意外な申し出
優との情報共有が一段落し、数分後……。
「……うん。大会が終わったら、ね。絶対会わせるから。それじゃ」
神は通話を切り、優の方を向いた。
そして、疲れた表情で口を開く。
「翔さん、怒ってるよ?」
その言葉に、優はゆっくりと溜息を吐き……。
「知るかよ……」
そう呟いた。
対し、神はベッドへと倒れ込み……。
「憂鬱なのはこっちだよ……。優君は身から出たサビでしょ? 僕なんて完全にとばっちりじゃん……」
そう愚痴を溢した。
片やベッドに横たわり、片や椅子にへたり込み、ナマケモノのように過ごす二人。
しばらくして、何の合図があったわけでもなく、各々がカードを取り出し、デッキを組み始める。
すると、いつの間にか二人の共同作業へと発展し、ついに……。
「できたな」
デッキの完成が優によって明言された。
神も納得し、頷く。
「うん。いい戦略だと思う。対策されてないデッキなら、問答無用で勝ちをもぎ取れるし、苦手なデッキタイプにも柔軟に対応できる」
「相性の悪いデッキが来たら、お前がわかるんじゃないのか? それなら、他にも作っておくか?」
「いや……。僕も完璧に相手のデッキを読み取れるわけじゃない。心を読むには、対面のメンタルが大きく関係してくる。それに、心境を読めたとしても、そもそも何をしてくるかわからないような人もいる。凶が何か企んでいることがわかっても、まさかあんな卑怯な戦略を用意してるとは夢にも思わなかったように、ね……」
「……そうか」
「他にも理由はあるよ。デッキを上手く回せるように練習しないといけないから、時間も限られてくる。それともう一つ。タッグマッチという未知のルールにおいて、他の参加者が用意してくる戦略も複雑多岐に渡る。それら全ての対策デッキを組むよりも、どんな相手にも勝てるような、最強のデッキを組んだ方がいい。僕たちならできる」
自信満々の神に対し、優は溜息を吐く。
「あまりプレッシャーかけるなよ。……とりあえず、試し斬りといくか」
「そうだね。明日、カードショップにでも行って、練習試合をしよう」
「相手になるようなレベルの奴がいればいいけどな……」
そう呟き、優もベッドに横たわった。
翌日。
チェックアウトを済ませ、二人はホテルを後にする。
しばらく歩いた頃……。
「どうかしたのか?」
優は朝からずっと抱いていた疑問を口にした。
数秒後……。
「……僕の勘違いならいいんだけどね。微かだけど憎悪を感じる。昨日感じたのと、同じものを……」
「っ!? ……あの殺って奴か?」
「うん。けど、昨日より少し落ち着いてるような気がする……」
「……一体何なんだ、そいつは。本当、訳わからねえ奴だな」
謎めく殺の真意がわからず、不安を覚えながらもカードショップへ到着。
すると、案の定……。
「あら、早かったじゃない」
そこには殺の姿があった。
わざわざ入り口に一番近いテーブルを占拠している。
神は警戒しつつも、口を開く。
「……僕たちに何か用?」
「随分と酷い対応ね。せっかく練習相手になってあげようと、遙々やって来たというのに」
飄々とした態度でそう言ってのける殺。
直後、優は対面へと歩み出ると、テーブルを叩いた。
「何が目的だ? お前」
「今は言えないわ。そんなことより、ゲームを始めましょう? ルールは大会と同じ。確認済みよね?」
「ああ。当たり前だろ?」
「それならいいわ。私は一人二役で戦うから、まとめてかかって来なさい」
「舐めた真似を……。他の奴は連れて来てないのか?」
「あんな奴ら、いる方が邪魔よ。舐めてるだなんて心外だわ。私一人で戦う方が強いから、こうしたまでよ」
「そうか……。そこまで自信があるのなら、今回は神に負わせたようなハンデはなしだ。いいな?」
「ええ、もちろんよ」
お互いの戦う意志を確認し、バトル開始!
コイントスにより、殺の先攻となった。
タッグマッチの公式ルールでは、先攻側と後攻側が一人ずつターンを担当し、後攻2プレイヤー目は最初から無属性の魔力1つと手札が1枚多い状態でスタートする。
そして、先攻1プレイヤー目は、通常のルール同様、最初のターンのドローがなく、チャージできる魔力も無属性のみ。
その上さらに、殺は初期手札が2枚しかない。
これは何も、タッグマッチのルールにおけるものではなく、アイテムカードの設置効果によるもの。
アイテム……それは、初期手札の代わりにストックゾーンへ置いた状態でバトルを開始できるカード。
それらが今、全て表向きとなった。
そして、殺は無属性の魔力をチャージ後……。
「忍耐の象徴ジェイドを使用するわ」
そのアイテムカードの内、1枚を場に出した。
その効果により、1ダメージを受ける代わりに無属性の魔力を1追加。
早くも殺の魔力は2。
対する優のターン。
彼はツインバードを召喚し、効果によりトークンを場に出した。
これにより一気に2体のレプリカが並び、攻撃の準備が整う。
そして、殺側の2プレイヤー目のターン。
彼女は水の魔力をチャージし、ストックゾーンから聡明の象徴アクアマリンを使用。
これにより、山札からシヴァルリー2枚を公開し、手札に加えた。
対する神のターン。
彼は闇の魔力をチャージし、カームカウンセラーを召喚。
これにより、山札から邪教の会合を1枚手札に加え、ターンエンド。
迎えた殺のターン。
彼女は水の魔力をチャージすると、再びストックゾーンのカードを手に取り、場へ出した。
「忍耐の象徴ジェイドを使用。魔力をさらにチャージ。続けて聡明の象徴アクアマリンを使用」
カード使用の宣言後、数秒の間を置くも優たちに打ち消す気配は無し。
すると、殺は山札を手に取り、カードを探し始める。
そして……。
「……危機感がないわね。今からどんな目に遭うかも知らずに……」
そう言って、残念そうに溜息を吐いた。




