初冬の川
川の深部までボートをこぎ進めた頃、メアリーさんが船酔いをしてしまった。
オールをこぐ手をとめ、大丈夫か、と声をかける。
メアリーさんはとても気持ち悪そうに、レースのハンカチを口にあてている。
私は馬車などの乗り物には酔いにくい体質だから、その気持ち悪さとかはわからないけど、かなり辛そう。
メアリーさんの様子を見たブラックが、心配そうにくん、と一声鳴いた。
「大丈夫・・・・・・それより、迷惑を掛けてごめんなさいね」
「そんな!全然構いませんよ?・・・それより、引き返しましょうか?」
「いえ、このまま此処にとどまってもらえると嬉しいんだけど・・・動くと余計に、気分が悪くなってしまうだろうから」
「わかりました」
メアリーさんの顔はすっかり青ざめている。喋るのもつらそうだ。
背中をさすってあげた方がいいかと思い、手をのばした。
刹那、メアリーさんが私の腕をつかんだ。
そしてそのままボートの淵にひきよせる。
「え!?」
弾みでボートのバランスがぐらりと崩れ、私の体はなげだされた。
私の手を掴んだメアリーさんと一緒に、空中へ。
ボートにブラックだけを残して、とてもじゃないけど足のつかない、底のみえない深い川に。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ばしゃーんっ!!!
突如、私の体に、思いもよらない水の衝撃が襲い掛かる。
冷たい!!
初冬の川の水は凍えるように冷たく、痛い。
私の体に水が突き刺さり、ぴりぴりする。
口の中に水がなだれこんでくる。
私は、泳ぐことができない。多分、メアリーさんも泳げないだろう。
今まで私の手を強く掴んでいた、メアリーさんの手の感覚が消えた。
途端、私の頭をグイッと何かがおさえつけた。
「かはっ」
息が、できない。
苦しっ!!
私の頭をおさえつけた何かに手をのばす。
・・・・人の、手・・・?
「がぼ・・・っぐっ!?」
バシッと手を振り払われた。
どうして。
その拍子に水をさらに大量に飲んでしまい、意識が遠のいていく。
うっすらとした意識の中で。
メアリーさんがガイアさんの腕に抱かれているのがみえた。必死な顔をしたガイアさん。
メアリーさんが浮かべているのは、助けてもらったことへの安堵の笑みじゃないような気がした。
どこか、恐怖を感じるような、狂気染みた・・・。
そのまま、私の意識は闇の中へ―――――――――――――――――――――――――――――。
冬に川とかもう軽く死ねますよね。




