カードパワーVS戦略
未だ余裕の態度を崩さない優。
その涼しげな表情を眺め、轟は合点がいったとばかりに歓喜の声を上げた。
「そうか! ハッタリだ! 全部ハッタリだったんだ! そら見たことか。お前らがこの轟様に勝てるわけがねえんだよ! おい雑魚共! しっかり目に焼き付けとけ! これが王の座に君臨する者の力だ! ターンエンド。そして焼き尽くせ、ヴォルケーノ! あいつに吠え面をかかせてやれぇぇ!!」
叫ぶ轟。
その最中、優が何やら口を動かしているのが目に入った。
しかし、轟は自分の叫び声のせいで聞き取れなかったため、首を傾げ考えを巡らす。
先程の口の動きが何を意味するのかについて……。
そして数秒後、すぐにまた不敵な笑みを浮かべ……。
「そうか、降参か。ま、これでよくわかっただろ。誰が最強か……」
と、納得して酔いしれ出した。
だが、次の瞬間!
「カウンター……発動」
優の宣言が轟の言葉を遮った!
とても落ち着き払った口調……。
しかし、その声は悍ましい程に冷たく、胆が据わっている……。
そして直後、彼は手札から1枚選び取ると、ゆっくりとその表面を轟へと向けた。
「ウェーブを使用。ヴォルケーノを手札に戻せ」
「なっ!?」
想定外の出来事に固まる轟。
その様子を見て、優は口元を歪める。
「どうした? 効果がわからないのか? それとも、オレと同じようにカウンターで対処するか?」
今までのお返しとばかりの煽り。
無理もない。
彼がこの瞬間をどれほど待ち侘びたか。
この時のために、ひたすら耐えたのだ。
本当はずっと優の手の内であったのに、それをわからず驕る轟や勝手に失望する観客の愚かさへ、どれだけ頭に来ようとも……!
一方で、轟は一言も返せず歯を食い縛っている。
その様子を前にし、優は頭を抱え、やれやれとばかりに首を左右に振り笑いを漏らす。
そして数秒後、それを抑えつつ再び口を開いた。
「できるわけねえよなあ? だって、お前はそんなカード使わないだろうから。姑息なカードと判断したお前が、デッキに入れるわけがない」
一転して攻勢に立つ優。
対し、轟はヴォルケーノを手札へ戻し、ギロリと睨む。
「いい気になるなよ? こっちにはまだレッドドラゴンがいる。次のターンの攻撃でお前の負けだ。せいぜい足掻いてみせろ」
負け惜しみにも似たセリフを受け、迎えた優の5ターン目。
彼は取捨選択を使用し手札を入れ替えると、自軍で攻撃した後にターンエンド。
再び回ってきた轟のターン。
彼は怒りに手を震わせ、手札から1枚を選び取り……。
「こんなにイラつかせてくれたのはお前が初めてだ。褒めてやる。ライフ1の雑魚共に使うには少々もったいないが、仕方ねえ。お前はそれに値すると認めてやるよ」
そう言って、場へと叩き付けた!
「今度こそお前の陣営は全滅だ! 食らえ、業火っ!」
光沢を纏うゴールドのサポートカード、業火。
その効果は強力で、相手のレプリカ全てに4ダメージを与えられる。
目をギラつかせ喜ぶ轟。
だが、次の瞬間!
