みてはいけないもの
「問題なのは、グリー卿を襲った暴力団を雇ったのはお前たちなんじゃないかという噂が、一部の貴族達の間に流れていることなんだ」
扉越しに、叔父のため息が聞こえた。
「『高価そうな服装をした若い女性』は、メアリー嬢なのではないかと疑っている者がいる。
まぁ、メアリー嬢が暴力団と知り合う機会もないだろうから信じている者は少ない。それに、公爵家を敵にまわすようなことをするような馬鹿な奴はいないだろうが、一応耳にいれておいた方がいいと思ってな」
完全な濡れ衣だ。
叔父の言うとおり、箱入り娘のメアリーが暴力団とどうやって知り合う?
俺はグリー卿が俺たちを疑ってるなんてさっきのさっきまで知らなかった。そんな俺たちがグリー卿を襲うわけがない。
何より、メアリーは母親が盗賊に襲われているんだ。
苦しんでいる母親を目にしてきたメアリーにそんなことはできないだろう。
「ガイア、無理はしなくていい。辛かったり怖かったりしたら、俺達にも相談してくれよ?
俺も兄上も、お前の味方になってやる。お前は俺の大事な甥なんだからな。・・・・じゃあ、また」
ひどく優しく、心配げな声でそう言うと、叔父は帰っていった。
叔父の足音が聞こえなくなり、数分。
なぜだろう、急に空腹、尿意、喉の渇きを強烈に感じた。
慌てて書斎から飛び出し用をたしに、外の手洗いにむかう。
用をたしおわった俺の耳に、ざくざくという音がきこえてきた。
同時にぐちゃっという音も。
足が勝手に音の方向にむかう。裏庭からその音は聞こえていた。
そして音がやみ、最近聞いていなかった声が聞こえた。
「後もう少しだよ・・・ガイア」
俺の名前?
後もう少しって、何が?
ざくざく、と言った音がまた聞こえる。
覗いたら、なんだか不味いことになる気がした。
それなのに、足は引き寄せられるかのように其処へ向かう。
濃厚で、むせるような匂いが漂っていた。
この匂いはつい数日前に嗅いでいた。
この匂いを嗅いで、食べたものをすべて戻した。
ほら今も。
何も食べていないからか、口からあふれるのは胃液だ。
あふれるそれを手でぬぐって考える。
裏庭で起こっていることを確認するべきか、知らないふりをするべきか。
みてはいけないもの、見たら後悔するもののような気がした。
「旦那様」
心臓を掴まれたような冷たい声に目を見開く。
そこにはアンマリーがたっていた。
初めて聞く冷たい声に、僅かばかり動揺する。
「いずれバレるとは思ってましたけど・・・早かったですね・・・いや、遅かったのでしょうか・・・?」
アンマリーはぽつりと呟いた。
「どうしたんです?旦那様。いつものお美しいご尊顔が台無しですよ?
お腹が空いていらっしゃるでしょう?何かお召しになられますか?軽い物であればございますよ」
にこりと笑って、汚れた俺の手を躊躇いなくアンマリーはとった。
おかしい。アンマリーの、この異様な威圧感。
一介の侍従長である彼女から感じる・・・殺気だったモノ。
「どうしたんです?・・・行きましょう。ご主人の邪魔になってしまう」
有無を言わさぬ笑顔と冷たい声を発したアンマリーに、俺は逆らえなかった。
ガイアは皆さんわかってらっしゃると思いますがヘタレ属性です。




