サーカスと言ったら?
私はブラックを胸の中に抱きながら、屋敷の裏庭の地面を見下ろしていた。
私の足元の地面には、あの売女の肉塊が埋まっている。
従者の方の遺体は男だったから重かったし、あの時は埋める時間がなかった。
だからばらばらに解体して、肥料が入っていた大きめの空き袋の中に詰めた状態で、肥料置きの隅の方に置いてある。今は冬だし、腐ることはないはずだよね。
「ねえ、ブラック」
ブラックは私の声に反応してきゃんっと一声鳴いた。
私は語り聞かせるように、ブラックをなでながら呟く。
「私とガイアの仲を邪魔しようとしてる奴が他にいたら、教えてね……?」
そう言った時、ブラックの耳がぴん、と立った。
そして、いつもより低い声で唸り始めた。
「ブラック、どうしたの…?」
どうやらブラックは、私の後ろに向かって唸っているようだった。
振り向くと、柵の向こうに誰かが見えた。
あれは、
「ナルガ=グレイディ…?」
ガイアが出かけたのは早朝で、今は昼。でかけてからかなりの時間がたっていた。
なぜ、ナルガ=グレイディがここに?
ブラックは、尚も唸り続ける。
犬嫌いで、ブラックに嫌悪な感情を隠しもしなかったジルにも甘えていた、温厚で人懐っこいブラックが。
「…ブラック、アイツも私達の未来に邪魔な存在だって言うの?」
ブラックは答える代わりにがう、と吠えた。
鋭い牙を、むきだして。
「……そう、なんだね?」
アイツも私達の邪魔をする、障害なんだ?
そう思うと憎しみが湧いてくる。
私はぽつりと呟いた。
胸の中にいるブラックには、しっかりとその声は聞こえていただろう。
「障害は取り除かないと。排除しないと、安心できない」
その時だった。
「ここにいたんですか!」
アンマリーが駆け寄ってきた。何かウキウキしている気がする。
「どうしたの?」
「ご主人、知ってました?今、このウェネフィー領にサーカスの一団がきてるんですよ!」
「さーかす?何それ、おいしいの?」
「食べ物じゃありません!」
じゃあ、何だというのだ。
「昔一度だけ母に連れてってもらったんですけど・・・とても楽しいですよ!」
・・・場所なの?
「綱渡りとか、火のお手玉とか」
・・・危険なところなの?
「有料ですけど」
・・・お金を払って危ないことをする場所なの?
「いきませんか?」
「嫌」
「なんでですか!?有料なのが気に入らないんですか!?」
アンマリーはショックを受けたらしい。
しかしそこにいくメリットがわからないのに、了承する私じゃない。
「すっごく面白いんですよ!?道化師を燃やしたり、人体を切断したり」
「・・・・・・・・(恐)」
余計行きたくなくなった。
「行きましょうよ~。サーカスの一座なんて滅多に来るものじゃないんですよ?」
「絶対、嫌!」
「むー。・・・じゃあ、ポップコーンだけでも買いにいきませんか?」
ぽっぷこーん?
「何それ、おいしいの?(←本日2回目)」
「はい!おいしいですよ!!玉蜀黍の種だったかで作るお菓子でして・・・きっとお気に召しますよ!」
玉蜀黍の種?
玉蜀黍は好きだけど・・・。
種って食べられるんだっけ?
「キャラメルやシナモン、メープル、ショコラ、ミルクティー・・・色んな味があるんです。私のおすすめはやっぱりキャラメルですかねぇ~」
よし、いこうじゃないか。
こうして私とアンマリー(とブラック)は、ポップコーンとやらを買いに行くことが決定した。
皆さんどの味のポップコーンが好きですか?