役立たずの傭兵
シモーヌ視点です。
私はバーベキューの際に訪れた川辺を歩いていた。
グリー卿のご令嬢2人、グレイディ家次男の連続失踪。
ジナ様の行方不明と同時に小屋の炎上。
火の手が早かったことから、これは放火だという疑いがある。
行方不明になった3人は友人関係にあった。
そしてジル様とジナ様の2人はある人物と接触した後に失踪している。
ウェネフィー領領主代行のガイア様、メアリー様だ。
ジル様の場合は2人の屋敷に宿泊して帰り。
ジナ様の場合はバーベキューをした次の日。
その日が2人共、メアリー様と初対面だったはずだ。
しかもガイア様はジル様を最後に目撃した人物らしい。本人がそう言い、屋敷の侍従長アンマリーもそう証言した。
バーベキューの際にジナ様とメアリー様が川に落ちたのも、果たして偶然なのか気になる。
私は傭兵だ。
金とひきかえに人の命を守り、時には奪う仕事。
それなのに私は守れなかった。
ジナ様が脱走していたことに気付かなかった。
私とミランダに課せられた仕事の中には、ジナ様の護衛もあったのに。
護衛対象が脱走したことにすら気付かず、何の為の傭兵なのか。
グリー卿とフィドさんの信頼も裏切ってしまった。
だから絶対に犯人を見つける。
ジナ様が生きているのなら、必ずお救いする。
バーベキューをした辺りからやや離れた地点を歩いていると、端にあった大きめの川石が目に付いた。
なぜか、その川石が気になって近づいてみると、動かされた形跡がある。
それをどけてみると、何か黒いものがあった。
一瞬何かわからなかったそれが何か気付いた私は、思わず後ずさった。
それは、人間の左腕だったのだ。
大火傷をおい煤まみれになっているが、確かに左腕。
焼け焦げたその細い腕は、10代前半から半ばくらいの少女のものとみられた。
ぶつりと切り落とされていて、断面が真っ赤でグロテスク。
あれ?
頭を使って探せばすぐにみつかるところだったはずだ。
なぜ、今まで気付かなかった?
他の傭兵達の言葉がよみがえる。
『グリー卿、かなり焦ってたな』
『無理もない。娘のどちらかでいいから妻にって貴族は少なからずいただろうからな』
『最愛の娘が行方不明になって哀しいんじゃ?』
『それはないな。ほら、フェミニ伯爵あたりはジナ様にアタックしてたろ』
『ああ、あのフェミニストのロリコン伯爵か』
『それ聞かれたら処刑されるぞw』
杯を片手に昨晩、そんな話をしていた。
焦っていたなら傭兵に任せてないでちゃんとした探索のプロを雇えばいいのに。
プロでなくとも、少し探せばすぐにみつけられた。
所詮金だけで動く能のない傭兵・・・か。
・・・それにしてもだ。
こんな重要な証拠となりえそうなものを犯人は、なぜ残していったのだろうか?
それ程焦るような事態でもおきたというの?
とにかく、この左腕は丁重に持って帰らなくては。
私が持ち帰った左腕をみて、フィドさんが顔をしかめた。
「焼けた左腕か・・・。小屋が燃えた時に巻き込まれたってか。領主様がジナ様のルビーの髪飾りを小屋の焼け跡から発見したと言うし、この左腕はジナ様のものって線が濃厚だぜ」
そう言いながら、ソファに腰をおろす。
「何者かにグリー家が狙われてるんでしょうね。そのうち脅迫状でも届くのでは?」
「ナルガ様だって行方不明になってるでしょう」
「だからこそ不可解なんだよ。ジル様が失踪して代わりに血だまりと小指が見つかった。ジナ様が失踪して、ジナ様の髪飾りと左腕が見つかった。おそらく2人は死んでるだろうな。
その2人と違って、グレイディ家の次男には証拠がないんだ」
最も疑いの強い2人の身分は次期公爵と公爵令嬢。
2人が犯人だという確証もなければ、あったところで揉み消されるのがオチだった。
「二度あることは三度あります。三度あることは、四度。また、誰かが行方不明になるんじゃないですか?」
ミランダが言った。
そして、ミランダの不吉な予感はあたってしまうのだった。




