猛攻! 目覚めた獅子、神!
ずっと温めていたデッキと共に、自らの思いを解放した神。
その顔は明るさに満ちている。
会場にいる全員、そんな表情の彼をこれまで一度も見たことがなかった。
そう、誰も知らない。
神だって最初は、ゲームが好きで無邪気に笑っていたことなど……。
初めて神が同年代の子をゲームに誘った時のこと。
彼は胸をときめかせ、満面の笑みで臨んだ。
しかし、それはすぐに消え去った。
対面した相手は、神に不満を抱き、あるいは気味悪がり、神から離れてゆく……。
そして、神はゲームを楽しむ気持ちを忘れてしまった。
しかし今、その思いが神の心に蘇る!
純粋でまっすぐな、あの頃の思いが……!
会場にいる人々にも、少しずつ伝わりだす。
彼もまた、苦悩を抱えていたこと。
そして、その苦悩からようやく脱出できたこと……!
人々の目には、神が煌々《こうこう》と輝いて見えた。
その煌めきに、一瞬で心奪われた観客も多い。
故に、湧き起こる……彼を応援する声が!!
神は驚き、会場を見回す。
初めて自分が応援されている、という衝撃。
……神の頬を涙が伝った。
そして、その対面……優も温かい笑みを浮かべ……。
「オレたちはずっと、楽しむことを忘れていたのかもな。お前もゲームを楽しんでいいんだ。さあ、始めよう」
「……そうだね。せっかくの大舞台、目いっぱい楽しもう!」
こうして、二回戦目がスタート!
今度は優の先攻となり、ターン開始。
まずはシヴァルリーを使用するも、敢えなく神にパラダイムシフトで対処されてしまう。
続いて神の1ターン目。
彼は水の魔力をチャージし、ストックゾーンへと手を伸ばした。
そして……。
「ソーダ味の魔法石を使用!」
ゲーム開始時に設置したカードの発動を宣言。
そのカードの効果は、トークンを1体出すと共に、山札からウィズダムを1枚サーチするというもの。
攻めの起点として、これまでもずっと見てきた基本の動き。
対し、優はこれをスルー。
神の宣言が通り、山札からパラダイムシフトを公開し、手札に加えた。
まずは順調な立ち上がり。
続く優の2ターン目。
彼は水の魔力をチャージし、カームを使用宣言した。
しかし、またもや神のパラダイムシフトによって阻まれる。
だが、それは想定済み。
なぜなら、神が先程ソーダ味の魔法石でサーチしたのを見ていたから。
それに、優のターンはまだ終わりではない。
パラダイムシフトによって打ち消されたことにより、消費した魔力が戻ってくる。
優はそれを用い、ストックゾーンにあるソーダ味の魔法石を使用した。
そして、今度は宣言が通り、無事に召喚成功。
優の手札にもパラダイムシフトが加わり、ターンエンド。
そして、神の2ターン目。
彼は闇の魔力をチャージし、手札を場に出した。
「イモータルベビーを召喚!」
宣言されたそのカードは、水と闇の混合カード。
その効果は、死亡時に山札からウィズダムをサーチし、なおかつ自身を手札に戻すというもの。
しかも、相手の攻撃対象を自身に向けるガーディアンという能力まで持っている。
何度も使い回せる非常に強力なカード。
しかし、優の手札にはレプリカを打ち消すためのカウンターがない。
仕方なく、ここもスルー。
そして、引き続き神はソーダ味の魔法石で出したトークン――実験体による攻撃を宣言。
その対象は、同じくトークンとして出た優の実験体。
プレイヤーへの攻撃ではなく、場の取り合いを選んだ神。
優はそこから、相手が長期戦を目指していることを悟る。
そして、優の3ターン目。
彼はソーダ味の魔法石と幼きエスパーを使用し、態勢を整えた。
続いて神の3ターン目。
彼はカードの使用は幼きエスパーのみに留め、イモータルベビーでプレイヤーへ攻撃してターンエンド。
ここまで、神の狙いはまだ完全には判明していない。
しかし、その一部がもうすぐ明かされようとしている。
優の4ターン目。
彼はまず、攻撃宣言を行った。
神が温存した2魔力を警戒しての行動。
何かを目論んでいる神。
それが今、明るみに出る!
