態度の大きい使者
二章、スタートです。
早朝、ドアをノックする音で俺は目覚めた。
俺とメアリーがいいという前にドアが開き、アンマリーと数名の使用人がとびこんできた。
メアリーが顔をしかめ、
「無断ではいらないでよ」
苛立ち混じりに言うと、使用人を代表してアンマリーが頭をさげた。
「申し訳ございません。けれど急いだ方が良いと思いまして・・・」
「今グリー家の使いの者が訪ねてきまして」
別の使用人が言うと、別の使用人が頷く。
「・・・・・用件は?手短にお願い」
メアリーが瞼をこすりながらたずねる。
「昨日のお客人の1人にグリー家のご令嬢がいらっしゃったとか」
「ええ、それで・・・」
その言葉をアンマリーが遮って申し出る。
「簡潔にいいますと、ジル様がまだ自宅にお戻りになられていないそうですわ」
「え?」
そんな馬鹿な。
ジルは昨日の夕方、従者と一緒に帰っていったんだ。俺も途中まで見送った。
「・・・とにかく使者の方を応接室にお通しして接待してて。すぐに支度するから」
メアリーが指示すると、アンマリー率いる使用人衆はぞろぞろと部屋をでていった。
「こんな早朝に申し訳ない、ガイア殿、ウェネフィー嬢」
「いえ、こちらこそお待たせして申し訳ありません」
無精髭をはやした使者の野太い声に若干びくついてしまったのはここだけの話にしておく。勿論、男として情けないからだ。
「グリー家専属用心棒、といいますか、はたまた警護兵といいますかな。フィドと言う傭兵を生業にしているものです」「はぁ」
なら傭兵でいいじゃないか、用心棒とか警護兵とか・・・。と心の中で呟いたり。
「早急ですが本題に入りましょう」
顎鬚をなでながら、使者はソファにもたれかかる。ずいぶんと態度の大きい使者である。
「ジルさんがお帰りになられてないとききました」
「まあ、そうなんですな。従者を1人迎えに行かせたんですがね・・・」
「最後に彼女がいた場所はここですからね」
そういうメアリーに、フィドが苦笑する。
「けして貴女方を疑っているわけではないのですが。・・・・・・身代金めあての輩に誘拐されちまいましたかねぇ」
フィドはけろっとしている。メアリーは微笑しているだけだ。
「ジルお嬢様のことだし、堅苦しい家に帰りたくなくて従者をまいたのかもしれないですが。なんかやばい事になってる可能性もあるんで、ちとここら辺りを捜索していいですかね?ええと、ここの領主様って貴方なんでしょう?」
「一応はガイアが領主ってことになってます。正しくは私とガイアですけど」
「どっちでもいいです。いいんですかね、捜索」
「勿論」
本当に、態度が大きい。
傭兵だから多少の粗野なところは見逃すが、多分メアリー、表には出してないけど怒ってるぞ?
「んじゃ、いいんですね」
「はい。でも領民に迷惑はかけないように」
「わかってますとも。そんなことすりゃ減給ですから」
「そうですか」
いやいやいやいやいや・・・。
俺のつっこみは勿論とどかない。声にだしていないからな。
そんなわけで、ジルの捜索が始まった。
・・・・・・メアリーの目が笑ってないことに恐怖を覚えた俺は決して意気地なしではないと思う。