優しさとはなんなのか
夜中。
水を飲みにベッドを出た瞬間、寝ていると思っていたメアリーが俺の腕を掴んだ。
「どこにいくの?まさか、ジルかレニーのところじゃないよね」
「水を飲みにいくだけだよ」
メアリーは無表情で俺をみている。
そして唐突にこんなことをきいてきた。
「ねえ、ガイア、私のこと好きだよね」
「…うん」
メアリーは口角をつりあげた。
「じゃあさ」
「?」
「ジルとレニー、は?」
「え」
「あの2人はどうなの?」
「友達として好きだよ」
「私が10としたら?ジルとレニーはどのくらい好き?」
「そんなの、わかるわけ・・・」
「なんで?私より上なの?ねえ、そうなの?」
腕を掴む力が強くなり、メアリーの眉間にシワがよる。
「ち、違う」
「じゃあ、いくつ?いくつくらい?3?4?それとも2かな?」
「そんなこといえな」
「ジル達に申し訳ないって思ってるんだね、ガイア。
だけど、私の前では正直でいてよ。私に嘘なんかつかないでね」
メアリーは無邪気に笑う。
けど、凄い威圧感。逆らったら、どうなるかわかったものじゃない。
俺が小さく頷くと、メアリーは掴んでいた腕をはなしてくれた。
「本当は1もないんだよね?ふふっ、ガイアは優しいからそんなこといえないもんね」
「そ、そうだよ。だからいえない。ごめんな」
そう言ってメアリーの頭を撫でる。
俺は臆病者だ・・・。
メアリーを残して水を飲みに行くと、そこにはレニーがいた。
レニーは俺をみると、優しい笑顔を浮かべた。
「偶然ですね、ガイアさんも寝つけないの?」
「俺は水を飲みに来たんだ」
「じゃあ、私も一杯頂いてもいいですか?・・・なんか、疲れてます?」
レニーに言われ、自分が精神的に疲れていることに気づく。
原因は勿論、さっきのメアリーとの会話だろう。否、罪悪感。
「疲れてないよ」
「嘘だ~、心配させないように強がってるだけでしょう?ほら、ガイアさんて優しいから」
君もメアリーと同じことを言うのか。
「優しくなんかないよ。俺は嘘吐きで臆病者なんだ」
さっきもそうだった。
メアリーに言えるはずないんだ。
メアリーといるよりも、ジルやレニーやナルガと笑いあってる時のが楽しいと感じていることも。
正直メアリーといると疲れることも。
メアリーのことは好きだけど、恋愛感情の好きじゃない。
妹のようにしか、みれないんだ。
「そんなことない」
首を横に振る俺をみて、レニーの顔が少し歪んだ。
「いや、俺は小さい人間なんだよ」
「そんなことないッ」
少し大きめの声で叫ぶレニー。
「ガイアさんが嘘をつくのは、その人を傷つけたくないからでしょう?
ガイアさんの嘘は優しい嘘だから・・・」
レニーの中の俺は、だいぶ美化されているらしい。
大きな瞳が潤んでいる。
「レニーにそう言ってもらえるような人間じゃないよ、俺は」
「私はっ。誰が優しい人なのかくらい、わかっているつもりです」
レニーはそういうと、泣きだしてしまった。
ああ、もう。
女の涙には弱いんだって・・・。
「ありがとう、レニー。メアリーが待ってるから、もう行くな」
俺はハンカチをわたし、レニーの頭を撫でた。
メアリーにするように。
寝室に戻ると、メアリーはもう眠っていた。
すやすやと寝息をたてて寝る姿は、無害で可愛い。
けれど俺は知っている。
メアリーの心を支配する闇を。
その闇が、俺をのみこもうとしていることも。
夢をみた。幼いあの日の夢を。