透視する化け物
今回から第2弾のカードが登場します。
カードリストは投稿済みです。
その夜、優は懸命にデッキを組み続けた。
しかし、なかなか納得のゆく出来栄えには至らない。
作り終えては崩し、また一から考え直す。
さっきからずっと、その繰り返し……。
全く違うタイプのデッキが、生まれてはすぐ消えてゆく。
労力がまるで水の泡。
それでもめげずに作業へ向き合う。
ただひたすらに……。
何時間も、ずっと……。
そして、ついにその時を迎えた。
試行錯誤の末、ようやく至った結論。
優はその完成したデッキを手に取り、自分に言い聞かせるため力強く頷いた。
これで神に対抗できる、と。
しかし、その心には、安堵や自信などではなく、僅かな違和感が返ってきた。
これで本当にいいのだろうか? ……と。
それでも他に答えは見つからず、仕方なく優はベッドに横たわった。
だが、なかなか寝付けない。
「大丈夫、できることはした」
暗示のように呟いた。
しかし、心に染み渡る悩みは消えない。
それを払い除けるべく……。
「やれることはやった」
再度、自分に言い聞かせる。
だが、それに対抗するかのように、迷いが心の中で渦巻く。
「本当にそうか?」
疑問が首を擡げる。
「妥協はないか? 臆病風に吹かれてやしないか?」
不安を煽る心の声。
それを必死に振り払おうと、優は壁を殴りつけた。
「これがあいつを倒すために、最も合理的な戦略だ。神への警戒も当然。弱気だからじゃない、必要なことだ。これで勝てる、間違いない!」
何度も何度も言い聞かせる。
言い聞かせる度、返ってくる。
「中途半端に対策るより、コンセプトに特化した方がいいんじゃないのか? ただ逃げてるだけじゃないのか?」
……ノイズは止まない。
答えは出ない。
心の声を抑え込むべく優は枕へ顔を埋め、ゆっくりと悪夢へ誘われた……。
――翌日の午後。
カードショップ内には、睨み合う優と神の姿があった。
異様な空気に客は寄り付かず、花織と轟だけが見守っている。
沈黙の中、両者はデッキをシャッフルし、山札の位置へと置く。
視線を交わす二人。
と、神が徐に手を差し伸べた。
「先攻と後攻、好きな方選んでいいよ」
神本人にその気がなくとも、挑発にしか聞こえないセリフ。
それに乗らぬよう、優は目を閉じ深呼吸をする。
そして数秒後、ゆっくりと目を開いた。
「後攻をもらおう」
優の宣言に花織が首を傾げる。
その様子に気付いた轟が、耳打ちすべく手を口元に添えた。
「後攻側にもメリットがある。一つは初期手札。先攻は最初のターンにドローできないが、後攻は1ターン目から引ける。もう一つは属性魔力を選ぶ権利。先攻は1ターン目に無属性の魔力しかチャージできないが、その制限が後攻にはない。優はそれらを重要視したってことだ」
「なるほど、そうなんですね! ありがとうございます」
轟が花織に説明している間に、神は1ターン目をパス。
ターンが回ってきた優は、光の魔力をチャージし手札を1枚場に出した。
「宣教師を召喚。その効果を発動」
優は自分の山札を手に取り、カードを探す。
宣教師の効果でサーチできるのは、光のサポートカードのみ。
属性と種類の二つの条件をクリアしていなければならない。
無論、前もって条件を満たすカードは入れてあり、それを見つけるや否や迷いなく公開した。
「超魔術ライト・リライトを手札に加える」
宣言されたカード名に含まれる超魔術とリライト。
その特徴的な接頭語及び接尾語は、シリーズであることを表している。
第二弾から追加された能力『リライト』。
それは、自分のターン開始時に、デッキ外のカードと入れ替えられるという革命的な効果。
ただし、交換できるのは同じくリライトを効果に持つカードとのみ。
それでも、デッキ相性による一方的な敗北を防ぐには絶大な力を発揮する。
特に、相手のデッキを見透かす神との対戦では、必須と言っても過言ではない。
一方、2ターン目が回ってきた神は水の魔力をチャージし、カードを1枚場に出した。
「カームを使用」
「ッ……!」
その宣言に、優が顔を顰める。
無理もない。なぜならそれは、山札からウィズダムを2枚サーチする強力なカードだから。
だが、優にはどうすることもできない。
当然だ。彼は前のターンに魔力を使い切ってしまった上に、ゲーム開始早々なので手札不足。
都合よく0魔力のカウンターカードが引けているわけもなく、甘んじて受け入れるよりない。
それに、相手はあの神だ。
カウンターが不足していることなど見透かされている。
故に、神は形式的に数秒の間を取るだけで、すぐさま山札を手に取った。
そして……。
「シヴァルリーとパラダイムシフトを手札に加えさせてもらうよ」
公開された2枚のカード。
