ダブルイレギュラー
迎えた神の2ターン目。
彼はまず、花織とのバトルで光の魔力をチャージし、見習いシスターを召喚。
これにより、ライフを1得ると共に打たれ強いガーディアンの配置に成功。
そして、今度は轟の方へと向き、カードを場に出した。
「まずはこの1枚……シヴァルリーを使用」
「させねえぜ! パラダイムシフトを発動!」
アドバンテージを奪いに来た神に対し、しっかりと対処する轟。
しかし、神は平然としており……。
「想定通りだよ。なら、忍耐の象徴ジェイドを使用」
2枚目のジェイドにより、魔力を追加。
そしてさらに、カードを1枚場に出した。
「火の国の軍師を使用」
「くっ……!」
小さく呻く轟。
現在、レプリカを打ち消すカウンターは手札に存在せず、通さざるを得ない。
召喚に成功した神は、山札を手に取りカードを1枚公開した。
「火竜祭を手札に加える」
それは轟も愛用しているカード。
故に、その強さはよく知っている。
具体的な効果は、魔力8以上のレプリカをサーチしつつ、次の相手ターン終了時に敵全体へ2ダメージを与えるというもの。
これ1枚で準備を整えることができるため、非常に強力。
着々と進める神。
しかし、このターンにできることはなくなり、ターンエンド。
対する花織と轟のターン。
花織はゲイルスパローとソーダ味の魔法石を使用し、場に2体のレプリカを召喚しつつ2ドロー。
轟もメロンミルクの魔法石で場に2体のトークンを召喚し、ターンエンド。
続く神の3ターン目。
まず、花織とのバトルは火の魔力をチャージするのみでパス。
そして、珍しくも轟との対面は長考を開始する。
彼の読みでは、ここで火竜祭を使用しても、難なく打ち消されてしまう。
しかし、カウンターを1枚消費してもらい、なおかつ魔力が回復するならよしとするか否か。
その後の展開も慎重に読んでいた最中、花織がカードを場に出した。
「祝福の神官を召喚します」
宣言されたそのカードは、自分のレプリカ全てのライフをプラス1する効果を持つ。
もし、その効果が発動してしまったら、全体ダメージで倒す際により大きなダメージを要してしまう。
よって、神は間髪入れずに対抗。
「カウンター発動により、灼熱を使用」
宣言されたカード、灼熱。
それは、相手のレプリカ全てに1ダメージを与えられるカウンター付きのディザスター。
神は、この使用宣言は通ると確信していた。
なぜなら、花織の不安な心境を見透かしていたから。
加えて、灼熱の種類はディザスター。
残り魔力0の花織には、特定の種類をピンポイントに撃ち抜くのは無理と断定。
ところが……!!
「カウンター発動します! 杞憂を灼熱に使用!」
花織からのまさかの反撃!!
驚愕のあまり、神は目を見開き硬直。
しかし、数秒後に我に返り、打ち消された灼熱を捨て札に置いてすぐ、カードを場に出した。
「再度、灼熱を使用!」
偶然持っていた2枚目の灼熱。
しかし……!
「か、カウンター発動! 杞憂!」
またしても、それは打ち消された!
想像もしていなかった事態に、神は動揺。
混乱の中、必死に何が起きたか整理する。
そして、二つの可能性を頭に浮かべた。
一つ目の仮定――自分が花織に欺かれた結果という説。
しかし、心拍数までもコントロールできるような逸材とは考えにくかった。
ならば、もう一つの仮定。
それは……花織が極度の心配性なため起きた事件、という説。
その考えに至った神はハッとし、勢いよく轟へと振り向いた。
そして、意を決し……。
「火竜祭を使用!!」
散々悩んだカードの使用を決行した!
相手の反応を待つ神。
数秒の間の後……。
「……くっ! やっぱり見抜かれてるか……!」
そう言って轟は悔しそうにスルーを宣言。
予想していたはずのカウンターは飛んで来ず、ここで神はようやく気付いた。
今、目の前にいる相手――花織と轟……この二人が両極端だということに!
どんなに有利と思える状況でも、常に最悪のケースを想定し、慎重を期する花織。
反対に、どんなに敗色濃厚だろうと、強気を忘れない轟。
もちろん、そこに微妙な起伏はあれど、鵜呑みにするにはあまりに危険な情報。
そうとわかるや否や、神は心を読む戦闘スタイルを中断し、真正面からプレイングで捻じ伏せにかかりだした。
言うまでもなく、神はゲームの実力そのものも高水準。
その圧倒的な力の差が二人へ襲いかかる!
そして数分後、決着となった……。
浮かない顔で優のもとへと戻る二人。
しかし、優は満足な表情で……。
「よくやった、二人とも」
そう労いの言葉で出迎えた。
だが、花織たちはまだ自分たちの功績に気付いておらず……。
「すみません、あんなにあっさり負けてしまって……」
と気を落としたまま。
それを聞いた優は笑う。
「いや、実に有益な情報が得られた」
「……え?」
「気付かなかったのか? あいつがお前ら二人の心を読み違えてたことに」
「ええ!?」
驚く花織。
轟も食い入るような表情へと一変。
「マジか! 途中、様子がおかしいとは思ったが、まさかそんな事が起きてたなんて……。でも、何でだ?」
首を捻る轟。
対し、優が口を開く。
「……お前たちが強いからだ」
「は? え? 何の冗談だよ」
「冗談ではない。プレイヤーとしてではなく、人としてだ」
「ああ、そういうことか。……ん? おい、プレイヤーとしてはどうなんだよ? あ?」
食ってかかる轟。
しかし、優は一言も返さず、思考を巡らす。
その様子を見た花織が、なおも続けている轟を宥める。
「轟さんは強いプレイヤーですよ。でも今は、優さんを邪魔しないであげてください」
「お、おう……」
「優さんが考えている間、私たちのバトルを先に行えないか神さんに交渉しましょう」
「あ、うん。そうだな……」
こうして花織は轟と共に神のもとへ向かい、頭を下げた。
結果、神は難なく承諾し、先に二人のバトルを開始。
そして、その試合の後……満を持して優対神の戦いが始まった。
しかし、数分後……。
そこには崩れ落ちる優の姿があった。
その様子に神が溜息を吐き……。
「君に少しでもあの二人のメンタルが備わっていれば、どんなに面白かったことだろう……」
そう失望を呟いた。
対し、優は怒りと憎悪と絶望に身を震わせながら……。
「うるさい……。お前に何がわかる!」
そう叫んだ。
ざわめく会場。
不穏な空気。
そこへ花織が心配して駆け寄り……。
「大丈夫ですか? 優さん」
と、声をかけるも。
「うるさい黙れ!」
優は、そう怒鳴り返した。
驚き、悲しい視線を向ける花織。
そしてそのまま、無言で離れた。
その後、残りの優対花織&轟両名の対決が行われるも、優は終始無言で俯いたまま、ただ淡々と進めるのみ……。
その様子を見かねた轟が大声で呼びかける。
「おい! 優! いつもの冴えはどうした!? そんなんじゃ、この轟様に……」
と、言いかけたその時!
優は上目遣いでギロリと睨んだ!!
そのあまりの迫力に、あの轟でさえ言葉を失った。
そして、それを境に優の攻撃は激化!!
二人を圧倒してバトルは終わった。