託す思い
激闘の二回戦が終わり、休憩時間に入った。
観客たちも、その多くが一度席を立つ。
飲み物を買いに行く者、外の空気を吸いに会場を一旦出る者、喫煙所へ向かう者……皆、理由は様々。
そして、優たちはと言うと、作戦会議のため控え室に集まっていた。
三回戦のルールは既に発表済み。
形式は四人で行う総当たり戦。
上位二名が決勝進出と至ってシンプル。
当然、優は敗退の心配などしていない。
にもかかわらず集まったのは、そう……その先の決勝戦を見越してのことだ。
もちろん、花織たちもそれはわかっている。
まず最初に口を開いたのは轟。
「……で? 勝てそうなのか?」
単刀直入な問い。
対し、優は渋い顔を見せる。
「正直、全く勝ちのイメージが湧かない。だが、思ったことがある」
そう言って花織へと視線を向けた。
「以前、キョウとのトラウマを話した際、お前は言っていたな。神の意見は正しくとも、やり方は間違っている、と」
「はい。傷ついた人をさらに追い込むなんて……。そんな言い方、間違ってると思います!」
「それだ」
「……えっと?」
困惑する花織。
対し、優は表情を変えずに続ける。
「心が読めていようとも、相手は接し方を間違えた。もしくは知らない。……あの調子なら、未だにな。そして、自分の対応で相手の心境がどう変化するかも、今一わかってなさそうに見える。つまり、少なくとも完璧な奴じゃないのは確かだ」
「……それを、一体どう攻略に結びつけるんですか?」
「……まだわからない」
「え?」
「だから、お前に頼みたいことがある」
そう言って、優はデッキを差し出した。
「恐らく、大会の進行の都合上、オレと神が戦うのは最後だ。あるいは、神の慢心から、もっと好条件がもらえるかもしれない。そこで、このデッキを使って先に戦ってほしい」
「はい、わかりました」
間髪入れずに返された快諾に、要求した優自身も驚く。
当然だ。なぜなら、その要求は自分本位で身勝手なものだから。
花織を捨て石として使う、非人道的な作戦。
何より、最初から神や自分には敵わないと言っているに等しい。
にもかかわらず、まさかの返答。
これにはさすがの優も気を使い……。
「……いいのか?」
と、再確認した。
しかし、返されるのは揺るぎない決心。
「はい。だって、私は最初から優さんを信じてお願いしましたから。その優さんが私に課した条件は、優さんの興味を惹き続けるというものでした」
「……そうだったな」
「きっと、優さんも漠然とした不安を前に、自分と戦ってたんですよね? 神さんを超えたいと、心のどこかで思っていたから……」
「……」
優は悩める日々を思い返した。
トラウマの一件以来、自分は一体何を求め続けていたのか。
それは、一言では言い表せないたくさんのもの。
こうして頼れる仲間……そんな彼女らと笑い合い、ゲームできる日常。
信頼、絆、癒し……。
その中に、神に勝ちたいという思いも存在していたことに、改めて気付かされる。
「私は、そのヒントになれればと思います。私と神さんが本気でぶつかれば、何か見えてくるかもしれません。なので、やります!」
「……そうか」
優は胸の温かみを覚えながら、デッキを渡した。
その数秒後、隣で見ていた轟も優へと手を差し出す。
「まだデッキあるんだろ? 面白ぇ。乗った! この轟様も力を貸してやるぜ!」
「……いいのか?」
「まあな。悔しいが、今のオレじゃお前らに勝てる気がしねぇ。だったら、天才ゲーマー様の御墨付きデッキで戦った方が、まだ勝算もあるだろ。それに……」
そう言いかけ、花織の方をチラリと見た後、視線を戻した。
「それに、オレは今大会は罪滅ぼしとして参加してるようなもんだ。だから、協力は惜しまないぜ?」
その発言に、花織は頭を下げる。
「轟さん、ありがとうございます」
「いいってことよ! あ、優。もし万が一、間違って勝ったら悪いな!」
軽口を叩く轟。
対し、優の表情が綻ぶ。
「案外、それくらいの気持ちで行った方がいいかもな」
「おうよ! 任せとけー!」
こうして話はまとまり、迎えた準決勝戦。
会場に四人が集結し、アナウンスの後に開幕!
