夜桜
「さよなら、ありがとう」
それが君の最後の言葉。僕を縛り付けて離さない、憎くて愛しい君の言葉。
第1章
「ごめん、……榛名」
色とりどりのネオンに、若い男女の声。車はいつまでも走っており、人工の光が辺りを照らす。そんな光景を俯瞰していた湊は自分に言い聞かせるように呟いた。車のクラクションの音が厭に耳につく。今までは湊も「そちら側」だったのだ、確実に。ビルの屋上から東京の街を眺め、今までなら隣で微笑んでいたはずの人を思い浮かべた。神木榛名―――湊が心から愛し、永遠を誓った唯一の相手。結婚自体はしていなかったものの、二人の空気間は夫婦そのものだった。そんな榛名ならば、今の湊を見てもいつまでも共に寄り添っただろう。しかし今は肝心の彼女はいない。2週間前までは確かに感じていた左手の暖かさを感じられず、湊は一人佇んでいた。屋上は湊を落ち着かせる最適な場所だった。空から近いからかもしれない。そんなことを思いながら白い息を吐いた。
「……行くなよ」
空の星を見て言う。
「俺、まだ、伝えてないんだ……。恥ずかしくて……先延ばしにして……言えなかった……」
頬を温かいものが伝った。湊は拭おうとすらしない。気付いていないのかも、しれない。
「ごめんな、本当に……。ぅ……ぁ……あぁあぁぁ!!」
湊は声をあげて泣いた。泣いたところで何が変わるわけでもない。そんなの分かっていても。湊の端整な顔が歪む。その表情は彼の悲痛さを物語っていた。何よりも大切な存在を失った湊には、これからどうやって生きていけばいいのかすら分からない。榛名は湊の全てだったのだから。
「待ってて、榛名。俺が必ず……必ずお前の敵、とるから」
満月に、誓う。
「高岡……湊さん?」
榛名が亡くなって5日後、湊は天と地を繋ぐ夕暮れ時にカフェにいた。
毎日の食事は榛名に任せきりで、湊に家事なんて出来るわけがない。
食事をする気力なんて無いが、今、自分が生きるため――ただただ本能のままに食事をとっている。そんな時のことだ。サンドウィッチを片手に、窓から空を見上げていると、後方から湊の名を呼ぶ若い女性の声が聞こえた。心做しか、榛名の声に似ている様に思われる。
湊が警戒し反応を返さずにいると、女性は湊の座る席の前側へと移動した。
「あの……人間違い、でしたか……?」
ここまできて、無視するわけにもいかない。湊は目線を女性に向けた。そこには、見覚えのある顔。
「あ……菜杜奈、か……?そう、だよな?」
「うん、久しぶり、やっぱり高岡くんなのね」
「あぁ、大学卒業したときからだから……6年ぶりか」
ずっと会っていなかった友人と出会い、懐かしく思うが、それと同時に説明しづらい感情――強いて言うなら、寂しさ、だろうか――が彼を襲った。
「どうしてここに……なんて、愚問か」
「……そうだね。私が高岡くんに会いに来た、それだけで理由は明白」
菜杜那が口に出すのを躊躇ったのがわかった。
菜杜那は唾を飲み込み、冷静に告げる。
「私の……姉さんのことよ」
菜杜那は既に結婚し、名字が変わっているが、旧姓は神木――榛名の双子の妹だ。
やっと少し、続きが書けました!
菜杜那ちゃんはこれからどう活躍するんでしょうか?
楽しみにしててくださいo(^-^)o




