負けたとしても……
観客たちの視線の先には優の姿。
しかし、そこにあるはずの不敵な笑みは存在しなかった……。
代わりに真剣な表情を浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「……そういうことか」
「……? 何がだい?」
「神が言っていたぞ? 本戦でのお前はふざけていた、と」
「そんなつもりはなかったけどね」
「だが、本気じゃなかったのは本当だろう? 現に今、これ程までの実力を見せている」
「光栄だよ、君に認めてもらえるなんて。でも、これで終わりじゃないよね? まさか、僕の期待を裏切るようなことは……」
翔の言葉を遮るように、優の手がカードに伸びた。
「天使の弓兵でプレイヤーを攻撃」
「っ!」
「そして、幼きエスパーを召喚」
「……カウンターの使用をスキップするよ」
「召喚成功。使用時の効果を発動」
ついに動きを見せた優。
翔はその動向を窺うべく、じっと見つめる。
ギャラリーの注目も優一点。
そんな中、彼は山札から選び取ったカードを公開した。
「津波を手札へ。そして、使用」
「っ!? そのカードは!」
「ああ、これがオレの秘策だ……。オレの場には4体のレプリカがいるから、消費魔力は0になる」
津波は敵味方関係なく、全てのレプリカを場から手札へ戻すカード。
当然、優も被害を受けるが、彼の味方は全て低コスト。
しかも、内3体は使用時の効果を持つため、再度その恩恵を受けられる。
低コストのレプリカを大量に展開することで津波の消費魔力を下げ、津波により低コストのレプリカを使い回すという相乗効果。
決まれば強力なコンボ。
当然、翔も黙っていない。
「驚いたよ、そんな戦法を用意してたなんて……。でも、そうはさせないよ! カウンター発動、オネスティ!」
「そのカウンター発動に対し、カウンター発動。サイレンス」
「っ!?」
翔が俄に焦りだす。
カウンターでさらに対抗したくとも、もう手札には残っていない。
仕方なく津波の使用を受け入れる翔。
そこへ、優の追撃が加わる。
「幼きエスパーを召喚」
「……カウンターの使用をスキップ」
「召喚成功。使用時の効果により……再びこいつを手札に加える」
優が見せたのは、もちろん2枚目の津波。
そしてさらに、天使の弓兵と火の国の二等兵を召喚し直した。
弓兵の効果によりライフ差を同点まで詰めつつ、ガーディアンを効果に持つ二等兵によりアサルトも防げている。
一転してピンチを迎えた翔。
だが、戦意はまだ尽きていない。
「やるね、優君。このライフ差では再度マンチニールを召喚するわけにはいかない。いや、それどころか……」
「ほう? 気づいてるようだな」
「……わかっているよ。君が1ターン目に手札へ加えたリライト。その効果により、いつでもデッキ外から4ダメージが飛んでくる。それに僕らのライフは今、インフェルノブリンガーにより8になる。君のターンに召喚済みのレプリカから攻撃を受け、僕のライフは6。そして、再び僕のターン開始時にインフェルノブリンガーが発動して4。ファイア・リライトを使用されたら、ぴったり0になってしまう。だから……」
翔は顔を顰めつつも、カードを場に出した。
「ワイズパロットを召喚」
「カウンターの発動をスキップ」
無慈悲な程の即答は、揺るぎなき計算尽の顕れ。
翔も重々承知であるため、その焦りへと拍車がかかる。
「召喚成功。使用時の効果により、捨て札にあるオネスティを手札へ。さらに、幼きエスパーを召喚」
「スキップ」
「使用時の効果により、山札から水のサポートを手札へ。加えるのは……このカード。コンフュージョン。これでファイア・リライトを止めるしかない! さらに、残りの魔力でストーンペアーと祝福の神官を召喚。アサルトにより攻撃!」
「火の国の二等兵でガード」
「僕のやるべきことは全てやった。……さあ、勝負だ優君!」
熱く闘志を滾らせる翔。
対称的に、優は静かに山札へと手を伸ばした。
「……カウンターを引けば勝ち。カウンターを山札から加えるカードを引いても勝ち。2枚目のリライトを引いてもいい。あるいは、津波か2枚目の炎天の修道女を引いても、優勢を維持してゴールできる。もっとも……」
