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はつね君

はつね、それは日本で数十世帯しかない僕の苗字だ

僕はごく一般家庭ですくすくと大きくなり、

10代後半の時に見た初音みくのフィギュアに、

すごく衝撃を受けた…

これが『トキメキ』というやつか…!

僕の二次元への初恋はそこから始まった


時は流れて現在22歳、オークションサイトで出品されていた初音みくの

限定フィギュアを競り合っている、

残り24時間というところで競り相手が、

自演か? というぐらい絶妙に金額を釣り上げてくる

うーん、こうなっては男たるもの何としてでも欲しい!

手が届かない、、あと少しで!

というものほど欲してしまう生物(もの)だ <ガンバレ!


満を持して、ネットbankの貯金額を確認するが、もうこれ以上出せない…

そこまできて負けを確信し、哀しみと共に2chをさまよっていると、板に一つの書き込みを見つけた、

『明日、◯◯町役場に集まった奴に100万くれるって』

え…、『だが断る』や、多くのユーザーに『釣乙』と書かれている投稿者の

今までの書き込みをチェックしてみると、勝手に信用できると思えてきた、

これしかない!!

オークションで有り金をぶちまけ落札を勝ち取りながら、

その足で町役場までたどり着いた僕は、

農業に(いた)く感動していた


僕はタナベさんの勧めにしたがい、工芸部門で働く事になった

陶磁器を長年にわたり製作している職人(おじさん)が、そこにはいた

「…誰だこいつは」

職人は、僕のナリを一目見るなり怪訝(けげん)な顔つきをした


「今日からここで働く青年ですよ」

タナベは語気を強めて言った


職人は、は? という顔をして返したあと

「わしはそんな事きいとらん」

と言った


「決まりは、決まりですから! 町が存続できるかできないかという時に

あなた(の意思)だけ特別という訳にはいきません、とにかくお願いします!!」

タナベはそう言い残し、僕を職人の方に押しやると、早々と帰って行った


沈黙がふたりをつつむ、僕は職人の仕事を180秒にもみたないほど、

まじまじと観察していた。間も無く、職人から、

「ここはお前の来るところではない!」

そう言われ、工房を追い出された、


それからも、僕は、しばらく戸の隙間から職人の姿(てさばき)を凝視していたが、

それに気づいた職人から、工房の扉は固く閉ざされてしまった


歩きながら町役場の方へ帰って行ったが、僕はその道中、職人の姿を思い浮かべただただ見惚れていた

町役場に着き、タナベに会い、僕は工芸現場での感動を伝えた


タナベは翌日も僕と、職人のところへ行き、

「雇うかどうか判断するためにもしばらく様子を見て欲しい!」

と言い残し僕を置いて出て行った

職人は僕に見向きもしなかったが、追い出される事はなかった


次の日も、次の日も、僕はひたすら職人を見つめていた

また次の日、僕は、見よう見まねで土を取り練習を始めた

職人は何も言わなかった


一週間後、僕はいつものように工房へ行くと、

町長とタナベが居て、職人と話をしていた

僕が中に入ると、職人は僕を指差し何度も突きつけながら言った、

「だから! わしは! 弟子をとるつもりはない!」


タナベは反論した、

「何が気にくわない?! こいつは真面目に、毎日! こうやって! 来てるじゃないか!」

僕の方に指が何度も向けられる


町長がふたりの間を()うように、職人に語りかけた

「わしもお前も幾つになったか? お互い歳をとった。わしはお前の作品を初めて見た時、惚れ込んだんじゃ、それからお前のお陰で陶磁器の産地となり町は大分潤うた、その生産者が年を重ねるにつれ一人減り、二人減って、十人、百人と、しまいにはこの町にはお前しかおらんくなった、わしはそれも時代の流れと思うとる、やめた者達を責める気持ちはない。じゃがお前の品物(もの)だけは、魂は、なくしとうない、お前の本物の品物だけは、ずっと長く、死んでもあの世で楽しみに見ていたいんじゃ」


その言葉を聞き、職人は表情が変わり、体の力が抜けてしおらしくなった


僕の方をちらっと見てタナベが喋り出した、

「おっさん、こいつはな見た目から信用出来ない奴だと思ってるかもしれないが、こいつにもいい所はある。好きなものにはとことん取り組む、集中力がある、最初から駄目な奴だと思えば、駄目な所しか見えてこないものだ、それに、こいつが立派に育つかどうかは、あんたの指導(やりかた)次第なんじゃないのか?」


職人は黙っている、町長があわせて語りかけた、

「わしらはいずれ死ぬ、余生は不安だらけじゃ、それでも若者(わかいもん)に何とかもがき伝えて、未来(あと)は若者に(たく)しましょうぞ、それがこの村を町人を救う、一番の術なんじゃ」


僕は、大変なことになっちゃったなぁ、と思いながら一人佇んでいた


初音ミクをはつおんみくと昔呼んでいたわたしです

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