黒い鳥
これで最後になります。
ありがとうございました。
自動式人形の世話をするため、書斎に自由に出入りする許可を得た翌日。
書斎に入った私は、かけられた魔術を細かく分析するため、手に魔力を込めながら人形のあちこちに触れていた。
チ、チチ、と鳴き声がした。
みれば、人形の隣、窓べりに黒い鳥がいた。
この青みがかった目をした鳥を、私は知っていた。
「師匠の、使い魔」
『!』
『貴様、なにものだ?なぜこの鳥が使い魔であることを知っている!』
それはまぎれもなく師匠の声であった。
師匠はやはり、生きていた!
「アレイスターでございます!あなたの弟子、アレイスターですわ!」
師匠はどうやら、人形が見破られたことを知り、使い魔を飛ばしたようだった。
使い魔の目を通して私が見えているのだ。
私が死んで数年たったある日、師匠は厄介な相手に勘付かれた為、一か八かで船を出したのだという。
『まさかこんな大陸があるとは思わなかったがな。私としては、奴が死ぬまで無人島にでもひそんでいるつもりだったんだ。奴はただのヒトであったからな。まぁ、誤算だったが』
師匠によると、私が死んでからすでに50年の月日がたっていると言う。その間に師匠は人形を作り上げたのだ。
『アレイスターよ。レヴィーとかいう小娘を贄にしてメアリーを起動させなさい。メアリーが本当に人間として自然に成長するか、感情を持つか研究したい。
それに1年に一度は防腐魔術をかけてやらんとならないからな。ちょうどいい、公爵を利用してやれ』
「ええ、わかりましたわ、師匠」
研究者としての血が騒いだ。
数日たったある日。
『メアリー様』を見るべく書斎に入ろうとした私は、小さな子供が『メアリー様』に触れようとしているのに気づいた。
「ここは立ち入り禁止のはずですわよ、レヴィー様」
びくっとしてふりかえる、レヴィーは醜い。
潰れた鼻につながった太くて濃い眉、こけた頬、ひび割れてカサカサした大きな口、小さな子供とは思えないほどに荒れた肌。棒切れのような体は骨と皮だけしかないのではないかとさえ思う。
美しい『メアリー様』とならんでいるから、それらがさらに引き立つ。
「あ、アンマリーこそ!パパの書斎に入っちゃダメなんじゃないの!?」
そう言いながら睨みつけてくる彼女を見つめながら、すたすたと部屋の中に入る。
「私は許可されているんですわ、あなたと違って」
「なんでよ」
「私がゆくゆくはメアリー様に忠誠を誓い、主とするからですわ」
「メアリー?誰、それ」
怪訝そうな顔をするレヴィー。あなたが触ろうとしたその人だと伝えると、ぼそり、と馬鹿じゃないの、とつぶやく。レヴィーは思ったことをすぐに口に出してしまうのだ。
「みてしまったなら仕方ないですわねぇ」
レヴィーの目の前で立ち止まり、にたり、と笑う。
「そろそろ丁度いい頃合いですし」
「頃合い?」
会話を交わしながら、体内を巡る全ての魔力をかき集めて行く。
「メアリー様が目覚めるには、犠牲が必要ですしね」
「目覚める?犠牲?」
部屋の温度が数度下がる。
見ると、黒い鳥が止まっていた。
何かを察したのか逃げようとするレヴィー。でも足がすくんで逃げられないらしい。
さぁ、準備は整った!
「さようなら、レヴィー様」
失敗は許されない。
「奪え」
あれから、数年。
屋敷の中に、血の匂いが充満している。
部屋には、きゃらきゃらと笑いながら、義理の父親を刺すメアリー様の姿があった。
無意識に魔力を行使しているところをみると、流石師匠のお手製である。
さて、証拠隠滅をしなくては。