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真直

 この町から、大学に通うために都心へ、素敵なキャンパスライフがくると思っていた――


私は、都会(こっち)に来てから常にマスクをしている

人の多さと空気の澄み度の違いに馴染めず、終いには発作で倒れてしまった


休学し実家に帰ってきたが、家族から、

「何の為に大学に行ったんだ」

と責められ、家に居辛くて肩身が狭い。このままではまた息苦しいままだ、

とにかく家族の機嫌をとる為、親に生活費を収める事を考え、お金を貰えると聞き、町役場に集う事にした


 農業は小さい頃から手伝っていたので私には手馴れたものだった

私は好きな職を選んでいいとタナベに言われたので、自炊はちゃんとできた方がいいと考え、故郷料理部門の方に行く事に決めた


私は、ハツさんという女性の御宅で、まずは、食材の下ごしらえの手伝いをしながら料理を教わる事になった

私のおばあちゃんが生きていれば同年代くらいのハツさんは、私に本当に優しく、今の自分の家族よりも私にとっては暖かく、その存在は居心地の良い場所となった、私はそのうち、ハツさんの所に逆ホームステイをする様になった


料理の腕とハツさんとの間が深まった頃、私が、

「美味しい、美味しい」

と、ハツさんのところで夕ご飯を食べている時、

ハツさんは言ったんだ、

「そんなに美味しいかぃ? ――なんならずっとここに居てくれていいんだょ?」

そして、ハツさんは息子さんの事をポロっと口に出した、

「息子は出て行ってから此処には帰ってこない、もう随分会っていない、私の事も忘れて都会で暮らして――私が……、きっと、この町が嫌になったんだろう」


「……そうじゃないよ、おばあちゃん!」

私は少しうつ向いて話を聞いていたが、口に出した瞬間は思ったより力強かった。私は向こうに居て感じた事を伝えた、

「都会での暮らしは楽じゃなかった、今も息子さんは必死で生きてるんだと思う」

そう言った後、ハツさんは少し悲しそうな顔をした

翌日、私は自分の家に戻った


 数週間後、私は再びハツさんの家を訪ねた

「おばあちゃん今までお世話になり本当にありがとうございました。

私、大学に戻ります、私もう逃げるのは嫌なんだ、夢を叶える為に都会に行って勉強します」

ハツさんは今にも泣きそうだ、私は続けた、

「でも、私は戻ってくる、だってここが私の家だもん」



 発作が起きた時、すぐに医者に行ったら、

「病状はまだ軽度です」

と言われた、ちゃんと通院していれば治る筈だった、でも、私はこれで家に帰れる、そう思って少し嬉しかった、最初は予防の為にマスクをつけていたけれど、周りは知らない感性と顔ばかり、人間関係を築くのに億劫になって、スッピンも隠せるしと化粧っ気の無さにも言い訳をして、話し掛けてほしくないオーラを出していた。忙しいからと通院もせず自分の気持ちに従って、結果は、


ここは息苦しい、とにかく帰りたかった

私が都会に行った本来の目的は何だったのか、それさえも……



 (家に戻った時に見つけた)

 まだ、この町の学生の頃11人しか卒業生がいなかった、卒業アルバムの広すぎる卒業文集スペースに、一行、小さな文字で、

『教師になりたい』と


 両親に、

「また大学に戻りたい」

と頭を下げ、町からもらったお金もそのままタナベに返した

タナベは、

「どうせまた戻ってくるんだろ?」

と、いかにもはした金を返してくれなくてもよかったのに、という感じで言葉エールをくれた


つづく

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