狂った歯車が元に戻ることを
メアリーが異常であるということを、今更思い出す。
メアリーが引き起こした事件を、俺は今まで忘れていた。
否。
正確には、忘れようとしていたんだ。
あの日俺は、男爵家の女の子と一緒に遊んでいた。
アルカード家とその家の友好を深めるには、その跡継ぎの子供が仲良くなるのが一番手っ取り早かった。
ウェネフィー公爵が是といえば、その子は俺の側妻になることが決まっていた。
その子の家はウェネフィー邸のすぐ近くだった。
ウェネフィー公爵の傘下だったからだ。
その子がお稽古の時間になり、別れた後、俺はメアリーにあいに行こうと思った。
正面玄関からだと公爵にバレると思ったので、裏口からはいった。
途中アンマリーとあった。
追い返されるかと思い焦ったが、アンマリーはウィンクをひとつして、見なかったことにしてくれた。
そして俺は、あの惨状を目の当たりにした。
「・・・メアリー=ウェネフィーは、人を殺せるわよ。ためらいもなく」
「あれは・・・過去の話だ」
ん?
ふと思う。
どうしてブリジット(このおんな)は、公爵を殺したのがメアリーだと知っているんだ?
あの日、目撃者はいなかったはずなんだ。
あの後、当時つかえていた屋敷の使用人は、メアリーの乳母と、その娘であるアンマリーを除いて全員が解雇された。彼らが空き巣の正体の可能性もある。そんな彼らと一緒にいるなんて耐えられないとメアリーが主張したからだ。
だから、おかしい。
ブリジットはどうみたって30にもなっていない年齢だ。
20半ばか、それより若いくらいだろう。当時の使用人の中にいたはずがない。
10年近く前のことだから。
それに、あの事件は空き巣の犯行であるとされた。
誰も、まだ幼かったメアリーが犯人であるとは思わなかったはずだ。
それこそ、目撃した俺以外に知る由もない。
一気に恐怖を抱く。
ブリジット(このおんな)は一体何者なんだ?
魔術を使うことができると言い、俺とメアリー以外が知るはずのない事件の犯人を知っていて、ジナを救いだしたブリジット(このおんな)。
怖い。
怖い。
怖い。
「・・・信じられないなら、明日。メアリー=ウェネフィーには何も言わないで、あの小屋に行ってみることね」
「あの小屋へ?」
「そうよ・・・明日はジナの誕生日なの」
そういえば、そうだった。
今言われて思い出した、明日がジナの誕生日だったこと。
「だから祝ってあげて。明日、あの小屋で」
「・・・わかった」
「プレゼントは、あのルビーの髪飾りで構わないわよ。ねぇ、ジナ」
その言葉を最後に、2人は応接間をでていった。
俺の心には、恐怖と苦い記憶だけが残った。




