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悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
18/23

悪ー拾漆ー

あれよあれよと三ヶ月……お待たせしました。ゴメンなさい。


ユニアド中心部。




ここユニアドはユニアド学園を中心にして囲むように学園所有の建造物、つまり研究施設が存在する。

それぞれ分野は大きく分けて三つ。身体(Phigcal)芸術(Art)頭脳(Smart)と分かれており、呼称はそれぞれ頭を取ってP-ラボ、A-ラボ、S-ラボとなっている。




その三つのラボ。

それぞれのラボに向かって。

トラックが走っていた。




そのトラックはラボ側の人間からすれば見慣れたものであった。

いつも遠く、隣接する地方から研究用の機材や実験材料を後ろの長方形に長い箱に詰めて持ってくる業者のトラックだからだ。




だから誰も気にしなかった。

いつもの風景、いつもの光景に。

誰も気に留めなかった。




最初に異変に気付いたのは検問所にいる警備員だった。

毎日毎日朝から晩まで交代制で働く彼らの仕事は主に不審人物に対しての見回りの他、入り口前での検問、またたまにラボ内で迷っている運転手の誘導などもしていた。




そのラボの入り口。検問所。

そこで警備員の一人が一仕事終えたことへの一息をつくために事前に用意しておいた缶コーヒーを片手に椅子に座っていた。




本来見張りを兼ねての役割を担っている者としてはあまりにも気を緩めすぎと思われかねない態度であるが、しかし警備員も所詮は人間、機械のようにただひたすら常に与えられた仕事をこなすことなど無理というより酷な話であろう。




「ふーっ……ようやく休める」




一人検問所にて呟く。




正確にはまだ勤務時間はあるので今は休憩時間でもなんでもない。

しかし検問所での仕事で一番忙しくなるのは朝の時間帯で、その間は大多数の業者用トラックの確認と検問をずっと一人でノンストップで行わなくてはならない。




逆にそれが終わってから昼頃の時間帯はずっと暇になる。

故に検問所の彼にとっては今は休憩時間となるのだ。




「ふーっ…」




片手にあるコーヒーに口をつける。

警備員の彼はこの後も、この検問所から覗ける景色だけを見て時間を過ごさなくてはならない。それこそまさに感情の無い機械のように。




「……はーっ」




うんざりする気持ちを吐き出すように警備員の口からは溜め息が。




もう一度コーヒーを飲む。すると空になった。

空になった缶を置くと同時に警備員の気持ちは切り替わり、仕事に戻る。




例えうんざりしていようとも仕事なのだから仕方がない。

そう自分に言い聞かせ、彼は本来の業務に戻るために椅子から立ち上が──。




「ん?」




と、一台のトラックが見えた。




それを見て最初、警備員の彼は珍しいな、と思った。

なにせユニアドは今や国の一角を担うほどの一大都市とまで言われるほどに経済成長を遂げた学園都市なのだ。そのためその中で働く人間たちは必然時間に追われる生活と業務を強いられるようになる。時間にうるさくなる。




だから警備員は思った。珍しい、と。時間に正確さを求めるユニアドは酷なことにそれを他のところ、他地方の人間にもそれを求めてしまう。

求められた側もたまったものではないと思うがしかし相手は一大都市の学園都市、文句を言う奴などそうはいない。




そのため彼らはユニアドが指定した時間帯に必ず到着するようにと、毎回朝早くから車を走らせている。

ちなみに遅れると何も言われないが物凄い睨まれる。




その後でラボ側の人間に睨まれるであろう運転手に若干の同情をしながらも警備員の彼はそのトラックを待った。




おそらく途中渋滞かに巻き込まれたか、もしくは緊急の研究用の機材でも運んできたのだろうか?

