アレイスター
1年ぶりです、皆様。
アンマリー視点での番外編になります。
前世の記憶を思い出したのは、ほんの偶然だった。
私、アンマリー=グレゴリーの父親は画家で、母親は公爵家の上級使用人だった。
父が公爵とその妻の懐妊記念の肖像画を描きにやってきた時に2人は恋に落ち、私を身籠った。
同時期に身籠ったことから母は、公爵家の子、レヴィーの乳母になった。
乳兄弟のレヴィーと私は、幼少期をずっと一緒に過ごしてきた。
周囲の者から甘やかされて育ったレヴィーは我儘で、気に入らないことがあるとすぐに癇癪を起こす子供だった。
その日、レヴィーは機嫌が悪かった。
公爵が私にドレスをプレゼントしたからだ。
公爵は小さな女の子を見るのが好きらしく、私や庭師の娘にちょくちょく服やらなんやらを買い与えてくれた。私たちを撫でては、
「なんてかわいいんだろう」
「永遠にこのままでいてくれればいいのに」
とよく言っていた。
ただ、実の娘であるレヴィーはそのかぎりでないらしい。レヴィーに物を買い与えるのは、ねだった時だけだからだ。
その日も公爵は、私だけにドレスを買ってきた。
「乳母の娘のくせに、なんで私じゃなくてあんたが!あんたにドレスなんてもったいないわ!」
そう言ってレヴィーは私をどん、と突き飛ばした。突き飛ばされた私は壁に頭を打ち、その拍子に思い出したのだ。自分の前世を。
頭がおかしいと思われるかもしれないけれど、これは本当なのだ。
私の前世はアレイスター。生まれはこの国ではない。この大陸ですらない。
この大陸の者は知らないけれど、海を越えた先にはふたつの大陸が存在している。
魔界大陸と、アファール大陸というふたつの大陸が。そこでは、この大陸では空想上の存在とされている魔術や魔物がいる。
そして私、アレイスターは、尊敬する師のもとで、禁術を研究する異端者であった。
前世の私は、不慮の事故で恋人を亡くし、その悲しみに自殺を図ったところを師に出会った。
師は、死人の蘇生について研究していた。私は師についていくことにした。
それがどんなにいけないことかわかっていても、その時の私は恋人を蘇らせたいというきもちでいっぱいだった。
しかし、研究にはたくさんの遺体がいる。研究を重ねるうち、ついに国に勘付かれ、追われる身となった。同じところには長くいられない。腰を落ち着けて研究ができない。けれど私達は諦めず、逃げながらも研究を続けた。
研究を始めて、30年。
こんな結果がでた。
人形に、心臓の代わりとなる核を埋めこんで魔力回路を作り、そこに魔力を流すことで人形を動かすことができる、という結果が。
つまり、死んだ人間に、心臓の代わりに核を埋めればいいのではと考えたのだ。
しかし、うまくいかなかった。
死体は動いたのだが、意思を持たないただの傀儡でしかなかった。
この頃になると、私は死んだ恋人のことなど、どうでもよくなっていた。禁術の魅力にひきこまれていたのだ。
実験に失敗してすぐ、師はこう言った。
死体を動かそうとするのが間違いなのではないかと。
人形に死者の魂をいれることはできないのか?そう考えたのだ。
すぐさま私達はその研究を始めた。
しかしその頃には私は老いていて、その研究の途中に寿命尽きて死んだ。
前世を思い出してかれこれ1年ほどたつ。
しかし、前世を思い出したところで、今の私には何もできない。
師はいないし、前世と違い、私の体にある魔力は微々たるものだった。前世では、人間にしては豊富な魔力をもっていたというのに。
「アンマリー?どうしたの、寝付けないの?」
母に話しかけられ、はっとする。
「ちょっと、考え事をしていましたの」
「そう。寝付けないのなら、お母さんが話をしてあげましょう」
そう言って、母は語り始めた。
先週のレヴィーの誕生日パーティーの数日前、公爵と共にレヴィーの誕生日プレゼントを買いに行ったこと。
不気味な骨董品屋で、可愛らしい少女の姿をした、精巧な作りをした人形を見つけたこと。
公爵はそれを一目で気に入って、購入したこと。
「すごく可愛らしい人形だったのよ。骨董品屋さんによると、黒ずくめの女の人が売りに来たらしいんだけどね。あんまりにもよくできているから、お母さん、最初本当の人間かと思っちゃったわよ」
「へぇ〜。そのお人形、アンマリーもみてみたいですわ」
「公爵様の書斎にあるはずよ。そうね、明日書斎を掃除する時に見せてあげるわ。触らなければ公爵様もお許しくださるわよ」
そして私はであう。
主人、メアリー様に。