番外編¦とある令嬢の話
私は可愛くない。
まわりの人は、私のことを可憐だとか愛らしいだとか持て囃すけど、私は可愛くない。
これは謙遜じゃなくて、事実だ。
だって、眉毛は繋がっているし、鼻は大きくてぺちゃっとしている。体だって、痩せているといえばきこえがいいけど、がりがりで、あばら骨が浮いていて柔らかさなんてかけらもない。肌だって、好きな物だけを食べて夜更かししていた結果、ボロボロだ。
私は知ってる。
皆が私を可愛いというのはお世辞だってこと。私に気に入られようと媚をうっているってこと。
私のパパが公爵じゃなかったら、皆私に見向きもしないってこと。
半年前までの私は馬鹿で、自分は皆に愛されてるんだと勘違いしてた。自分が可愛いと、本気で思ってた。
「レヴィー様って不細工よね」
「でもお金と身分があるから結婚する相手を選べるのよね。うらやましいわぁ~」
使用人達がそうやって噂しているのをきかなかったら、きっと今頃もそう思ってた。
本当に可愛い子っていうのは、前まで屋敷に勤めていた庭師の娘のような子。
私と同い年だったあの子は平民だったから、あまり仲良くなることはできなかったけど。少しそばかすがあって、笑うとえくぼができて、目がぱっちり二重で、とても可愛かった。
パパもあの子のことを気にいってたみたいだけど、先月、あの子のお父さんである庭師が辞職してしまった。平民の彼が公爵家に勤めるなんて名誉はないのに、馬鹿なやつ。
とにかく私は可愛くなかった。
だけど、これはひどいと思うの。
私の、年に一度の誕生日。
パパは私に、なんにもプレゼントをくれなかった。
ひどいでしょ? 期待してまってたのに!
いくら可愛くない娘だからってひどい。
不機嫌になった私はつい、国王様の挨拶を無視してしまった。おかげでパパにもママにも怒られた。
悪いのは私じゃなくてパパなのに。
腹がたった私は、パパがいつも絶対に入っちゃいけないって言ってる、パパの書斎に入ってイタズラしてやるって決めた。
パパがでかける時。 いってらっしゃいと抱きついて、その時ににこっそりと鍵を抜き取った。
そして今私は、パパの書斎の扉をあけた。
「わぁ、書類がいっぱい」
机があって、その上にたくさん書類がおいてあった。
決めた。
あの書類をどこかに隠しちゃおう。
そう思って、机に近づいて、気付いた。
「!」
―――――――窓べりに、女の子が座って眠っていた。
いや、あれは、すごく精巧な人形だ。
だって、胸が動いてないもん。
伏せられた長い睫毛。真珠みたいな、くすみひとつない肌。薔薇色の唇。すっととおった鼻筋。綺麗で長い髪。
私のほしいものすべてを兼ね備えた人形だった。
惹きよせられるように、人形に近づいた。
私の指先が、人形に触れそうな距離まできた時。
「ここは立ち入り禁止のはずですわよ、レヴィー様」
びくっとしてふりかえる。
明るい茶色の髪をした、私のひとつ上の乳姉妹。
アンマリーが、そこに立っていた。
「あ、アンマリーこそ!パパの書斎に入っちゃダメなんじゃないの!?」
すたすたと部屋の中に入ってくるアンマリー。
可愛いっていうには大人びた顔をしてる。将来は美人になるって、ママが言ってた。
「私は許可されているんですわ、あなたと違って」
性格も全く可愛くない。私を馬鹿にしてる気がする。
乳母の娘のくせに、つんとすましてる。
「なんでよ」
「私がゆくゆくはメアリー様に忠誠を誓い、主とするからですわ」
「メアリー?誰、それ」
忠誠、なんて難しい言葉を使って大人ぶってるのも気に入らない。
「あなたが触れようとしたお方ですわよ」
「は?人形じゃない」
馬鹿じゃないの?
「声にでてますわよ」
鼻で笑うアンマリー。やっぱり私こと馬鹿にしてる!
「みてしまったなら仕方ないですわねぇ」
私の目の前で立ち止まった。
「そろそろ丁度いい頃合いですし」
「頃合い?」
「私も早くメアリー様の瞳を拝見したいですからね」
何をいってるの?
「メアリー様が目覚めるには、犠牲が必要ですしね」
「目覚める?犠牲?」
わけがわからない。心なしか、部屋の温度が下がった気がした。
「レヴィー様がいると、何かと不都合なんですわ」
そう言って笑うアンマリー。
その笑顔に、ぞわっと鳥肌がたった。
やばい。怖い。
逃げようとした。
でも、足が。
動かない。
「さようなら、レヴィー様?」
アンマリーの目が妖しく光って。
私の体は、地面へと倒れた。
私は今、可愛い妹の『中』にいる。
誰にでも愛される可愛い妹。
私のほしかったものすべてをもった妹。
私の誇り。
妹が、愛する人のことで不安になっている。
だから私は妹に囁く。
<邪魔なものを排除しろ>
今回の番外編の主人公はレヴィー=ウェネフィー。
本編でアンマリーが語っていた『公爵の綺麗でない娘』です。
『死んでしまったもう1人の私』であり、『声の正体』でもあります。
おそらく相当なシスコンです。
パパが死んでもなんとも思ってないと思います。
ウェネフィー姉妹、どりらも歪んでおります。
アンマリーの伏線は、同シリーズ作品で回収していきたいとおもいます。
それではみなさん、別の作品でおあいしましょう!
2015.5.13