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悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
14/23

悪ー拾參ー


ユニアド中心部。




この時間帯この地域は道が人でいっぱいになる。

その理由は言うまでも無いが仕事のためにユニアドの外側、他の地域からやってくる者が多いからだ。




朝から忙しなく歩きながらそこらじゅうにある電光掲示板の時計を見ずに自身の腕の時計を確認しながら歩く会社員が大半。

ほとんどがユニアド学園側の人物だ。

彼等は街の技術の革新のために日夜研究と実験に費やしている。




そんな彼等には次代に残すための成果を上げるために常にユニアドの者としての責任感を求められている。

そんな彼等を尻目に。




否、上空(・・)に。

サツキはいた。




彼は飛んでいた。傍目から見れば誰もがそう思うだろう。

だが実際サツキは飛んでいるのではなく跳んでいるのだ。普通に言うなら建物の上から上へと飛び移っているだけ。




富裕層が多く人口もそれなりに密集したこの地域では必然的に高い建物が多い。さらにそこにユニアド学園の研究施設などもあって初めてここを訪れた者は見知らぬ迷宮に来た冒険者状態となる。




その点上からの移動は当然ながら道などありはしないので迷うこともなく最短コースで目的地にたどり着く利点がある。常人ならざる脚力と跳躍力、高度な技術を兼ね備えていることが前提条件ではあるが。




「ハァッ、ハァッ」




サツキは慌てていた。慌てて、まっすぐに目的地に向かう。




「………!クソッ!!」




跳躍しながら悪態をつく、そこにいつもの彼の余裕は伺えなかった。




「一体何がどうなっているんだ…?」




そう言って彼はビルからビルへと飛び移る。そして真っ直ぐと目的地へ。

サツキの視線の先にあるのは、ユニアド学園。




サヤがいるところだった。



ーーーーーー



ユニアド学園。

その廊下。




「いやー、遠路はるばるからご苦労様です」




そう言ってそいつは気の緩んだ笑顔をこちらに向ける。

その笑顔に若干の嫌悪感を感じながらもそれを表に出さずにこちらも応える。




「イーエ、こちらとシマしてもまさか有名なユニアド学園に招き頂き光栄に思いマス」


「おや、お上手ですねー。もしやこちらの国に訪れたのは初めてではないのですかー?」


「えぇ、まぁ」




実際この国に来たのは初めてなのだが言語の習得は一応しておいた。本来なら自国以外の言語を操るなど非国民扱いされること請け合いだがこうして他国への侵入する際にその国の言語を理解しておくのはスパイとしての常識の一つと言えよう。




「そうですかー。いや助かりましたよジョネルさん。僕外国の言語とか話せないからこうしてあなたを押し付けられた時はどうしたものかと思いましたよー」


「………」




これに対しての受け答えは困る。何せまだこの国には来たばかりなのでそれが冗談で言っているのか本気で言っているのか分からないからだ。

そういう時は大抵作り笑いの苦笑の表情で乗り切る。

ちなみにジョネルは偽名だ。




いや、それにしても、だ。




「どうですかー?ユニアド学園の内装はー?」


「そうデスね…。なんというか普通の学校というか聞いて想像してたものより大分違うと言った印象デスかね」




俺が聞いていたユニアド学園の情報ではそのほとんどが生徒たちを対象にした研究施設と近未来の技術を駆使した未来都市というイメージが強く、学園自体の情報は朧げにしか伝わらなかった。




