息子の生態日記
ここに、働かない息子がいる。いつの日か大ゲンカをして母さんに思わず、
「いなくなれ!」
と口走ってしまった。次の日起きてみると、
『いなくなれと言われたので出て行きます、当分の生活費は置いておきます』
という置き手紙と、諭吉と、『困ったら開けて下さい』
と書いてある封筒を残して母さんは消えていた
俺はしばらくその金を使って遊んで暮らしていたが、
お金は思いの外少なくなっていく、
俺は、『困ったら』と書いてある封筒を開けてみた
中には一回り小さな封筒が入っていて、表に、
『本当に困っていますか?』
と書いてある、その封筒を開けると中にまた封筒が入っていて、
『早過ぎませんか?』
と書いてある、また封筒を開けるとまた封筒が入っていて、同じ事の繰り返しなので、俺は封筒を放置した
日に日にお金はなくなっていくが、働く気になれない、食糧は徐々に底をつく
何をしていなくても、腹は減るものだ。俺はたまらず封筒を開け切った、何枚か破って辿り着いた中に、
『母の洋服クローゼット』
と書かれた紙切れが出てきた。そのメモに従い、クローゼットを開けると中には、
息子の生態日記と題の書かれた母の日記なる物が置いてあった
『◯月◯日
息子が学校に行かなくなるも、何とか卒業する』
『◯月◯日
就職失敗と同時にずっと家にいる、何とかならないものか』
『◯月◯日
一日中携帯を触っている、ご飯食べる時ぐらい離しなさい』
『◯月◯日
ゲームばかりやっている。そんなに面白いのかしら?』
『◯月◯日
ゲームは面白いけど。少しは働け!』
『◯月◯日
仏像のように横になって寝てるだけ、バイトでもいいから……』
『◯月◯日
相変わらず』
『◯月◯日
一緒』
『◯月◯日
一緒』
『◯月◯日
〃』
『◯月◯日
現状維持』
『◯月◯日
母さんが甘やかしてきたのがいけなかったのかな? 母さん病気になりま
した。母さんが生きて一生働かない息子と、母さんが死んで息子が働くの
と、どっちが幸せなのかな……』
『◯月◯日
母さん入院します、あなたにいなくなれと言われたのもいい機会です。こ
れはお母さんからの最後のミッションです→次のページ』
『これから一人でどう生きていくかを述べよ、また、記録を綴りなさい
※一人前になるまで会いに来るな P.S.お父さんは小さい頃に死んだと言
いましたが、あれは嘘です。あなたがお腹の中にいる時にお父さんは側に
いなかったので、お母さんの中では存在しないものとして処理していまし
た。あなたが会いたいと言うのなら、探して下さい』
続けて、父の名前と手がかりが書かれていた。母さん、苦労したんだな……俺の眼には汗か何かか光るものが溢れていた
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つづきます




