絵描きと侍従長
「ガイア様、メアリー様、朝でございます」
同性愛者な使用人、リザの声で起こされた俺とメアリーは、着替えをすませると居間へむかった。
窓は外の冷気と中の温度に曇っている。
「もう冬だね・・・寒いや」
「暖炉に火をおこしいたしましょうか?」
「ああ、頼んだ」
「かしこまりました」
俺とメアリーが朝食のクロワッサンを食べる中、古い暖炉に薪がくべられて、火がつけられる。
冬は暖炉がなければ生きていけないと、俺は切実に思うのだ。寒いのは嫌いだしな。
「そういえばリザ、アンマリーは?」
「侍従長でしたら、自室で絵を描いてらっしゃいますよ」
アンマリーのことだから寝ているのかと思いきや、絵を描いているらしい。
アンマリーの亡き父親ビンス=グレゴリーは、そこそこ名の知れた絵描きだった。
特に人物画を描くのが得意で、数多の貴族の肖像画を描いていた。
アンマリーの母親とであったのも、メアリーの母親であるウェネフィー婦人の肖像画を、ビンスが依頼されたからだったという。
アンマリーの母親はこの屋敷の侍従長であり、2人は一目で恋におちたらしい。貴族の令嬢などが憧れる恋愛小説みたいだが、事実だ。
アンマリーは父ビンスの血を色濃く受け継いでおり、性格とは裏腹に繊細で美しい絵を描くのである。
「あ、そうだ。ガイア」
「なんだ?」
「今度、川辺でバーベキューがしたいの。レニーさんとナルガさんと、後ジナさんも誘って」
「・・・もう冬だぞ・・・?」
バーベキューは夏場にやるのが定番だろう。
冬にやるなんて季節はずれだし、何より寒い。
「あったかい格好をしていけば大丈夫だよ。火の近くに集まったらいいし」
「誰が野菜とか生肉とかを切るんだ?」
「私とレニーさんとジナさん。あ、アンマリーも」
「そのメンバー、すごーく不安なんだが・・・」
家庭的なレニーと商人の娘として家事なども叩き込まれているであろうジナはともかく、料理どころか厨房にすら立ったことがない生粋のお嬢様なメアリーと、いつも運んでくるだけで、料理をしているのをみたことがないマイペースなアンマリーに包丁をもたせるなんてのは不安でしかない。
メアリーなんか、野菜を洗ったこともないし生肉を触ったこともないはずだ。
「ガイアってば、私を過小評価しすぎだよ?私、刃物を扱うのは得意なんだから」
「刃物の扱いが?」
触ったこともなさそうだが。
「うん。特に、先の尖った鋭利なのがね」
ウェネフィー公爵に蝶よ花よと育てられたメアリーが、鋭利な刃物なんて凶器を扱うことなど無理だと思うんだが。
メアリーは、祭典などに着ていくドレスすら1人で着替えることすら出来ない箱入り娘だし。コルセットの取り外しができないらしく、アンマリーやリザがやってあげているのだとか。
ちなみに普段はコルセットなんてつけていない。つけなくても十分細いからだ。
「怪我してもしらないぞ?」
「だから、大丈夫だってば。肉なら結構上手に切れると思うよ」
どこからそんな自信が沸いてくるのだろうか。
結局俺が折れて、バーベキューを行うことが決定した。
「思い立ったが吉日だよね!」
メアリーは早速、手紙を書き始めた。
後日、返事が届いた。
レニー、ナルガ、ジナも乗り気だった。こんな寒いのにも関わらず。
アンマリーなんか、白昼堂々と酒が飲めると喜んでいた。
不安だが、メアリーの采配に任せようと思う。
・・・・決して面倒なわけではない。




