まばたきのあいだに
……私は、生まれつき“霊”が見える体質でした。
小さい頃は無邪気に部屋の隅を指差して「あそこにおとこのひとがいるね」と言ってみたり、誰もいない玄関に向かって「ばいばーい」なんて言ってたんですけど、「みんなにはそれが見えないんだ」って気付く年頃になると、他の人にそういうことを言うのはやめました。
……だって、両親でさえ、私のそういった行動を恐れたからです。
……そして、私にはもう一つ。ただ見るだけでない、能力がありました。
それは――“霊”に触れながら“まばたき”をすると、瞼によって生まれる一瞬の暗闇の中に、その“霊”が生前、最後に見た光景を、見ることができるという能力だったのです。
――そんな能力が私に備わっているということを知ったのは、ささいな出来事がキッカケでした。
私が小学四年生の時。母方の祖母が亡くなり(祖母は、親族一同に囲まれながら、自宅にて天寿を全うしました)、私は親族達と共にそれを看取ると、そのまま葬式に備えて母方の実家に泊まりました。……その夜のことです。
ふと目が覚めると、祖母が枕元に座っていました。……私は祖母にとって初孫だったので、とても可愛がってもらっていました。
「おばあちゃん」
私はそう言って、祖母の手を取りました。……もちろん触れられはしなかったのですが、不思議な暖かみを感じていました。――その時です。
まばたきの瞬間――私が目にしている景色とは全く違う光景が――まるで映像が混線したかのように、瞼の裏に映ったのです。
それは、“天井”。そして、神妙そうな表情をして私の顔を覗き込む、“親族達の顔”。
その中には――私の“顔”もあったのです。
私は一瞬で理解しました。(あぁ……これは……)
祖母が最後に見た光景なのだ、と。
――枕元の祖母はだんだんと薄くなっていって、最後には消えてしまいました。……これが、私が能力に気付いた、キッカケです。
*
私が中学二年生の時。私には、たった一人の親友がいました。――神原亜美。それが彼女の名前でした。
小学校の頃からの付き合いで、一緒にいる時間も最も長い友人と言えました。――そんな彼女のお兄さんが、ある日自宅で何者かに襲われて殺されてしまったのです。
……彼女は、とても悲しみました。幼い頃に両親をなくした彼女にとって、お兄さんは唯一の家族だったのです。
警察による捜査も虚しく、犯人は一向に捕まりませんでした。……涙を流して悲しむ彼女を慰めている時、彼女はポツリとこんなことを呟きました。
「犯人を……許さない。殺してやりたい……」
――私は彼女の力になってあげたくて、自分の能力について――初めて他人に――説明をしました。
私は人の死んだ瞬間を見ることができるの。
――彼女は、私が“霊”を見ることができるということは知っていたのですが、その能力についてはもちろん知らなかったので、素直に驚いている様子でした。そして、言うのです。
「じゃあ……私のお兄ちゃんを殺した犯人も……わかるの?」
……うん。わかるよ。
……彼女の死んだお兄さんは、彼女の背中を抱くようにして、そこに立っていたのですから。
――私は立ち上がり、彼女の目を見てうん、と頷くと、彼女の後ろに手をやってお兄さんに触れ、目を瞑りました。
――ッ!
目を見開いた私の目の前には、もちろん彼女が――亜美がいました。
目を閉じる前と同じように――そして――。
目を閉じて見た、お兄さんの死んだ瞬間の光景――それもまた――亜美の姿だったのです――。
血に濡れたカッターナイフを持った、笑う亜美の姿――。
「見えた?」
――チキチキチキッ
私が見下ろすと、彼女の手にはカッターナイフが握られていました。
……私はこうして、死にました。