今日中に●●してあげる
日が暮れる頃、ナルガとレニーの2人は帰って行った。
それから間も無く、ジルを迎えに従者が1人屋敷へやってきた。
グリー卿の家はここに近いらしく、徒歩で帰るみたいだった。
『資産家令嬢の護衛が1人なのは心配だから』
と、ガイアはジルを途中まで送っていくことになった。
身分的にガイアの方が護衛が必要なんだけどなぁ。
「ついてきちゃったの?仕方ないなぁ・・・おいで、ブラック」
私は新しく家族になった子犬の名前を小声で呼ぶ。
でも、さっき名付けられたばかりだからか、自分の名前がわかってないらしい。きょとんとしている。可愛いな~と思いつつも急いでいるので、私はブラックを抱きあげた。
私は今、ジルとガイアを尾行中だった。
ブラックがついてきてしまったのは誤算だったんだけど、邪魔をしなければ問題ない。
「鳴かないでね」
ばれちゃうから。人差し指を口にあてると、またきょとんとした顔をする。
私の言葉の意味を理解してないんだろうな。可愛いから許してあげよう。
2人は和やかなムード。ガイアが気をつかってあげているんだ。
迎えに来た従者は、数歩離れて歩いている。
不意に2人が立ち止まった。
従者が何か言ってる。なんていったかは聞き取れないけど、男はガイアに頭をさげて去ってしまった。2人きりにするなんて、色々な意味でガイアが危ないじゃない!
ジルは何か話しはじめた。顔を夕日のごとく真っ赤にしている。
ガイアは真剣な面持ちでそれをきいている。
刹那、2人の影が重なった。
影が少しの間重なって。
ゆっくりと、離れた。
あ、れ?
今、ナニシタ?
2人の顔と顔が近付いた。
後ろからだとよくみえなかった。
でも、何をしたかは、わかった。わかってしまった。
その行動を理解、りかいした。
ああ、あれは、口づけ。キスです。
「ぁぁぁっ」
頭の中はいっきにぐちゃぐちゃになる。
なんで!?なんで⁉なんでなんでなんでなんで‼‼
フラッシュバックするその光景。
脳が受け付けない。
ガイアの唇に彼奴の唇が触れた。
消毒しなきゃ‼汚染されてしまう‼キタナイ‼
どうしよう‼最初にすることは、まず最初は⁉
消毒!?違う、それは。それも大事なことだけどもっと大事なことがある。
混乱した頭を整理すべく、ブラックを地面に置いた。
ブラックは予想通りに2人のもとへ走る。自分を拾ってくれたガイアに、ブラックはすっかり懐いているから。
気持ちの悪い悲鳴が聞こえたから耳を塞いだ。
「あの女、ウザいなぁ、不快だなぁ、邪魔だなぁ、消えて欲しいなぁ・・・どうしよっかなぁ」
思考巡回。ふいに、気づいた。
そっか、そうしたらよかったんだ?
最初から殺っとけばよかったんだ。
無意味な殺人じゃない‼罪になんか問われない、だって、
「悪いのはあっちだよね?」
これは純粋な怒りなんだ。
愛をする人を汚されて黙っているわけにはいかないでしょう?
そうと決まればはやい。戸惑いなんてこれっぽっちもない。
邪魔者。
今日中に消してあげる。