娘<金?
「なんで、ガイアさんがここに…」
「えっと…その」
俺が口ごもるとジナは気がついたようで、
「…ああ」
と目をそらした。
ジルとジナは年が3つ離れた姉妹だが、双子のようにそっくりな見た目をしている。
若干ジナの方がジルより背が低いが(1、2㌢くらいだけだが)、それ以外違いが見当たらない。2人並べてみなければ、俺達じゃとてもみわけがつかない。
2人並べずに見分けるのは困難だ…。
なので、俺は去年ジナの誕生日にこのルビーの髪飾りを贈ったのだ。
これをつけていればジナ、つけていなければジルと一目で判別できるように。
性格の方は、14歳のジナの方が姉のジルよりもだいぶ落ち着いているのだが。
ジナは卑屈に笑う。
「お父様なら、今お客と話してる」
「…客?」
「ガイアさんもよく知ってる人だよ」
応接室前で、ジナと彼女の父…グリー卿が扉越しに話している。
「ごめんね、私んち、応接室ひとつしかないから……待ってもらってもいい?」
「うん」
廊下でジナと会話しながら待っていると、扉がギィと開き、よく見知った人…。7
レニーとナルガが出てきた。
ジナがニコッと笑い、会釈する。
「ガイアさん、どうぞ」
「あ…、ああ」
……2人とも、俺と同じってわけか。
「ガイア殿、わざわざ足をお運びいただいて申し訳ない」
俺は進められるがままに応接室のソファに座る。
座り心地はよくもなく、悪くもない。
「先程の2人とは何を話していたんですか?やはり、」
「ええ。他ならぬ娘のことです」
ジルの実父、グリー卿。
金で貴族の地位を買った、いわゆる豪商貴族だ。
ジルが以前、
『もし自分と大金の入った籠が崖から落ちそうになっていたら、お父様は間違いなく籠の方をひきあげる』
と漏らしていたことがあった。
その時は、まさかそんなことはないだろうと思った。
しかし今グリー卿と対談していて、それが本当かもしれないという気持ちになった。
「ジルが危険な目にあっていたらと思うと親としては心配ですよ」
口ではそういいながらも、本当に心配をしているようにはみえない。表面上そのように振舞っているだけで、心の中では悲しんでいるのかもしれないけれど。
優雅にアールグレイを飲み、俺に応対している。
聞いてみればジルを捜索しているのは全員低賃金で雇われた傭兵だという。
ジナそっくりな少女を探せと言われているらしいが、そんな輩にジルが見つけられるというのか?
「まあ、ジルは護身術の心得もありますし・・・心配にはおよばないでしょう」
・・・・さっきといってることが矛盾してるぞ。
さっき自分で心配だと言わなかったか。
「それより、財政のことはどうなっているんです?」
本当に娘のことを思っている親の台詞じゃないだろう。俺は心の中で突っ込みまくりだった。
俺の父親だって、厳格で優しいとはいいがたいが、俺が一度迷子になった時、大事な仕事があったのにもかかわらず夜中を探してくれた。
まあ、その後でこっぴどく叱られたけど。
グリー卿は、まるで娘に関心がないというか、興味がないといった感じだ。
以前にも何度かあったが、その時は紳士的で知的な人だと思ったのに。
浮かない心持のまま、政治のことや財政のことを話した。
応接室を出る時、給仕の女性がかけよってきた。
「この私、恐れ多くもガイア様にお願いがございます」
「?」
「ジル様のことでジナ様、沈んでらっしゃって、食事も喉を通らないようなんです。ですから、励ましの言葉をかけてさしあげてほしいんです・・・、ジナ様は領主様に懐かれておいでですから」
了承したものの、励ましの言葉って・・・・・どんなことを言えばいいんだ?
応接室の扉の横で、ジナは俺を待っていてくれたらしい。
危うく、扉をぶつけるところだった。
「ガイアさん、今から帰る?」
「ああ」
「・・・この後、何か予定ある?」