冷めた心
優の虚ろな目に、花織が単なる映像として映る。
凍りつくような視線。
加えて先程の冷たい返答。
その態度に、花織は委縮するあまり俯いてしまう。
しかし、ここで逃げては水の泡。
すぐにまた勇気を振り絞り、まっすぐに見つめ返す!
そして、大きく息を吸い……。
「あなたが! えっと、その……」
ハキハキと切り出したものの、すぐに失速。
緊張で言葉が途切れ、口元は震えだす。
それでも必死に踏み止まり、一度浮かんだ言葉をゆっくりと手繰り寄せる。
「ええと……。優さん……ですか?」
やっとの思いで出せた声。
しかし、すぐには返答がなく、しばらく沈黙が流れる。
不安な表情で待つ花織。
すると、数秒後……。
「そうだが、突然何の用だ?」
またしても、ぶっきらぼうな返答。
重たい空気の中、花織は伝えるべき言葉を脳内で反芻する。
そして、呼吸を整え意を決した。
「えっと……ウィザーズウォーゲーム……っていう、最近流行りのカードゲーム……知ってますか?」
脳内での予行演習が裏目に出て、多少ぎこちなくなったその問いかけ。
だが、優はそれすら気にも留めず、一切の興味を示さない。
そして、再び数秒の沈黙が流れた後……。
「知っているが?」
ようやく返ってきたのは、やはりたったの一言。
しかし、花織はめげずに視線を交わし続ける。
再三に渡り流れる沈黙。
と、次の瞬間、花織は勢いよく頭を下げた。
「お願いします! 助けてください!」
大声で懇願。
さらに再度……。
「お願いします!」
その姿勢のまま、声に出した。
対し、優は怪訝な表情を浮かべる。
「……助ける?」
「はい!」
返事と共に、花織は勢いよく顔を上げた。
優は思わず半歩退く。
すかさず花織がその間を詰める。
「私、どうしてもお金が必要なんです! この大会で勝てば、賞金が手に入るんです!」
「……で? 代わりに出てほしいと?」
「はい……」
俯く花織。
対し、優は外方を向き、深く溜息を吐いた。
再度流れる沈黙の中、逃げずにじっと上目遣いで見つめる花織。
やがて、優は横目で彼女を見ながら口を開いた。
「何でそんなことオレがしなければならないんだ? 大体、賞金だけ自分がもらうだなんて図々しい話がどこにある?」
吐き捨てられた抑揚の薄い声。
対し、花織は間髪入れずにもう一度頭を下げた。
「お願いします! どうしても必要なんです! カードならありますから……。あなたに全部差し上げますから……」
こちらも負けじと必死の懇願。
だが、優は非情にも背を向ける。
「いらないな。カードを買う金くらいある」
「そんな……」
「悪いが、オレは二度と誰にも期待されたくないんだ。他を頼れ」
そう言い残し、歩き去ってしまった。
ここまではっきりと断られてしまっては、これ以上どうすることもできない。
やむなくして、俯きながらショップへ戻ると、翔に優しく出迎えられた。
そして、明日もう一度頼んでみるよう励まされ、この日は帰宅。
翌日、ゲームセンターを探すも優の姿は見つからなかった。
仕方なくショップへ向かい、暗い顔でドアを開けたその時!
奥のテーブルで人影が揺らいだ。
「……ッ!」
花織は息を呑み、みるみる蒼褪める。
その目に飛び込んできたのは、膝から崩れ落ちる男性の姿。
たった今、バトルに敗れたプレイヤーだ。
その対面には不敵に笑う轟。
やはり、相手へと罵声を投げかけており、周囲の人々の反感を買っている。
その様子を見ただけで花織の足が竦む。
だが、しばらく見ている内に敗者を放っておけなくなり、またしてもそのテーブルのもとへと歩き出した。
そして面と向かって非難し、昨日と同様にバトルへと突入。
と、丁度そこへ優が来店した。
しかし、すぐに異常を察知し踵を返してしまう。
そしてそのままショップを後にすべく、溜息と共に一歩踏み出したその時。
「助けてあげないのかい?」
静かな声に呼び止められ、優は徐に振り返る。
すると、声の主である翔と目が合った。
優はその顔を気怠そうに眺め、数秒後……。
「誰だお前……」
さして興味も示さぬまま、機械的に質問を投げかけた。
対する翔は思わず苦笑し、名刺を取り出しつつ歩み寄る。
「ごめんごめん。急に話しかけられても困るよね。僕はウィザーズウォーゲームの社員だよ」
そう言って手渡された名刺をボーっと眺めてから、優は翔へと視線を戻した。
目に映るのは爽やかな微笑み。
対照的に、優は深く溜息を吐き、冷ややかな視線を向ける。
「お前が助けてやればいいだろ……」
翔への文句というよりは、呟きに近いトーンの吐き捨て。
直後、優は立ち去ろうと足を踏み出した。
これにはさすがの翔も慌て、引き留めようと手を伸ばす。
「いやいや、僕には無理だよ! やっぱりここは優君の出番じゃないかな?」
忘れ去られた自らの名が初対面の翔の口から発され、思わず優はピタリと足を止めた。
直後、半歩横を向き鋭く睨む。
「目的はオレか? そうか、お前も鬱陶しいゲームプロデューサーと同じか。いろんなゲームから未だに声がかかるが、はっきり言って迷惑だ」
先程までの冷たく無感情な声とは違う、少し強い口調。
その威圧的な声色に、翔の表情からも笑みが消える。
「同じにされると悲しいなあ。手当たり次第にプロを勧誘している他のゲームとは違って、僕らは君じゃないとダメなんだ。どうしても」
「そうか。だが生憎、オレは表舞台には二度と出るつもりはないんでね。賞金はまだまだ尽きないしな。あの子も金が欲しいなら、自分で稼げばいいだけだ」
「お金が必要な理由が、お母さんの病気の治療費のためだとしても?」
「だったらなおさら自立することだな。親なんていなくても生きていける。結局は金が欲しいだけだろ?」
そう切り捨て、優は再び踵を返す。
翔は引き留めようと再び手を伸ばすも、その手は弧を描き下がってゆく。
そして、追いかける代わりにこう言った。
「違うよ」
と、静かに。
しかし、はっきりと……。
【デッキ紹介】
デッキ名:メガスマッシャー
タイプ:魔力ブースト&猛攻
使用者:轟
【デッキ内容】
耕作:4枚
水やり:4枚
バイオ:4枚
巨大果実ダンシングアップル:4枚
フォレストリチュアル:4枚
マグマエレメント:4枚
方針:4枚
火竜祭:4枚
災害の予知:4枚
リザレクト:4枚
レッドドラゴン:3枚
火吹きのヴォルケーノ:3枚
業火:2枚
ジャイアントボア:2枚
アルファ博士:2枚
途上のユグドラシル:2枚
淀みの大樹:2枚
守り神:2枚
ラファエルの化身:2枚
【解説】
カードゲーム熟練者の轟が作ったデッキ。
低コストもバランスよく入っており、デッキのコンセプトもまとまっている。
しかし、本人も気付いていない致命的な欠陥がある。