犬好きに悪人はいない
「く、熊が!」
覚悟して入ったサーカステント。
自分が人体切断などをされるのかと思っていたけど、誤解だったらしい。
それどころか、さっきから笑いがとまらない。
ブラックまでが鼻で笑った気がしなくもない。
先程やったピエロが燃えたのはどういう手品なの?
わからないけど、面白い。
曲芸師が空中芸を披露し始める。優雅でダイナミックだ。
・・・そういえば、ガイア達はどの席に?
私がいるのは特別席、いわば特等席。
ガイアとジルもどきは特等席周辺にはいなさそうだ。
周りをみて、知った顔をみつけた。
「レニー=グレイディ・・・」
なんで知り合いばかりいるの、本当に。
ナルガ=グレイディ・・・はさすがにいないか。
レニーは、レニーと同じ赤毛の女性といた。
30代後半くらいの女性、おそらくはレニーの母親だろう。
私と同じ味のポップコーンを食べてるじゃないの。美味しいもんね。
そんなことを考えながらまじまじと見つめていると、レニーと目が合った。
・・・どうしよう、こっちにきた!
「メアリーさんもサーカス観にきてたんですね!」
「奇遇ですね……お母様といらしてるんですか?」
「そうなんです。メアリーさんは?」
「アンマリーとブラックと…」
そういいながらブラックをみると、レニーをみて尻尾をブンブンとふっている。
ブラックが懐いているのなら、障害にはならないのかなぁ?
でも、この女もガイアのことが好きだという可能性は拭えない。
犬好きに悪い人はいないと言うけれど、だからと言って、味方とは限らない。
「ガイアさんと来たんじゃないんですか?」
「ガイアは…用事が」
「え?おかしいなぁ。ガイアさんもサーカステントにいましたよ?ジナと一緒にポップコーン食べてるの、確かにみましたもん」
「ジナ?」
「ああ、ご存じないですよね。ジルの妹で、ジルそっくりなんです。性格の方は妹のジナの方が落ち着いてて、お姉さんみたいなんですけどね」
うん?
うん。
・・・うん・・・?
さっきのジルは、ジルじゃない?
おそらく、また障害が増えたらしい。
妹がいたの?まぎらわしい。
・・・でもおかしい。
なんで、ガイアが婚約者の私とじゃなくて、よりにもよってジルの妹なんかとサーカスを観にきてるの?
やっぱり、
「血は争えないってことか」
「へ?」
ジルといい、ジナといい、グリー卿といい。グリー家はどいつもこいつも私の邪魔をする。
今度の領内の財政会議で、グリー卿に文句のひとつやふたつを言ってあげないと気がすまない。
ついでに忠告もしておかなくっちゃ。
『あなたは近いうちに天涯孤独になりますよ』
って。