不思議な話
これは幼い頃、寝付けない私に母が語ってくれたお話です。
母は、とある上位貴族の令嬢の乳母でした。
当時のその令嬢(と言っても幼子でしたが)は、決して端整でない顔だったそうです。
母親は極平凡、父親も整っているとは言いがたい顔立ちでしたからそれも仕方ないことでしょう。
我儘で手がかかり、頭の方もよくはなかったといいます。
できの悪いわが子に、両親も手をやいていました。
そんな令嬢でしたが、愛されてはいたようで。
令嬢の5歳の誕生日・・・ああ、失礼・・・6歳でした。
その令嬢の誕生日プレゼントを買いに、令嬢の父親と乳母である私の母は、一緒に街へとでかけたのです。
そして2人は、古めかしくも異様な雰囲気を漂わす、1軒の骨董品屋をみつけ、興味本意で中にはいりました。
そこには珍しい壺や絵画などもありましたが、一際目立っていたのは、
――――――――――1体の見目麗しい人形。
等身大の人形で、とても精巧な造り。
細部までリアルで、まるで本物の人間のようだったと母はいいました。
彼はその人形を一目で気に入り、その人形を買いたいと申し出ました。
初老の骨董品屋は、それはあまりに本物らしすぎて不気味だと誰も買わないからと、 破格の値で人形を売りました。
骨董品屋をでた彼はこういったそうです。
『このような美しい人形を、扱い方も知らぬ娘に贈るわけにはいかない』
と。
屋敷に帰ると、彼は人形を自室に運び入れました。
誕生日プレゼントは結局何も用意していないというのに。
誕生日の当日、盛大にパーティーが開かれました。
自国の王までが招かれる、大規模なパーティー。
ですが両親からのプレゼントがないことを事前に伝えられていた令嬢は不機嫌。
来賓の方々から贈られる品々はそれはそれは高価なものばかりでしたが、子供がもらって喜ぶようなものはありません。
ますます不機嫌になってしまった令嬢は、王の挨拶にもそっぽを向きました。
恥をかいた両親は、わが子は本当にダメだといいました。
そして幾年。
父親の自室で冷たくなっている令嬢が発見されました。
それから、父親は自室によくこもるようになりました。
娘をなくしたショックが強かったのだろうと誰もが言ったそうです。
令嬢が謎の死を遂げて1年。
実は、令嬢には妹がいたという事実が発覚しました。
とてもではありませんが、姉とは似つかない、可愛くて行儀のいい女の子が。
母は私が小さい頃に亡くなってしまったので、母のことはあまり覚えていません。
しかし、この話だけは覚えています。
とても、不思議だったものですから。