邪悪な集団
殺は当初の予定通り、1枚のカードを選び取る。
「バブルを使用。カウンターは使うかしら?」
「いいや、その宣言を通すよ」
神も間髪入れず予定通りの対応。
ここはまだ反撃のタイミングではないと見ている。
しかし、その直後……。
「そう……」
殺が落胆の声を漏らした。
その意味が神にはわからぬまま、彼女は淡々と山札からカードを1枚選び、捨て札へ置く。
そして……。
「まだ自分の敗北に気付いてないのね」
そう口にした。
対し、神は反論に出る。
「揺さぶりのつもりかい? 君の手札は残り4枚。その枚数では、他の3人と同じ行動は取れない。それに、仮にできたとしても、僕は13枚の破滅を4人分……合計52枚の喪失で済む。初期手札5枚に、2ターン目のドローを合わせても、ギリギリ2枚残る。対し、君は2ターン分の山札喪失を耐えられない。結果、プレイヤー1の僕が最後に生き残る」
「甘い見立てね……」
殺は失望しながら、次なるカードを場に出した!!
「狂気を使用」
「っ!」
明かされた敵側の秘策!
狂気……それはサポートカードを1枚打ち消すのが主な効果。
しかし、今回の狙いはそちらではない。
もう一つの効果……それは、各プレイヤーの山札から2枚を捨て札へ置くというもの!
これで殺は終焉の鐘の音のコストとなる捨て札のカードを溜め、同時に神を敗北へ至らしめるのに足りなかった2枚分を補える。
驚愕の解決札!
これには神も驚いたが、彼の予定に支障はない!
今が絶好のタイミングと見て、ついに反撃に出る!!
「そのカードさえ防げば、こちらの勝ちだ! カウンター発動! ディレイ!」
神の声が雷のように響いた!
仮に再びコンフュージョンで逃げたとしても、手札が足りなくなり、殺が詰む。
勝利を確信する神。
数秒後……。
「……がっかりね」
そう言って殺はディレイを通し、打ち消された狂気をストックゾーンに置いた。
そして……。
「がっかりよ……。これで勝ったと思っている貴方にね!」
衝撃の言葉と共に、手札から1枚選び取る。
そしてそれを、すぐさま場に出した!
「ワイズパロットを召喚」
「っ!?」
「わかるわよね? 効果により、捨て札にあるスペルを2枚回収する。コンフュージョンと……バブルで落としたもう1枚のコンフュージョン。これで私の手札は4枚に戻る」
「くっ……! けど、君の捨て札は減った!」
「だから甘いのよ!!」
怒鳴り声と共に、手札が場に出る。
「パラレルを使用」
「っ! そんな……まさか」
「これは通常のルールじゃない。私たちはシャッフルをしない。そういう約束よ。そのルール下でこのカードを使った場合、手札を総入れ替えしつつ、捨て札を1枚増やせる。私はこれを2枚使う。そして……」
効果処理の後、絶望的な1枚が突き付けられた!
「狂気を使用。これが通れば勝ちよ。私がターン終了時に失う山札は、これまでに3人が捨て札へ送った39枚の破滅と、私が今増やした9枚で合計48枚。さらに初期手札5枚とターン開始時に引いた1枚。そして、バブルとパラレル2枚、狂気で削られた5枚を引き、私の山札はギリギリ1枚残る」
自らの敗北を言い渡され、神はテーブルを叩く。
その様子を見て、殺は溜息を吐いた。
「……終わりね」
ターンが終了し、後は為す術なく神はプレイヤー1から順に山札を全て失った。
そして、3ターン目を迎えると同時に敗北。
数秒後、凶の邪悪な笑い声が響き渡った。
「いやあ、楽しかったなあ。あの神に勝てるなんて、オレたちすごいや」
煽る凶。
その品性の欠片もない笑い声のする方へと、神は睨み返す。
すると、凶はさらに面白がる。
「お? どうしたんだよ? 負けは負けだろ? 認めろよ」
「……この卑怯者!」
「褒め言葉をどうも。そんなに怒るなって。オレは優しいんだぜ? 勝ったらという約束だったけど、あれはお前を焚き付けるためのただのエサだ。優の居場所は教えてやるよ」
そう言って、凶は壁に映像を映し出す。
そこには、ハットを被った男と対戦する優の姿があった。
途端に神は目を見開く。
常人には見えずとも、彼の目なら追うことができる。……そのハットの男の不正を!!
「優君にまで何てことを! 今すぐやめさせろ!」
「嫌だね。こんな愉快なショーに誰が水を差すかよ。どうだ? 上手いだろう? 醜は天才マジシャンなんだ」
「……このっ!」
神は耐えかねて吹き抜けの上に続く通路へと走り出そうとする。
しかし……。
「おっと、変な真似はよせよ? こっちには心強いボディーガードがいる」
そう言って凶は、影しか見せなかった二人を、吹き抜けから顔を出させた。
屈強な大男と、スラリとした長身長髪の男がニタニタと笑っている。
「暴は柔道、戮は剣道と居合いの達人だ。さすがのお前でも勝てないぜ?」
「くっ……!」
神は優が負ける様子をただ黙って見ているしかなかった。
そして、決着後……。
「次の大会にも出ろ。お前たち二人揃ってな。さて、用は終わりだ。帰れ」
凶は一方的に告げると、戮へ指示を出し神の足元へ向かってダーツを投げさせた。
見ると紙が刺さっており、優の向かう先が書いてある。
神は悔しさを噛みしめつつも、優を追うためその場を後にした。
――そして、数時間後。
神の地獄耳を以てしても到底聞こえない距離まで離れたと確信した後、殺が凶へと問いかける。
「なぜ、二人にもパラレルを使わせなかったの? その方がノーリソースで捨て札を溜められるわ。それか、狂気を使わせればよかったじゃない」
当然の疑問。
対し、凶は笑いながら答える。
「それじゃつまらないだろう? オレはエンターテイナーなんだ。ギリギリまで引っ張って、最後に鮮やかに勝つ。それがオレの美学さ」
「……下らないわ。負けたらどうする気?」
その問いに凶は吹き出す。
「ないない。だって隠しカメラで手札は見てたし。前もってデッキも確認済み。おまけにお前から借りた心理学の本から得た知識を元に、戮に組ませたAIで空調をコントロールし、シャッフルのタイミングを……」
「待ちなさい」
殺が話を遮った。
そして、鋭い剣幕で爪を喉元へ突き付ける。
「私のバッグを勝手に漁ったわね?」
「悪い悪い。ちょっと借りただけだって……」
「次やったら無事では済ませないわよ。いいわね?」
そう言って憎悪と殺意を宿した目で睨んだ。