プロローグ
親愛なるレカルディーナお姉さま
お姉さまがライツレードル女子寄宿学院から去って早三日が経ちましたわ。わたくしエルメンヒルデはお姉さまとの約束の通り元気よく過ごしています……と言いたいところですが寂しくて仕方がありません。こうして三日目に筆を取ってしまうくらいには。
もうすぐわたくしたちも部屋を引越しします。最上学年になるのですから寄宿部屋もいよいよ一人部屋、ではなく二人部屋になりますわ。
できればレカルディーナお姉さまが使われていた四二三号室がよかったんですけれど、こればかりは学校からの割り振りですので主張などできません。けれどみんな口には出さずともお姉さまが使われていたお部屋を切望していたのはひしひしと感じています。
もちろんまだ部屋の割り振り表は発表されていないのでどうなるかはわかりませんけれど。
そうそう、お姉さま。
今回こうして手紙をしたためたのにはちゃんと理由があるのです。
ただお姉さまのことが懐かしくて、寂しくて、ということだけではありません。わたしくしはちゃんと約束は守ります。お姉さまが卒業されても悲観することなく明るく楽しく過ごすように、というお姉さまとの約束はしっかり守っていますわ。
同封した新聞記事はもうお読みになりましたか?
今週号のフラウディーニは月二回の恒例であるメーデルリッヒ女子歌劇団の特集記事の号なので同封しました。もちろん特集記事も大事なのですが、今回お知らせしたいのはそれだけではございません。
なんと、重大なお知らせが掲載されていましたの。
メーデルリッヒ女子歌劇団が今度大がかりな団員募集をするそうなのです。もちろんこれまでだって団員志望の役者が門戸を叩くことは多々ありましたが、今回は団員希望者を一堂に会して大がかりな選抜大会を行うとのことです。
これまでにない画期的な取り組みとして大きく取り上げられていましたわ。
しかも、ここが重要です。
募集要項を読みましたら、経歴不問と書かれていました。役者としての訓練を行っている者、推薦状を持っている者限定ではなく、幅広く候補者を募るとのことで、年齢規定十九歳まで、女性、という条件を満たしていればだれでも選抜会に参加可能なのですわ。
これは大きなチャンスです!
レカルディーナお姉さまは日ごろからメーデルリッヒ女子歌劇団に入りたいとおっしゃっておいででしたもの。これは是が非でもお姉さまにお知らせしなければと思った次第ですわ。
是非選抜会を受けにフラデリアに戻ってらしてくださいね。その際には我が寄宿舎にも顔を出してくださるとエルメンヒルデは喜びますわ。
お姉さまのことが大好きなエルメンヒルデより
可愛い後輩エルメンヒルデから届いた手紙を自室で読んでいたレカルディーナは急いで同封されていた新聞記事を掴んだ。端から端までよおく読むこと数回。念には念を入れてもう一度目を通す。
「こうしちゃいられないわ」
レカルディーナは手紙と新聞記事を机の上に置いて立ち上がり、勢いよく扉を開いて外へと飛び出した。
一目散に駆けだして鋏を探し出して、ためらいもなく自身の長い髪の毛を切り落とした。
そして……。
そのしばらくのち。
屋敷の主人でありレカルディーナの父セドニオ・メデス・パニアグア侯爵が倒れたという一報が屋敷を駆け巡り大騒ぎとなった。