そんなことを思った警備員。




トラックは徐々に検問所へ近づく。




それを待ち構えるように直立不動で立つ警備員。




トラックがもうすぐ検問所のところに差し掛かるまであと少しというところで。




警備員の彼はある違和感に気付いた。




それはほんの些末なことであった。

普通ならば気にはしない。もしくは気のせいだろうと思って思考の外にやってしまうことだった。




そのトラックは。検問所へ向かうソレ(・・)は。




スピード(・・・・)を緩めなかった(・・・・・・・)




一定の速度のまま走っていた。




警備員は直感で分かった。

このトラックは入れてはいかない、と。




そう思い、彼は瞬時に手元にある車両通行阻止装置に手をかけようとした時。




突然トラックの速度が上がった。




「!!?」




一瞬そのことに驚くも彼は手元のスイッチを押した。

だがその一瞬の間がよくなかった。




トラックが速度を急激に上げたのは装置がある入り口手前でのこと。

装置は地面から現れる金属のつっぱり棒のようなものが数本生え、通行を阻止するという仕様だった。

かなり頑丈な作りとなっているので並大抵の車ではどんなにスピードを上げても突破は不可能、出現時間も一秒も満たないものであった。




しかし一瞬。




それもまた一秒に満たない間であるものの、警備員はそれだけの隙を作ってしまった。

結果、トラックの前部分の侵入を許してしまった。




装置が作動したのはトラックの腹部分辺り、ちょうど車と箱の間。

瞬間地面から金属のつっぱり棒が現れ出るも、しかし装置がしたことはその本来の役割ではなくトラックを浮かすことだけであった。

当然勢いのついたトラックは止まることもなく、機体を大きく揺らしながらも無事に着地、侵入した。

速度をさらに上げながら。




ザザッ「こちら検問所前!暴走車が一台中へ侵入!そのまま速度を上げラボの正門へ突撃しようとしている模様!正門にいるスタッフ、研究員は直ちに避難を」




彼が早口に事の全てを無線で伝え終わる前に。




ドッ、ゴォーーーン!!!




トラックがラボに突っ込んだ。



ーーーーーー



「よし、やれ」




車内で揺られながらもリーダー格の男は無線に一言告げてから切った。

車内といっても実質入ってるのはその後ろの箱の方であるが。




その長細いトラックの箱に同席している仲間たちに視線を向ける。




「これから作戦を開始する。各自指示した通りに所定の位置に着き次第各々の作戦を実行せよ」


「「「了解」」」




トラックの荷台の空間に男共の野太い声が響く。

その返しを聞き、リーダー格の男は座り次第自分の武器の点検に移ろうとした。




「よぉ、いよいよだな」




すると隣にいたホームレス時代からの古い付き合いの者が話し掛けてきた。

リーダー格の男はその手を止めることなく、その者の方を見ずに返事をした。

それでも構わず古い付き合いの者は話しかける。




「ようやっとユニアドに復讐できるじゃねーか」


「そうだな」




一言、そう返す。

これから自分達がすることはテロ活動であるというのに隣にいる者はまるで修学旅行に行く学生のような浮かれようを見せていた。




そのことに若干の苛立ちを覚えるもリーダー格の男は依然として手元の武器の点検を行い続ける。




「長かったよなぁ…。ここまで」


「……………」




それについては無言で返す。




長かった。確かに長かった。

リーダー格の男は自分の身に降りかかったこれまでの十年を振り返った。




ユニアドの間違った方針に振り回された時、会社を失い、職を失い、家族を失い、家を失い、さらには居場所も失い、外周部でホームレスとして過ごし、そこで出会った同じ境遇の仲間を集い、寝食共にし、時には共に戦い時には失い悲しみ、それでも前に向かい。




