御伽噺の産物
「本当に?本当に、ジナなのか?」
やっぱり信じられなくて、信じたくなくて。
「どうして、こんなことに・・・」
「それはね、領主様。少し前にグリー家の所有している小屋が燃えたでしょう?」
「・・・ああ」
「その小屋が燃えた時に、この子は小屋の中にいたのよ」
「・・・・なんで」
なんで、小屋の中にいたんだ?冬の川に浸かって、高熱をだして、寝込んでいたはずのジナが。
疑問を口に出すと、ブリジットが答えた。
「呼び出されたからよ・・・ね、そうでしょう?」
ブリジットがジナにたずねると、小さく頷く。
「呼び出されたって、誰に?」
「嫉妬に狂った殺人鬼ちゃんにね」
嫉妬に狂った・・・殺人鬼?
「あなたは不思議に思わなかった?立て続けに、自分の友人がいなくなっていくことに、不自然さを感じなかった?」
「それは・・・感じた。とてもじゃないが、偶然では片付けられない出来事だと」
「でしょう?・・・この大陸には、むこうと違って犯人を特定する方法もなければ、証明することもできないものね。どうしようもないわ」
ブリジットが、意味深なことを言った。
むこう、とは?
「あなたには関係ないことですよ。・・・んん?関係・・・あるっちゃぁあるわね?
うーん・・・この際、全部話しといた方がいいわね」
ブリジットは考えるようなそぶりをみせると、足を組んだ。
一体、どういうことなのだろうか?
「領主様?あなたは、魔法なんてものの存在を信じるかしら?」
唐突に、そんなことを聞いてくる。
魔法だなんて、空想の世界の産物ではないのだろうか?いや、別にまるっきし信じていないというわけではない。それらを否定するということは、神の心棒者を敵にまわすのと同じことだしな。
「信じていないと言うわけじゃない。ただ、現実味がないな、と」
「んー、まぁ、確かにそうよねぇ。魔法なんて、せいぜいが御伽噺やなんやの架空の世界にしか存在しないものだと、この大陸に人達は思ってる。
稀にその才能を持って生まれた子は、祝福されるべきことにも関わらず、親に気味悪がられ、奇異の目に晒されて、大半が大人になるまで生きられない」
ああ、哀れな。嘆くように言い、ブリジットは続けた。
「あなた達は知らないでしょう?グランディカ海を越えた霧のむこうに、大陸があるということを」
「大陸が?馬鹿な。この世界は円盤状であり、平面状の大地になっている。グランディカ海を越えればそこは世界の果て。奈落へと落ちてしまう」
俺が言い返すと、ブリジットは鼻で笑った。
隣に座るジナの肩に腕をまわし、嘲るように俺をみる。
「この大陸の人達はそう考えているようだけど、実際あるのよ?私はその昔、むこうの大陸に住んでいたんですもの。むこうの大陸では、こう考えられていたわ。世界は天体で、球状になっているとね。世界に果てなんてない。端と端は繋がっているのだと」
「な」
そんなはずはない。世界はお椀のような形をしているはずだ。
「そんなことはどうでもいいのよ。世界の形なんて心底どうでもいいわ。お気を悪くなさらないでね?
とにかく、海のむこうにはもうひとつ大陸があって、その大陸では魔法が流通してる」
「・・・信じられないな・・・」
「信じられなくて結構です。もとより信じてもらえないのはわかってるわ。それ程ぶっ飛んだ話をしてる」
ブリジットは、そう言った。気分を害した様子はない。
「で、さっき言ったけど、私はその大陸にいた。で、私は魔法が使える」
「魔法が?」
「そう、魔法が。何、私のことを頭がおかしい人だとでも思っているのかしら?
あなたはサーカスを見に来てくださってたわよね、この子と一緒に」
そういって、ジナを抱き寄せる。ジナは少し身じろぎをした。
「その時、道化師が燃えたでしょう?種明かしになるけれど、あれは私の演出よ」
「あの手品が・・・」
あれは手品じゃなくて、魔法だったって?
ああ、笑えない冗談だ。




