金魚は海では泳げない (3)
朝起きて身支度をして学校に行って家に帰る。いつも通りのことを今日もこなしていた。
何一つ変わらず、時は流れていった。俺の家は海から近く、俺の通ってる高校にも近い。俺の家から学校までが徒歩で10分くらいの所にあり、海は家を出てすぐに見える。いつも通り、そういつも通りに下校していた。時刻も道もいつも通り。しかし、海の近くまで家に近づいていたときだった……
人が倒れている。
しかも下半身が海に浸かっていた。
俺は倒れてる人のところへと走った。神様は俺に視力と頭脳を与えたが運動神経は与えてくれなかった。砂浜の上を必死に走る。砂に足が埋もれて走りにくい、今にも足が絡まって転んでしまうかもしれない。
…………もし…運悪く…に………しまったら。
不安を抱きながらも夢中で走り抜け、息を乱しながらやっとの思いで到着したところにいたのは……
____雨宮律が転校してきてから三日目のことだ。
俺はいつも通りに過ごしていた。3限目の授業が体育で、この時期の体育は水泳だ。だが俺は泳ぐことができない。神様は俺に運動神経を与えなかった。水が怖いとこの歳でも思うし浮くのは愚か泳ぐために水に浸かるのがとにかく恐怖でしかない。
そんな俺は今日も水泳の授業を見学していた。雨宮律と。そう、2人で。
「なんで海崎は泳がねーのぉ?」
プールに足を浸けてぴちゃぴちゃと水遊びしながら雨宮が聞いてきた。雨宮が体育を見学するのは今日が初めてだった。
雨宮はこの学年だけでなくほかの学年の女子にも人気だった。顔よし性格よし、頭もよければ運動神経もいい。天は二物を与えずとよく言うが雨宮は二物どころかすべてを持っていた。俺には運動神経を与えなかった神様は雨宮にすべてを与えたのだ。
「俺は毎日男の子の日なの」
自分でも馬鹿な応答だと思った。雨宮も流石にひくと思ったが、ケラケラと腹を抱えて笑っていた。
「いいねえ。海崎面白いよ。気に入った」
「俺もね、実は今日、男の子の日」
続けてそう言った。こいつは何を言っているんだ。
冗談だよと雨宮は笑っている。また。まただ。こいつ、目が笑っていない。不気味なやつだ。
雨宮はそれ以上は何も聞かずただ遠くを眺めていた。
3限目が終わり体操着から制服に着替えて教室に戻ると雨宮は何故か早退していた。
____早退をした雨宮がそこに横たわっていた顔は真っ青で“人間”って感じじゃなかった。恐る恐る近づき、首の脈に手を当てた。ドクドクと雨宮のなかに流れる血のたてる音が指先に伝わってくる。
急に首元を触っていた手をガシッと握られた。強い力だった。
「雨宮……?」
雨宮は目を見開き俺を凝視した。そして一言。
「ごはん食べさせてよ」
謎の一言に言葉を返すことができず沈黙が続いた。
寄せては返す波の音だけが海岸に響いていた。