優の予想通り、神は開口一番……。
「全員まとめてかかって来てもいいよ。どうする?」
と、余裕の言葉を投げかけた。
対し、轟と花織が前に出る。
「そうか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうぜ!」
「まずは私たち二人が相手です!」
神は軽く頷き……。
「なるほど、そう来たか……。いいよ、好きな順番で」
と、簡単に了承した。
こうして始まった二つの同時バトル。
デッキをシャッフルする三人。
その最中、神が口を開いた。
「君たちにはハンデをあげないとね。先攻後攻、好きな方を選んでいいよ」
神本人は哀れみから提案しただけだが、それを挑発と取った会場は沸く。
だが、轟と花織はそれを予想していたこともあり冷静。
そして、二人とも後攻を選んだ。
迎えた神の1ターン目。
彼はまず、花織との対面は出せるカードがなく、パスを宣言。
そして、轟へと向き直り……。
「忍耐の象徴ジェイドを使用」
そう言って、ストックゾーンに置かれているアイテムカードへと手を伸ばした。
そして、効果によりライフを犠牲に魔力をチャージし、ターンエンド。
その間、既に花織は光の魔力をチャージし、ミルク味の魔法石を使いターンを終えていた。
続いて轟もターン開始。
「メロン味の魔法石を使用!」
その効果により、ローリングメロンをトークンとして召喚。
このレプリカは、死亡時に魔力を追加してくれる。
一見すると、これは魔力ブーストから猛攻を仕掛けるデッキの動き。
だが、その実態は中速バランス型。
小型と中型のレプリカを織り交ぜて戦うデッキ。
速攻と違い、全体ダメージにもある程度耐性があり、軽症なら倒しきられずに済む。
しかし、神の選んだデッキは魔力ブースト型。
大量に溜めた魔力から繰り出される強力な一撃の前では、そのやや高めのライフも意味を成さない。
そして、花織のデッキにも相性のいいデッキを選んである。
つまり、デッキタイプを変えての奇襲は失敗。
早くも立ち込める暗雲。
この段階ではまだ、この後に起きる劇的な進行など誰も知る由もなかった……。
【デッキ紹介】
デッキ名:フラッシュ
タイプ:速攻
使用者:花織
作成者:優
【デッキ内容】
ミルク味の魔法石:1枚
ソーダ味の魔法石:4枚
ワイズパロット:4枚
ゲイルスパロー:4枚
幼きエスパー:4枚
宣教師:4枚
野蛮な教祖:4枚
祝福の神官:4枚
サマナーガル:4枚
杞憂:4枚
パラダイムシフト:4枚
ディレイ:4枚
悪魔の契約:4枚
インフェルノブリンガー:4枚
超魔術ライト・リライト:4枚
超魔術カウンタースペル・リライト:1枚
超魔術ファルコン・リバース:1枚
超魔術インサニティー・リバース:1枚
【解説】
優が作成した速攻デッキ。
相手が神であることを前提に、杞憂などで対策り返す構築。
【デッキ紹介】
デッキ名:ドーンメイカー
タイプ:中速バランス
使用者:轟
作成者:優
【デッキ内容】
メロン味の魔法石:1枚
メロンミルクの魔法石:1枚
ワイズパロット:4枚
宣教師:4枚
アンデッド:4枚
ノーヴィスメイジ:4枚
這い寄るゾンビ:4枚
シャドウィー:4枚
言霊:4枚
キャンディーデビル:4枚
サボタージュ:4枚
パラダイムシフト:4枚
オネスティ:4枚
シヴァルリー:4枚
神隠し:4枚
天誅:1枚
超魔術ヒール・リライト:4枚
超魔術ワイルド・リバース:1枚
【解説】
過去に作ったデッキの改良版。
中型レプリカを主体に動けるため、デッキ相性が以前とは変化する。
【デッキ紹介】
デッキ名:ドラウト&フラッド
タイプ:速攻対策
使用者:神
【デッキ内容】
見習いシスター:4枚
泡沫の人魚:4枚
違法存在グレネードベビー:4枚
炎天の修道女:4枚
イモータルベビー:4枚
パラダイムシフト:4枚
シヴァルリー:4枚
水神の怒り:4枚
火の海:4枚
灼熱:4枚
超魔術ヒール・リライト:4枚
超魔術バーニング・リライト:4枚
超魔術テンペスト・リザーヴ:4枚
超魔術カウンタースペル・リライト:4枚
守り神:1枚
ラファエルの化身:1枚
アルファ博士:1枚
超魔術デビルズ・リバース:1枚
【解説】
対速攻用に組まれたデッキ。
全体ダメージと回復、ガーディアンを駆使して凌ぎきろう。
【デッキ紹介】
デッキ名:ディープケイヴ
タイプ:魔力ブースト&猛攻
使用者:神
【デッキ内容】
忍耐の象徴ジェイド:2枚
火の国の軍師:4枚
幼きエスパー:4枚
違法存在グレネードベビー:4枚
パラダイムシフト:4枚
サイレンス:4枚
オネスティ:4枚
シヴァルリー:4枚
カーム:1枚
ソイル:4枚
火竜祭:4枚
業火:4枚
超魔術プラン・リライト:4枚
超魔術プリコグニション・リライト:4枚
超魔術バーニング・リライト:4枚
火吹きのヴォルケーノ:1枚
アルファ博士:1枚
守り神:1枚
ラファエルの化身:1枚
途上のユグドラシル:1枚
【解説】
中速バランス相手に有利なデッキ。
相手の場をまとめて焼き払い、物理戦でも中型特有の中途半端なライフを咎めよう。