その目に映ったのは優が1枚のカードを選び取る姿。
轟は俄かに焦り、目を見開き息を呑む。
しかし、もう遅い。
「カウンタースペルを使用。業火を捨て札へ」
「なっ!? ……くっ!」
悲痛な声を漏らし、渋々従う轟。
悔しさと共に、いよいよ怒りも頂点へと達する。
「好き放題やりやがって……! だが、こいつを忘れてねえか? レッドドラゴン。こいつの攻撃時効果でお前は負ける。念のために場を片付けておきたかったが、まあいい。これでトドメだ! 攻撃!」
「カウンター発動。バブル」
「うぐうぅ!」
再三にわたる妨害に、さすがの轟も呻き声を上げた。
優の使用したカードにより、レッドドラゴンは1ターンの間だけ行動停止。
他にできることもなく、ターンを渡す轟。
先程まで落胆していた観客たちも、食い入るようにバトルを見守りだす。
そして、6ターン目を迎えた優は、1枚のカードを場に出した。
「風乗りを使用」
効果により、優は山札の上から5枚を公開し、その中から3枚を選び召喚。
さらに、召喚時の効果により手札も増える。
そして、みるみる蒼褪めてゆく轟へと、もう1枚カードを突き付けた。
「たった今、幼きエスパーの効果でサーチしたのを見てわかっただろう? ウェーブを使用。対象はレッドドラゴン」
「何でだ!? 強力なはずのプラチナカードが2枚とも、何で完封されてんだよ!? ブロンズ以下のカードなんかに……!」
轟が悲痛な叫びと共に、レッドドラゴンを手札へと戻す。
観客たちは歓声を上げる。
狼狽し目を泳がす轟。
その様子を優は嘲笑う。
「だから言っただろう。カードゲームはレアリティで戦うもんじゃないって。見てみろよ、自分のライフ。毎ターン削られ続けて、もうたったの8だ。そして、このターンでさらに減る。プレイヤーへ総攻撃」
先に召喚済みの3体で攻撃し、轟の残りライフは僅か5。
返ってきたターンで轟は必死に打開しようと藻掻くものの、やはり手も足も出ず。
次のターンで6体の総攻撃を受け、ついにそのライフは0となった。
轟は愕然とし、テーブルへと突っ伏す。
「嘘だ……こんなことあるわけがない……」
譫言のように呟き、いつまでも口をパクパクとさせている。
その対面には堂々と立つ優。
そして、周囲で沸き上がる歓声の中、花織が優へと駆け寄った。
「すごかったです! こんな勝ち方があるなんて、全く気付きませんでした……。やっぱり、優さんにお願いしてよかったです!」
はしゃぐ花織が発した優の名。
それが轟の耳へと入る。
「優……。……優? どこかで聞いたような……。どこかで……ッ!」
思わず息を呑み、飛び退く轟。
見開いたその目に優の顔が映る。
「お、お前……! あの伝説の天才ゲーマー、優か!?」
轟は驚愕のあまり叫び、周囲の人々がざわめく。
携帯で調べだす者、その検索結果を見せてもらう者。
正体を知った者たちから憧れの眼差しを受け、優は溜息を吐く。
「やれやれ、バレたくなかったんだがなあ……」
そう言ってチラリと視線を送ると、花織は俯いた。
「……すみません」
返された消え入りそうな声に、優は再び溜息を吐く。
そしてその後、轟へと向き直った。
「ま、そういうわけだ。相手がオレだったとわかれば納得できるだろう?」
「何だと? ふざけるな! 相手が誰だろうと負けた理由にはならねえんだよ! これで終わりだと思うな。次は絶対に勝つ!」
そう怒鳴り散らし、ショップを出ていく轟。
それを見送った後、優は改めて花織へと向き直った。
「本題だが、オレはまだお前に力を貸すとは言ってない」
「え? ええ!?」
不意を突く発言に戸惑う花織。
その目の前で、優は冷たい表情を浮かべていた。
【デッキ紹介】
デッキ名:フロスト
タイプ:速攻
使用者:優
【デッキ内容】
見習い天使:4枚
幼きエスパー:4枚
ヒメカゼスズメ:4枚
カゼスズメ:4枚
エリミネイター:4枚
コンフュージョン:4枚
サボタージュ:4枚
カウンタースペル:4枚
ネゲイション:4枚
バブル:4枚
ウェーブ;4枚
取捨選択:4枚
パラレル:4枚
フェアリーサークル:4枚
風乗り:4枚
【解説】
轟のデッキを狩ることへ特化したデッキ。
カウンター耐性の無さを突き、身動きを取れなくして攻め切る。