でて下さった。


 「あぁ…… ごめんね? そんな顔するものだから。 つい。 嫌だった? 」


 おでこは離れたけれど、 今日は大分お顔が近いです。 

けど、 落ち込んだようにセティウス様にそう言われて、 私はブンブンと頭を振った。

セティウス様にされて嫌な事なんてありません! けど、 お顔が近すぎてとてもそんな事口に出せません。 緊張で心臓がおかしくなりそうです……!!


 「そう。 ならもう少し…… いいよね」

 

 囁くようにそう言われて、 突然噛みつかれるように私の唇にセティウス様の唇が触れる。 


 「っ」


 驚いて、 出かけた悲鳴を飲みこみました。 目をぱちぱちさせて固まっていたら、 セティウス様がニヤリと笑って、 私の唇を舐めて離す。


 「セティウス様…… これは…… 何? 」


 心臓がもう壊れそうです。 何ですか? 今の。


 「キスだよ。 あぁもう可愛いなぁ」


 ギュッと抱きしめられて耳元で囁かれる。 可愛いですか? そう言われて私の心臓がきゅうってなりました。


 「キスですか? 何だか変です。 ふわふわします」


 さっきのはキスと言うのですね。 覚えました。 けどなんでしょう……。 

なんだか身体が変です。 力が入りません。


 「ねぇティーア。 今のは好き? 」


 耳元でまた囁かれて、 一生懸命に考えました。

少なくとも嫌いじゃありません。 


 「…… 多分、 好きです」


 真っ赤になったままでも答えが言えたのはセティウス様が、 私を抱きしめていてお顔が見えないからだと思います。 じゃなければ、 私は答える事なんてできなかったと思うんです。


 「そうか。 じゃあ、 私の事は好きかな? 」


 いきなり低くなった声で言われました。 耳を甘噛みされて背中がゾクゾクと変な感じがします。

思わず、 セティウス様から離れようとしたらもっと強く抱きしめられました。


 「えっ! あの…… それは、 あの…… どういう」


 これは、 私がセティウス様に恋をしてるって事がばれたのでしょうか? それとも、 普通の好きか嫌いかですか……? なかば混乱している私の耳元にセティウスさまの苦笑が響きます。


 「私は君が好きだよティーア…… ちなみに花が好きとかそういう好きじゃないからね」


 何ですか? 今…… おかしな事が聞こえました。


 「嘘。 うそうそ、 嘘です! だっていつも子供扱いだったじゃないですか!! 」


 今度こそセティウス様を引き剥がして、 泣きながら怒りました。

だって、 今までだってずっとずっと子供扱いでした。

 私なんか、 セティウス様に相応しく無いって事くらい知ってます。


 「子供相手にキスするほど私は酔狂じゃないよ。 ……キスはね。 普通は恋人とするものだ。 まぁ、 もう少し我慢しようとは思っていたけどねぇ」


 真剣な表情で、 そう告げられて私は混乱しました。

子供じゃないって思って下さったのなら、 子供扱いはなんだったんだろう…… とか。

我慢するつもりだったら、 何故…… とか。


 「じゃあ何で……? 」


 ぽつりと出た呟きに、 セティウス様が蕩けそうな笑顔を浮かべて私を見る。


 「君があんまり美味しそうな顔をするもんだから。 我慢できなくて」


 美味しそうな顔ですか? 私、 どんな顔してたんでしょう……。

ただ、 今は恥ずかしくて泣きそうで混乱してて何も答える事が出来ないです。


 「~~~っ! 」


 「答えてティーア。 そして私のものになってよ」


 そんな私を愛おしげに見つめてセティウス様はそう仰った。

 

            ※     ※     ※

 

 ティーアを見つけた頃……、 父上に聞いた事がある。

最初から、 母上を妻にするつもりで傍に置いたのかと。 答えは違った。 誰もが父上を恐れる中、 荒野に捨てられた幼い母上は涙目で父上のマントにしがみついたという。 

 父上は恐れず自分の目を見た子供に興味を持っただけだったと笑って言った。

なのにどうして? と思ったら、 父上が『俺にはその気はなかったが、 俺の無意識は違ったようだ』 とそうポツリとこぼした事が忘れられない。 

 どういう事かと聞いてみれば、 保護した後に母上を殺そうとした奴隷を思わず殺したり、 母上に手を出そうとしたヤツをなんとなくイラっとして殺したり……。 


 ―― 無自覚ですけど、 それって独占欲と嫉妬ですよね…… 父上。 という感じの事をやってたらしい。


 兄上も含めてだけど、 親子揃って力のない人間なんかに一目惚れって……。 なんだかな。

けど、 出会ってしまったんだからしょうがない。 

 ティーアを他の誰かに渡してやるなんてとんでもない―― 彼女は私だけのものだ。

 

            ※     ※     ※

 

 どうしようどうしようどうしよう。

セティウス様が私の事を好きだって。

 急に子供扱いじゃなくなるなんて思って無かった。

まともに顔がみられない。

 心臓が壊れちゃう。

キス…… キスは恋人がするものだって言ってたわ。 

 キス。 

どうしよう、 セティウス様とキスしちゃった。

 ちょっと待ってこれはもう恋人同士だという事かしら? 

あぁ、 でもセティウス様が答えてって。 

 好きだって言わなきゃいけないって事??

どうしよう―― そんな事言えないわ。

 だってそれこそ死んじゃうきっと。


グルグル思考が回って混乱している私に、 セティウス様が私の考えを読んだかのように微笑んだ。

「だったら、 頷いてティーア…… 私の事を好きだって」 そう耳元で甘く囁かれる。

勇気をだして頷いたら、 「良い子だね」 そう言ってセティウス様は私にまたキスをした。


成長したティーアはセティウスの手の平の上で見事に翻弄されてます。

「だってその方が可愛いんだもの」

セティウスのそんな声が聞こえて来そうです。


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