「イモータルベビーでガード! そして、カウンター発動! サクリファイス! 対象はイモータルベビーと優君!」
「……そういうことか」
納得した優。
神の使用したカード――サクリファイス。
このカードは、自身のレプリカ1体を犠牲に、対象へ4ダメージを与える効果。
ガード宣言直後のため、戦闘は行われない。
ただし、ガードされた攻撃側のレプリカは、攻撃が空振りとなる。
これにより、神は攻撃1回分のテンポアドバンテージと、サクリファイスの効果ダメージによるライフアドバンテージを得た。
しかし、場のテンポアドバンテージは優へと傾く。
それを活かし、優も場の態勢を整えてターンエンド。
迎えた神の4ターン目。
彼は幼きエスパーで攻撃した後、カードを場に出した!
「僕の幼きエスパーに対し、エマージェンシーを使用!」
「ッ!? カウンター発動! オネスティ!」
優は慌てて打ち消しを宣言。
それは当然。
なぜなら、たった今使われたエマージェンシーは、ハンドアドバンテージの塊だから。
その効果は、自分のレプリカ1体を手札に戻す代わりに、捨て札からサポートカードを1枚手札に戻すといったもの。
通常、レプリカを手札に戻されるのはテンポアドバンテージ的に損であるため、これはデメリットとして働く。
しかし、これは使い方次第で大きなメリットに変わる!
今、その効果により戻そうとしているのは、幼きエスパー。
このカードは、使用時に山札から水のサポートカードをサーチする効果を持つため、手札に戻せば再度その効果を発動できる!
しかも、その際の消費魔力はたったの1!
加えてエマージェンシー自体の効果により捨て札からもリソースを回収される!
優としては、このコンボを食らうわけにはいかない。
そうした事情により、躊躇なくカウンターの使用を宣言した。
しかし、神もここはどうしても通したい。
故に、カウンターを切る!
「オネスティに対し、ディレイを使用!」
「ッ……!」
結局、それは通ってしまった。
以降もズルズルと劣勢に引き込まれ、優は敗北。
と、そこで神は我に返る。
また嫌われてしまうのではないかと。
しかし、そう思って優へと視線を向けると……。
「……やるな、神。面白いデッキだ」
そう言って微笑みを返された。
会場も賞賛の声で溢れ、拍手が巻き起こる!
神は改めて幸福を感じた。
思いっきり戦っていいのだと、自信が湧いてくる!
そして、いよいよ最後の勝負!
両者、デッキは変えずに臨んだ。
試合は互角のまま進み、迎えた優の6ターン目。
彼は1枚のカードを場に出した。
「アルファ博士を使用」
それは水のプラチナカード。
通れば一気にリソースを獲得でき、勝利へと直結する!
しかし……。
「カウンター発動! 超魔術ネゲイション・リライト!」
当然、神も対処してくる。
そこへさらに、優も対抗。
打ち消しの応酬がひたすら続く。
しかし、その最中……優の魔力が尽きてしまった!
それを見た神は勝利を確信する。
「どうやら、今回は僕の勝ちのようだね。君の手札は3枚。仮に、全てコンフュージョンだったとしても、僕のストックゾーンにはシヴァルリーで追加したオネスティが3枚ある。一戦目の、あの鮮やかなテクニックも防ぎきれる。僕の勝ちだ」
そう告げる神。
誰もが彼の勝利を確信した。
それでもなお、依然として信じ続けているのは花織一人。
その彼女にも、当然ここから逆転する手段など思い描けない。
観客たちも皆、同様。
あのベストエイト進出者たちでさえ、そんな手段は思い浮かばない。
会場中が神の勝ちと断定。
神も自身の勝ちを疑わない。
しかし、優が返した表情は……やはり、あの不敵な笑みだった!!
「いや、オレの勝ちだ。神」
そう言って、3枚の手札から1枚を右手で引き抜き、ゆっくりと表側を向けてゆく……!!
次回、第一章ラストです!
日付が変わって深夜に投稿予定です!




