その喧嘩、買ってあげる
一方その頃メアリーは。
ガイアとレニーが血相をかえ、屋敷をとびだしていってすぐ。
アンマリーが私に来客だと告げた。ガイアが外出中の今。
まぁ、だいたい来客の見当はついているけど。
応接室に入ってきたナルガ=グレイディ。
ブラックがうなるのを静止する。
「用があるのでしたらこちらから伺いましたのに」
「いや・・・突然押しかけて悪い。2人きりで話させてもらえねえかな」
「・・・わかりました。アンマリー、退室してくれる?ブラックも連れて」
「はい」
アンマリーを下がらせ、ナルガにソファに座るよう促す。
「さて、何のご用なんでしょうか?」
用件もなんとなく察しがついてるけどね。
「あ、飲み物いかがですか?実は、いい果実酒があるんですよ」
「あー、」
「隣国から仕入れたものなんです。アルコールも低めなので、昼間から呑んでも大丈夫ですよ。アンマリーのお墨付きです」
頷いたのを確認してワイングラスにそれを注ぐ。
ナルガが果実酒に口をつけたのを見届けたら、私の分の紅茶を注ぐ。
「メアリーちゃんは果実酒、のまねぇの?」
「私、下戸なんですよ。この果実酒は来客用ですし」
「へぇ、下戸なのか。酒が呑めないなんて勿体無いな」
「そうですね。ガイアと一緒にカクテルなんかをのみながら語り合う、なんて言うのにあこがれます。
それより、ご用をお聞きしてもいいですか?」
そう言うとナルガは軽く謝罪し、話を始めた。
「気分良くねぇ話になるんだけど。この前バーベキューした時、」
「ボートから私とジナさんが落ちてしまったことですか?」
「そう。後からジナが変なこと言ってきたんだ」
ナルガの真剣そうな目をみていると、笑えてきてしまう。
なるべく真意を悟られないように相槌をうつ。
「ジナは、メアリーちゃんが自分ごと川に引っ張り込んだって言ったんだ」
果実酒のボトルを机におき、目をふせる。
ナルガは構わずに続けていく。
「実はジナ、昨日の夕方から帰ってきてないんだと」
「恋人のところに泊まってるとかじゃないんですか?」
「ジナに恋人なんてのはいない。それにまだ13歳だぞ」
「十分な年齢です。ジナさんはもう、社交会に出席しているんでしょう?」
「・・・もうひとつ。昨晩、あの小屋が火事になった」
単細胞のくせに、行動力は一人前だよね。
でも、足りない。
私の中にガイア以外にふりまく道徳は存在しない。
「不自然ですね、確かに・・・だけど私に動機は?動機があるっていうんですか?」
おおありなんだけど、ナルガにはわかっていないんじゃないかなぁ。
はりつけた笑顔で諭すと、ナルガは渋い顔になった。
「それはそうだ。でも」
「でも?」
ナルガの語調が強くなったのに、気がついた。
「万が一あんたがジナを落としたのだとしたら、ゆるさねぇ」
そう言って私を睨みつける。
・・・・ウェネフィー領領主代行であり、公爵令嬢でもある私に地位の劣る伯爵家の、それも次男が喧嘩を売るっていう意味が、この男にはわかっていないらしい。
ウェネフィー家の権力を握っているのは、私とガイアだ。
ウェネフィー領の内政をしているのは殆どガイアだけれど、ガイアはまだ私の婚約者。
つまり、ウェネフィー家の現在の当主は、実質的に私なのだ。
私なら、いかに伯爵家といえど簡単にひねるつぶすことができる。
「私に危害を加えたら、グレイディ一族郎党、路頭に迷うことになるってことは知ってるかな」
笑みを含んだ声で告げると、ナルガは言葉に詰まった。
「それに、ジナさんの一言だけで私を疑うなんて浅慮ではありませんか?」
「でも、ジナは嘘をつくような奴じゃねぇ」
馬鹿馬鹿しい。
嘘をつかない人間なんてこの世にはいない。
「ジナが見つかったら、メアリーちゃんのことを聞く。
メアリーちゃんが犯人だとジナが言ったら、ガイアの婚約者だろうが、公爵令嬢だろうがなんだろうが俺がゆるさねぇ」