なので実際中に入った時は驚いたものだ。その万全なセキュリティと外観は一つの小国家の王が住むような見た目に対し、中は割と普通の学校なのだから。




だがしかしそこはさすがユニアド学園か、ところどころに最新の技術を用いたものがチラホラと見れる。




「そうですかー。ぜひともこれから一緒にユニアドの生徒のために頑張りましょー」


「ハイ」




そう言われて頷く。



ーーーーーー



それは今から数ヶ月も前。




俺はユニアド学園からの機密情報を盗み出すためにまずはユニアド学園へ潜入することにした。

しかしそこはユニアド、最新鋭の近未来技術を駆使したセキュリティは生半可なものではくぐり抜けられるものではなかった。




そのための対策として俺がやったことはユニアドの臨時のスタッフになることだった。

ユニアドではどうも自分の街から優秀なスタッフを一時期会社から引き抜いていたらしい。




当時はそれが原因で多くの失業者が生まれ、社会問題にまでなったらしいが…。

そんなこともあり今現在のユニアドではその優秀なスタッフを募ることが難しくなっているのだ。




そこに目をつけた俺がまずやったことは年齢、国籍、経歴、身分の詐称であった。

全てがユニアドにとって好条件のようにし、また不自然がないように気を配りつつその偽の身分でユニアドへスタッフ募集の欄に応募をしてみた。




返事は数日も待たずに来た。

ユニアド側からしても願ってもいないことだったらしく、他国との繋がりも作っておきたかったようですぐにでも来て欲しいとのこと。

ただ最初は一週間だけの臨時の教師としてユニアド学園で働いてもらい、その後研究員として雇う、ということになった。

が、ここで問題が発生した。




身分の詐称についてだ。自国ならば年齢や経歴を偽ってもバレる心配などあまりなかったのだがユニアドではそうもいかない。

ユニアドのセキュリティは尋常ではなく、またそれは個人情報の管理の方でも行き届いていた。

つまりユニアドでは俺の経歴が偽物だとバレるのだ。




だが、それは俺がユニアドに、正確にはその国に入ってから一日経過したらのことだ。

どうも他国の者でも一度その国に入れば個人情報が登録されるらしく、その後ユニアド側でその日の終わり、ゼロ時を回った時に更新をするのだ。




その更新の時にどうやっているのか分からないが一瞬にしてその人物が生きているのか死んでいるのか、はたまたは存在する人物なのかを特定できるらしい。

要するに、だ。俺はユニアドには一日しか滞在出来ない。




僅か一日で見知らぬ土地に赴いてそこのどこにあるのか分からない機密情報を盗み出す。とても可能な任務だとは思えなかった。




それでもやるしかなかった。自国のために。




まずはユニアドへ直に入ることが出来る方法を探した。ユニアドは空港は無くとも港はあったのでそこから入ることにした。




ユニアドに入ればあとは時間との勝負だった。まずはユニアド学園の見取り図で情報が隠されていると思われる場所を特定し、その後は自分がこの国に対しての親国家であることを示すためにわざわざ服を買いに行った。




残念ながら言語を話すことは出来ても文字は読めなかったのでなるべくかっこいいと思ったものを買った。




そしてその服を着た後にユニアド学園へ。まだ朝ということもあり生徒の数も少なめな時間に訪れ、事前に聞いていた指定の場所へと入り、その後この学園の校長に会い───。




そして現在に至る。



ーーーーーー



今は臨時の見習い教師として担当の者とその教室へ向かっている最中である。

本当ならば一刻も早く行動に移りたいのだが今は慌てることはない。時期に隙を見て任務を遂行する。

そのため今は怪しい行動は慎むべきであろう。




それにしても、だ。




「いやはー、今日はいい天気で良かったですねー」




その担当である教師、つまり俺の付き添いの人物だがこの男の言動がいちいち勘に障る。




男であるはずなのにこのヘラヘラとした表情、だらしない服装、間延びするような喋り方、どれも気に食わない。

もしここが俺の国なら即刻こういう奴は全裸に丸坊主でランニング十キロを強いるところだ。

が、ここは耐えるところだ。

今はこの男の一挙一動には目を瞑っておこう。




そう思い、殴りたい衝動に駆られながらもなんとか耐えた俺とその教師は目的の教室へと向かう。




「それにしても随分歩きますけどここって相当広いデスよね?」




ただ無言でいるのもアレなので適当には会話をしておく。




「そうですねー。何せここには全国から生徒を集めてますから、必然的に校舎の数とかも多く増設してますからねー。だから僕が担任の教室なんか職員室から遠いんですよー」


「それは大変デスね。忘れ物とかしたら大変ソウだ」


「いや全くですよー」




アハハハハー、とその教師は笑う。




「そう言えば我々の担当の教室ってどこなんデスか?」


「あれー?言ってませんでしたっけー?」




間延びする声を発する。

むかつく。




「一番上の一年生の…」




そう言って教師は人差し指を上へ向けて言う。




「P組ですよー」


あと二つの勢力も書きたかったですけど長くなりすぎるので次にします。

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