優がチラリと翔を見る。
返ってくるのは緊張の表情と無言のみ。
その反応から見透かすことなどできるわけもなく、当然だが優もそれを期待してなどいない。
ただ、不安因子が一つ……。
「もっとも、まだ明かされてないお前の手札が、カウンターでなければの話だがな」
「……ちゃんと見ているね。さすが」
翔の手札のほとんどは、既にその正体が明かされている。
津波の効果で戻されたレプリカと、直前のターンに効果で加えたカウンターが2枚。
だが、まだ伏せられたままのカードが1枚だけある。
それがカウンターであるか否かを見極めるべく、優は徐に目を閉じた。
そして、数秒後……。
再び目を見開き、山札から1枚引いてじっと見つめる。
「……勝算は充分だ。まずは水の魔力をチャージし、サボタージュ・リライトをファイア・リライトと入れ替える。そして、幼きエスパーと天使の弓兵でプレイヤーを攻撃。さらに、2枚目の幼きエスパーを召喚」
「無事に引けたんだね……。カウンターの使用をスキップするよ」
「使用時の効果を発動」
優は山札を手に取ると、すぐさま目的のカードを見つけ出した。
「加えるのはオネスティ。そして、津波を使用」
「……これを喫してはどの道負けだね。それがわかってて、僕のオネスティを切らせるための手順。お見事! だからこそ……本当によかったよ!」
満面の笑みを見せる翔。
途端に優の胸を鼓動が激しく打つ。
その目は見開き、呼吸は激しくなる。
その様子に、翔は思わず笑い出した。
「違う違う。君の勝ちだよ。ほら、僕の手札はこれ」
そう言って場に公開されたのは、2枚目のインフェルノブリンガー。
カウンターカードではなかった。
優は全身の力が抜け、テーブルへと手を突く。
「驚かせやがって……」
「いやいや! 僕はただ、君が出場者で本当によかったと伝えたかっただけだよ。君ならば、神君とでもきっといい試合ができる! そう確信したよ。さて、バトルも終わったし、僕は失礼するね。いい勝負をありがとう。神君との試合、楽しみにしてるよ」
そう告げると、デッキを手早く片付けて去って行った。
直後、花織が優へと駆け寄る。
「大丈夫ですか!? 顔色が悪いですよ!?」
「……負けたかと思った。もう一度戦ったら勝てるかどうかわからない。それくらいギリギリの戦いだった。だが……」
優は言いかけて口を噤むも、数秒後……。
「だが、幻滅されずに済んだ……」
その口から、呟きが漏れ出した。
花織はハッと息を呑み、目を潤ませる。
「すみません、私……。負けたらどうしようって、自分のことばかり不安で……。でも、優さんも同じ不安を抱えていたんですね……」
心の内を見透かされた優は、ばつが悪そうにそっぽを向いた。
そして数秒後、自嘲と共に……。
「……勝てなければ、オレがいる意味はないからな」
そう口にした。
次の瞬間。
「そんなことないですよ!」
花織は思いの限り叫んだ。
「たとえ負けたとしても、優さんは私のために戦ってくれた。それだけでも嬉しいです! 意味ないなんて、悲しいこと言わないでください! 轟さんも、そう思いますよね?」
「当たり前だろ? お前はオレの目標だ。それは変わらねぇよ。負けたままだしな……」
そう答え、鋭い視線を向ける轟。
それを聞いた優は、そっと目を閉じると……。
「そっか……」
と、一言だけ口にした。
何ともぶっきらぼうな態度。
だが、その表情に穏やかな微笑みが宿ったのを、花織たちは見逃さなかった。
【デッキ紹介】
デッキ名:イモータル
タイプ:長期戦
使用者:優
【デッキ内容】
天使の弓兵:4枚
ワイズパロット:4枚
見習いシスター:4枚
守護の象徴パール:4枚
火の国の軍師:4枚
アンデッド:4枚
火の国の二等兵:4枚
炎天の修道女:4枚
鬼火と火炎の魔導師:4枚
サイレンス:4枚
オネスティ:4枚
狂気:4枚
超魔術サボタージュ・リライト:4枚
超魔術バーニング・リザーヴ:4枚
ヒール:1枚
上級封魔師:1枚
火吹きのヴォルケーノ:1枚
守り神:1枚
【解説】