前者、シヴァルリー。
その効果により、特定のカウンターカードを2枚トークンとして加えられる。
そして後者、パラダイムシフト。
0魔力でウィズダムを打ち消すことができる。
優が今、カームを打ち消すために本来使いたかったはずのカードがこれだ。
その強力な1枚が今、もう1枚のカードと共に神の手札へと加わった。
そして、神は山札をシャッフルし、ターンエンド。
対し、2ターン目を迎えた優は、開始時のドローと魔力チャージの直後に手札を1枚公開した。
「超魔術ライト・リライトを、デッキ外のカードと交換する」
早速リライトの効果を使う優。
カードケースから選び出したのは、超魔術コンフュージョン・リライト。
能力にカウンターを持ち、相手のサポート(魔法に分類されるカード)を妨害できるカード。
このタイミングでそのカードを選んだのは、何も今すぐ使用するためではない。
リライトを持つカードは、自分のターン開始時に毎回入れ替えることができる。
回数に制限はなく、何度でも。
また、この交換は効果の使用宣言に該当せず、ターン開始時の一連の準備の一部として扱われる。
わかりやすく言い直すと、カウンターによる邪魔が入らない。
つまりは、使いたいカードが決まった際に、ターンの初めに入れ替えさえすれば間に合う。
逆に言うと、それまでは任意のカードで構わない。
好きなカードでいいのなら、なるべく何かしらのメリットを求めたくなる。
そう。例えば、いざという時に相手のカードを妨害できるカウンターなどを……。
簡潔にまとめると、ただの用心。
だが、抜かりないプレイング。
その注意の行き届いた手順の後、優は1枚のカードを場に出した。
「幼きエスパーを召喚」
「どうぞ」
応答と共に神は手の平を差し伸べ、カウンター不使用の意思表示を行う。
それを確認した後、優は山札を手に取り、1枚を選んで公開した。
「パラダイムシフト。これを手札に加える。さらに、残りの魔力でヒメカゼスズメを召喚。そして、効果発動」
ヒメカゼスズメの効果で優はさらに1ドロー。
着々と手札を増やし、前のターンに召喚した宣教師による攻撃も行い、ターンエンド。
続いて神のターン。
彼は光の魔力をチャージ後、手札を1枚場に出した。
「シヴァルリーを使用」
「カウンター発動。パラダイムシフト」
間髪入れずに優は妨害を宣言。
当然だ。シヴァルリーで加わる2枚のトークンは強力。
その名はオネスティ。
これまた0魔力でサポートを打ち消せる強力なカード。
対象にできるのは水のカード限定だが、カウンターが豊富な水属性に対抗できるため使い勝手が非常にいい。
そんなカードを2枚も加えられるわけにはいかないため、必死に対抗した優。
結果、お互い1枚ずつ手札を捨て札に落として収支が決定。
しかし、パラダイムシフトの弱点により、神がシヴァルリーに使用した1魔力は回復されてしまう。
その1魔力と水の魔力を1消費し、神は新たにカードを場に出した。
「超魔術テンペスト・リザーヴを使用」
「くっ……!」
再び顔を顰める優。
出されたのは、全体ダメージを放つカード。
しかも、リザーヴという厄介な能力までついている。
それは、一度使用を宣言した後であれば、任意のタイミングで発動できるという便利な効果。
無論、使われる側の優にとっては凶悪なことこの上なし。
是が非でも打ち消したいカード。
しかし、またもや優にはどうすることもできない。
なぜなら、超魔術テンペスト・リザーヴの種類はディザスターだから。
魔力は使い切っており、なおかつ手札にある消費魔力0のカウンターは対象範囲が噛み合わない。
ペースを乱され続ける優。
その表情には苦悶が滲む。
想像に容易いだろう、今の彼の気持ちが。
カードゲーム経験者なら味わったことのある気持ち……それを思い返していただきたい。
重要な局面で切り札を出す時の、あの不安を……。
呆気なく対処されたらどうしよう、と。
もし、裏目に出たら?
敗着になってしまったら?
そんな思いから、躊躇して勝ちを逃す場合も少なくない。
そう、それが当たり前。
カードゲームは、相手が手札に何を隠し持っているか、その不安がずっと付き纏う。
だが、神にはそれがない。
優は常に相手の反撃に怯えているのに対し、神は手の内を見透かし攻めてくる。
さらに、ただでさえ優が精神的に劣勢なところへ、畳みかけるように予約された全体ダメージ。
当然、最悪のタイミングで発動されるのは必定。
その重圧が優に伸しかかる。
握られたアドバンテージ。
対処せねば、と焦る気持ち。
加速する不安の中、優は必死に脳をフル回転させる。
だが、相手は待ってなどくれない。
悩み惑う優の対面で、神が今、容赦なく追撃の1枚を選び取った!