忠実な使用人
アンマリー視点です。
今の状態だと、アンマリーってかなり謎な人物ですね。
応接室で物音がする。
激しく言い争っている声に、罵倒。それから刃物の音や、ソファか何かにぶつかる鈍い音。
しばらくしてその音はやみ、代わりに嗚咽が聞こえました。
どこで誰が聞いているかわからないというのに、屋敷の一室で、それも客人相手に大騒ぎをしているなんて・・・。
通りかかった使用人が不審に思って扉をあけたらどうするのでしょうか。
全く、仕方のないご主人ですね。
他人が近づかないように、悲鳴を聞かれないように、私はここで見張っているとしましょうか。
ご主人がこの前でかけたのはきっと、彼女を殺害する為だったのでしょう。全く、無茶をなさるんだから。
私もついていってジナ様の遺体を運んでさしあげてもよかったのだけれど、ご主人は私が気付いていることを知らない。
下手に動けば、私も屋内の男の二の舞になってしまうだろうし、それはとても困ります。
私がいなくなったら、ご主人のフォローを出来る人がいなくなってしまいますからね。
遺体遺棄くらいは影から手伝ってさしあげましょう。
「ああぁああぁああああぁあああああああああぁぁっ」
突如の悲鳴。
・・・ちょっとまってください。
この声は、毎日聞いている、ご主人の声では?
これは想定外です。
ご主人に万一のことがあっては、侍従長である私の責任になってしまいます。
「どうされました!?」
ばんっと扉をあける。
そこには、右手をおさえて蹲るご主人の姿があった。
絹の絨毯が、嘔吐物や鮮血で汚れて異臭を放っている。これは洗っても落ちないでしょう。
そこに倒れこんでいる客人は私を助けと勘違いしたのでしょうか、すがるような目でこっちを見上げてた。
ご主人がはっとした表情を浮かべる。
焦っていることがまるわかりですね。
「アンマ・・・リー・・・」
「右手をみせていただいても?」
ご主人はおそるおそる右手をさしだす。
刺し傷・・・近くに転がっているナイフか。幸いとても深いということはないですから、一生傷になることはないでしょう。
それにしても、年頃の女性に傷をつけるなんてひどいですね。
「すぐに消毒しないといけませんね」
ゆっくりと立ち上がって、ナイフに目線をむける。
何をしたいのかがわかった私がナイフを拾って手渡すと、ご主人は少し驚いたような顔をした。
「あらご主人、どうしてそんなお顔をなさってるんですか。
アンマリーはこれでも、ウェネフィー家の筆頭使用人。侍従長なんですよ?」
ご主人に仕える使用人である私が、主に逆らうわけがない。
それを言外に伝えると、ご主人は不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
そのまま、切羽詰った表情のナルガ=グレイディに止めをさした。