そしてようやく今日という日が訪れたのだ。




それまでに犠牲にしてきたものは決して少なくはない。

しかし、それでも男は、彼らは止まることはなかった。




いつその日が自分に来るかに内心怯えながらも。

内に燃える黒き闘志を動力源として、目的のために動いた。




全員、覚悟は出来ていた。




例えもしリーダー格の男が今この瞬間に死んだとしても、誰も彼らの計画を止めることは出来ないだろう。




その想いは誰かに引き継がれ。

実行される。




「今日でそれが終わるんだな」


「そうとは限らん」




いつまでも楽観的な物言いにリーダー格の男はつい語気を強くして言った。




「これからここは戦場になるんだ。何が起きるのか誰も分からん。さっきのイコル教のようにその他の勢力の介入だって考えられるんだ。あまり物事を楽観視するな。死ぬぞ、お前」


「お、おう…悪かったよ」




意味としては油断はするな、という意味でリーダー格の男は言ったつもりなのだろうが、しかし古い付き合いの者はその後親に叱られた子供のように縮こまってしまった。




やれやれ、と思いリーダー格の男は今度はちゃんとその者の方を見る。




「それにだ。仮に今日中にユニアドを制圧出来たとしてもその後はユニアドの政治や方針まで一から組み直さなくてはならない。とても一日で終わるとは思えん」


「それも」




そうだな、と言おうとしたのであろうその時。




ザザッ『ボス、いいですか?』




無線が入った。




なお「ボス」とはこのリーダー格の男のことである。実際の軍隊ならば隊長もしくは総司令官となるはずだが、いかんせんホームレス達の集まりということもあり誰もそんなことは知らないので呼称は「ボス」となった

事実、軍隊でもないのであながち間違いではない。




「どうした?」




リーダー格の男、ボスが無線を返す。




ザザッ『前方にイコル教です』


「何っ!?」




ボスの声に反応して周囲の仲間がその視線を一つに向けた。




「それで数は?」


ザザッ『およそ十〜二十、道を封鎖している模様』




無線からのその返しを聞いて、ボスは考え込む姿勢を取った。




ザザッ『どうしますか?』




無線の先の仲間が次なる指示の催促をするも、なおもボスは沈黙して思考していた。




イコル教。




世間一般で知られる彼等の活動は主に差別撤廃のものである。

故に今回の騒動もおそらくはその一環であるとボスは推測した。




しかし今回明らかに今までのと違うのはそれを強制的(・・・)に行なっている部分にある。




イコル教の活動範囲はとにかく広く、それは家庭の夫婦間や家族間といったプライベートなものから紛争地域、戦場といった所まで及ぶ。

そのため必要とあらば武力を行使することもしばしばあるのだが、それでも彼等の行動理念や思想をその地域に植えつけたり教え込もうとしたことはただの一度も無かった。




その、はずなのに。




「つまり早急にしなくてはならないことが向こうにある、ということなのか……」




ボスは一人呟く。




この時点、今の時点ではボスはイコル教の事情を知ることはない。




イコル教がユニアドが秘密裏に兵器の研究を行なっており、さらにはユニアドの生徒たち全員が世界中から狙われていてこのままでは人権や人間としての尊厳を無視した行動を取りかねない所もあることを考え、それを阻止しようとしていることなど知る由も無い。




だが、ただ一つだけ、ボスは理解していた。

それは………。




ザザッ『ボス?』




命令を待つ運転手の部下が二度目の催促をした。

それを聞きボスは運転席の方を、正確にはその先に立ちはだかっているであろうイコル教徒達を睨んだ。




もちろん箱内部に窓のようなものなどは無い。

しかしそれでもボスは真っ直ぐその方向を見据えた。




ボスは知らない。イコル教の目的を。

だが、それでもボスにはハッキリとしたことがあった。




そう、それは自分たちにとってのイコル教の存在。

つまり。




無線を口に近づける。




「邪魔者は排除しろ。そのまま突っ込め」


ザザッ『了解』




そのやり取りの後すぐに体が後ろに持ってかれるような感覚がボス達にやってくる。




野太く力強いエンジン音が内部に響き、加速していることが分かる。




そして体がトラックの速さに合さる時。



ブゴンッ、と何かをぶつけた生々しい音が箱内部に聞こえた。


次は11/18に投稿予定です。

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