紅の君
「・・・はなしてくれてありがとう」
話を全て聞き終わったレニーが静かに言った。
「レニーのそれ・・・も、メアリーが?」
無言でレニーは頷き、顔を伏せた。
「今日の午後、父が王都に用がありでかけていたので、警備は手薄になっていました。
もともと私の家は分家ですし、ナルガ捜索に人員をとられていて、屋敷には私を含めて数人しかいなかったんです」
目をふせながらはなすレニー。
声が少し震えていた。
「使用人が、メアリーさんの突然の訪問を告げて、大騒ぎになりました。
領主様をもてなす準備なんて、急にはできませんから。慌てて、母と私が対応にあたりました」
「メアリーが・・・」
「・・・最初はおだやかな物腰でしたが、メアリーさんは、母がある言葉をいったとたん激昂し、隠し持っていたナイフで母をさしたんです!」
レニーをもっと大人にしたような、レニーの母親の顔がうかぶ。
あの優しそうな人が、メアリーを怒らせることをいったのか?
「婦人は、なにを?」
「・・・メアリーさんに、昔、姉がいたって」
「・・・姉が?」
どういうことだろう、と思考をはたらかせる。
メアリーに姉・・・?
「・・・・! ああ、もしかして・・・」
思い出した。
メアリーと知り合う前だったか。
お父様とアルカード叔父さんが話していたのを盗み聞きしたことがある。
『ウェネフィー公爵の娘が、遺体で発見されたらしいが』
『原因は不明だそうだよ。まだ6歳だったのに・・・公爵も、塞ぎこんでいるらしい』
どうして今まで思い出さなかったんだろうか。
ええと、なんて名前だったか・・・幼い頃すぎて思い出せない。
レ、なんとか・・・。
記憶をたどっていると、ひどく明るい声がきこえてきた。
「何も言わずにいなくなるなんてひどいよ、ガイア」
「!」
今、一番あいたくなかった人の声がした。
ふりむくのが怖い。
怖くてふりむけない。
レニーやジナは俯いていて表情がわからない。
「ガイア、どうしたの?すっごく心配したんだよ・・・?ね、勝手に出て行ったのは許してあげるから帰ろ?寒いから風邪引いちゃうよ」
俺に話しかけるメアリー。
その声に、負の感情なんてものは感じない。
ただ、俺を案じていた。
・・・夢だったんじゃないか?
今までのこと全部。
俺が白昼夢でもみていたんじゃないか。
ジル達は生きているんじゃないか。
ジナやレニーがなにか勘違いをしてるんじゃないか。
この声を聞いていると、そんな気さえしてくる。
硬直した足をゆっくり動かす。
どこかで希望を見出せないか?
おそるおそる、ふりかえってみた。
「早く帰ろ?」
いつもの笑顔。
いつもの笑顔のメアリーがそこにいた。
いつもと変わらない笑顔と声・・・。
絹の手袋をはめた右手を俺にさしだしてくる。
ただ、
メアリーは紅色にまみれていた。




