偶然同じ日にその場所で
「フィドさん!至急、こちらにきてください!!」
捜索を始めたその日の昼過ぎだった。
若い捜索隊員のその声に、フィドと俺はかけつけ、そして絶句した。
赤。赤、赤、赤。
地面が、一面真っ赤に染まっている。
いやな鉄のにおい。
ふいに、ここが昨日俺がジルと別れたところだと気付く。
赤の中に何かが落ちていた。
それを、フィドが拾った。
それは、
人間の、指だった。
「うっ!?」
それを見た瞬間、喉の奥から昼たべたものがせりあがってきて、たまらず吐き戻す。
なんで!?なんで指が!!!
血で赤く染まった爪。細い指。
フィドがそれをまじまじとみて、ぽつりと呟いた。
「サイズからみるに・・・・・・・女子供の、小指だな」
・・・なんでだよ!?吐き気がおさまらない。次々とあふれてくる。
女子供の小指?
違う、彼女のじゃない。どこかの見知らぬ人の小指だよ。
賊にでも襲われたんだ。きっと、そうだ、そうだ。可哀想に。
だから、この小指は彼女のじゃない。
ジルのじゃない。
ジルは生きてるんだ。
「それにしてもひどい。すごい血の量だ。間違いなく死んでるぜ」
なんでそんな平然といえるんだよ?
死んでる、なんて。
嗚呼、吐き気がおさまらないよ。もう、たべたもの全部吐いただろ。
意識が遠くなる。
「ガイア!!」
メアリーの声が聞こえた時、ドサッと体が崩れ落ちた。
後からかけつけたメアリーが笑っていたことを、俺はしらない。
次の日、雨がふった。
メアリーが、外を眺めながら言った。
「あの血だまりは流れてしまったからもうないよ」
「だからおびえないで?私がそばにいるから」
そういって笑うメアリーの笑顔は、いつもと変わらなかった。
また次の日、レニーが屋敷に来た。
塞ぎこんでいる俺をはげましに来てくれたのだろうけど、『あいたくない』と言った。レニーをみたら、否が応にでも思い出してしまうから。
行方不明のジルと、あの小指のことを。
レニーは俺の部屋の扉の前でずっと、何も言わずに立っていた。
扉のむこうでずっと待っていた。
しばらくして、
「またきます」
とだけ言って帰っていった。
ジルが行方不明になって一週間が経った。
ジルはまだ見つからない。レニーは毎日やってくる。
それから更に一週間、ジルはまだ見つかっていない。
いくらか気持ちの整理もついた俺はレニーを部屋に通した。
レニーの目にはくまができていた。一番辛いのは俺じゃなくて、長年の親友が行方不明になっているレニーなんだろうということにようやく気付いた。
「レニーは強いんだな」
俺がそういうとレニーは、
「ポジティブなだけですよ?あのジルが死んでるわけがないって信じてるだけ」
と切なく微笑んだ。
温かい笑顔だった、と思う。
レニーは手作りのクッキーを置いて帰っていった。
メアリーと一緒に、それを食べた。 美味しかった。
調査の結果、ジルが行方不明になった日に同じく行方不明になった女子供は、ウェネフィー領にはいないということがわかったらしい。
フィドは、ジルが殺されたとみているという。
中世をモチーフにした世界なので、DNA鑑定とか無理なんです。