番外編¦夢
カゲロウさんのリクエストで、「ガイアがヤンデレになったら」と後日談のセットです。
ジャラジャラ。
鎖が床にこすれる音がする。
「ガイア・・・これ外して・・・」
メアリーが、自分の足につけられた鎖を指差した。
「なんで?」
「ガイアが心配することなんて何もないよ?私はガイアを愛してる・・・世界中の何よりも、自分よりも」
笑いかけてやるとほっとした表情になって、俺のほうに手をのばしてくる。
外にでていないためか白く、細いその手を叩き落す。
「痛っ」
そのままメアリーを床に押し倒した。
鎖がぶつかり、音をたてる。
「俺を愛してるって言うなら俺に従って」
黙り込んだメアリーの首筋につよく歯をたてた。
「あっ」
ひとすじ流れ出した血をぺろりと舐める。
鉄の味、だけど愛しいメアリーのものだと思えば、不思議と甘く感じられる。
「俺以外のやつにあわせたくない・・・」
俺よりも金があるやつだって、俺よりも外見がいいやつだって、外には沢山いるから。
その中の誰かにメアリーを奪われるかもしれない。 そう思うとどうしようもなく不安になる。
「俺だけのものでいてくれ・・・」
背に、手がまわされた。
「私は永遠に、ガイアだけのものだよ」
そういって、安心させるように俺の頭をだきかかえる。
でもさ、メアリー。人の心は簡単に変わるから、安心なんてできないよ。俺はメアリーだけをずっとみてきたけど、メアリーがそうかなんてわからない。
「どこにもいかないで、俺だけを一生愛し続けて」
もっと俺に溺れて。
死が訪れても、互いを思い続けることを誓ってくれ。
「夢・・・か・・・」
目覚めるとそこは、うすぐらい地下室のベッドだった。
夢の中の俺はメアリーを鎖で繋いで、くみしいていた。いくら相思相愛でも許されないことだ。
夢の中のメアリーの瞳の中にうつっていた俺は、醜い感情をむきだしにして、狂気的な表情をしていた。
夢ではメアリーは俺におびえていたけれど、現実では嬉々として束縛されそうだな、と思う。
「ガイア、起きたの・・・?おはよう」
「おはよう」
まぶたをこするメアリーはまだねむそうだ。
地下室にとじこめられてから一週間・・・もう少したったか?
昼も夜もわからないから、何日すぎたかはわからない。
非常食も尽きた。多分俺の顔はやつれてるんじゃないだろうか。
・・・こんな状況じゃ、あんな夢をみるのも無理ないな。
「ガイア」
「ん?」
メアリーがむくりと起き上がり、キスをしてくる。そのまま俺に覆いかぶさってきた。
それにしても、中々不健康な生活だな。メアリーの体をだきしめると、ふふ、と笑い声がした。
メアリーとキスをしながら、思った。
俺はあと何日生きるのだろうか、と。
ひどくいたむ胸の傷が膿みだしてきているから、それがもとで死ぬかもしれない。あるいは、衰弱死か、餓死か。
すでに歩くことさえままならない。
「・・・ん、ねぇガイア」
「どうした?」
「もしも、私たちに子供ができたらどうする?」
笑いながらたずねてくるメアリー。どうやって返せばいいのか、とまどった。
子供ができたって、産む前に死んでしまうだろうことは明確だったから。
「ガイアの血をついでるんだよ、絶対いい子が生まれるよね!愛の結晶だよ。
でも、二人きりの時間が減っちゃうなぁ・・・」
俺に返事はもとめていないらしい。真剣な顔をして、悩んでいる。
生まれるとしたら男の子がいいなぁ、なんて呟いている。
「男の子ならガイアをとられる心配もないし、ガイアそっくりになってくれるかもしれないもんね!マザコンになってくれるといいなぁ」
「マザコンになってほしいのか?」
「うん、だってミニチュア版ガイアだよ!あ、いくらガイアにそっくりでも、さすがに実の子供をそんな目ではみないよ?私にはガイアだけだからね」
そういやメアリーの父親は少女嗜好だった、といやな思い出がよみがえった。
「もし子供ができたって、私の一番はガイアだからね。ガイアの一番も、かわらないでしょ?」
「え?ああ、そうだな」
何がおかしいのか、またも笑い出すメアリー。
二人きりになってから、ずっと笑っている気がする。
俺が誰かと関わらず、メアリーにだけ意識をむけていれば、メアリーはそれだけで幸せだという。
なら、そうしようと思う。
残された時間を、メアリーの為に使おう。誰もきずつかず、メアリーだって幸せになれる。これが、最善なんだ。
互いに依存して、最後の時間を生きていこう。