幸福へ導く声
アンマリーが教えてくれた。
レニーが昨夜、私のことを嗅ぎまわっていたことを。
「後、深夜に見回りをしておりましたが、レニー様と旦那様が」
「ガイアと?」
水を飲みにって言った時?
あの女、ガイアを無理矢理呼びつけたんだ。
ガイアと私が幸せになるのを阻止したいんだ。
どいつもこいつも。ジルもレニーもガイアを狙ってるんだ。
爪を噛みながら、椅子に座りこむ。
脳内に響く声。
〈あの女達は邪魔だ〉
物心ついた時から、度々聞こえてくる声。
この声に従っていれば、幸せになれるんだ。
ガイアが構ってくれないから、声の言うとおりに、ガイアの可愛がっていた猫を事故死に見せかけて殺した。
そしたらガイアが構ってくれるようになった。
ガイアに色目を使う使用人がいたから、声の言うとおりに、顔に硫酸をかけてやった。
そしたらその使用人は精神を病んで辞職した。
この声に従っていれば、私はきっと幸せになれる。
〈どうしたらいいかはわかっているはず〉
どうしたらいいか?…あの2人はガイアを狙う邪魔者。
けどガイアの友達でもある。
もしあいつらがいなくなったら、ガイアは悲しむ?それとも…
〈隠し通せばいい〉
それはそうだけど。ガイアに嘘なんて。
でもこのままじゃ…。
サンドイッチをほおばりながら、私は時計を何度も見返す。
「・・・・報告ご苦労様、アンマリー。
それで、ガイアは今どこなの?今朝から姿がみあたらないんだけど」
「さあ・・・?それは私にもわかりませんね。私は7時に起床したのでございますが、すでにでかけられた後でした。大方、散歩にでも行かれたのでしょう」
アンマリーのマイペースは中々直らないな。
私が起床したのは5時半、アンマリーより1時間と30分もはやい。
普通、使用人は、仕える主人より早くおきて支度するものだって、昔お母様が言ってた気がするんだけど。
しかもそのことを悪いと思っていないみたいなんだよね。
そこがアンマリーの短所であり長所だとガイアが言っていたな・・・どこが長所なんだかわからないけど。
「私も起こしてくれたらよかったのに」
「旦那様は気を使われたのですよ」
・・・・・・・だとしてもメモくらい残しておいてほしかった。
そしたら引き出しの中にいれて、半永久的に残しておくのに。
それにガイア、従者くらいつけていってよ、もう・・・・・。
心配じゃない。
ガイアがお母様みたいに賊に襲われたら?
正気じゃない通り魔なんかに遭遇したら?
心配で心配でたまらない。私の、目の届かない距離にいるなんて。
いつもいつも、心配してるの。
「ちなみにナルガ=グレイディ、は?」
「部屋で腹筋されてましたが。私の二日酔いに効く薬を片手に」
「あ、そう」