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五話

私また死んでしまったんだ。

今回はあんまり痛み無かったなぁ。前回のはよく覚えていないけど、覚えていないくらいのショックが襲ったような気がする。


セシルさんとシュエラちゃんは無事かしら。なんだか助けるつもりだったのに別のトラウマを植え付けてしまったようで申し訳ない。けれどどうか、幸せに生きてほしい。

そういえばシュエラちゃんとリオはどうなるんだろうなぁ。二人がどんな関係を築いていくのか、側で見ていたかった。


……っ。

あぁ嫌だ。馬鹿だ私は。

まだ、死にたくなかった。リオの成長をまだまだ見ていたいし、友人達と劇を見に行く約束も果たせていない。

他にも、まだまだしたい事がたくさんあったのに。


けれど、一番は、そう。

アーロン。最後に貴方に会いたかった。



「……ラ。レイラ。レイラ!」


アーロンの事を考えていたらとうとう幻聴まで……。そういえば死ぬ前も幻覚が見えたし。私はどれだけアーロンが好きなのだと呆れてしまう。

まぁ、世界一だという自信はあるけどね。


「レイラっ!!」


べちり、と頬に衝撃が走った。

誰だ私の頬を叩いているのは。そう何度も叩かれると痛いんだけど……―――って痛みがある! 私生きてる!?


ぱちっと目を開くと苦しげな顔をしたアーロンの顔が見えた。

「ぁ、……ア、ロン。アーロン」

「っ馬鹿かお前はっ!!」

あぁ、どこかで聞いたことのある台詞。くすりと笑おうとした意志とは裏腹にどんどんと涙がこぼれ落ちてくる。


「アーロン。アーロン、アーロンっ」

会いたかった……。


ぎゅっとアーロンの服を握りしめ思いっきり抱きついた。温かい体温と波打つ鼓動が私に生の実感をくれる。

「生きてる。私っ、生きてる……」

「当たり前だ。俺より先に死なせるか。俺が守るに決まっているだろう」

やっぱり私の旦那様は世界一格好いい。

守ってくれるなんて。前世では到底聞けなかった台詞だ。


ぐずぐずと泣きじゃくる私をアーロンはずっと抱き締めてくれた。



***



「で? なんでレイラは俺の許可を得ず、一人で、ここに来たんだ?」

アーロンは端正な顔をそれはそれはにっっこりと綻ばせて問いかけてきた。言葉の端々に怒気を感じる……。

「あの、し、使命が……」

「し、め、い? それは俺より大事か?」

お願いだから凄まないで! 綺麗な顔でされると迫力が凄い。

「……ええっとそうね。だって人の命が、ね」

「ふーん。レイラが死にかけているのを見て俺の寿命はかなり縮まったんだが?」

アーロンは私の頬をつかみ引き寄せる。

見つめる瞳はあまりにも真剣で……その瞳の紺に、囚われてしまう。

美しくて、私が欲しいと焦がれていた色。

それがこんなにも近くにある。


「……ごめんなさい」


アーロンには私が転生者だということ、この世界は前世ではまっていた漫画の世界に酷似していることは既に話してある。流石に漫画のストーリーは話していないけれど。


「えっと、前話したでしょう? ここは漫画の世界に似てるって。そのストーリー実はリオがヒーローなの。で、ヒロインは私が助けたシュエラちゃん。シュエラちゃんはお母さんが幼い頃に死んでしまう設定だったから。どうしても助けたくて……」

でも、やっぱり無断で出てきた言い訳にはならない。ちゃんとアーロンにも話しておけば無駄な心配をかける必要はなかった。しゅんとうなだれて謝る。


「レイラらしいな」

ぽんぽんと頭を撫でてくれて、アーロンがようやく本当の笑顔を見せてくれた。

「心配かけてごめんなさい……」

「いや。いいんだ。シュエラといったか……今ちょうど下に来ていたぞ。会うか?」

「うん。話したいことがあるの」




下に降りるとセシルさんが丁寧に腰を折った。やっぱり元屋敷仕えなので、動作が優雅だ。シュエラちゃんもきょとんとしたがすぐに察して頭を下げた。良い子だ。


「レイラ様。わたくし達のような平民をお助けて下さりありがとうございます……! 大したものではございませんがこれはお礼の気持ちです。勿論捨て置いて下さっても結構ですので。どうか」


セシルさんが差し出して来たのはミートパイだった。


これは……! 

シュエラちゃんがリオに過去を語り、その後トマトのトラウマを克服したときにリオに作ってくれた母直伝のミートパイではないか! 

あれみてからミートパイ食べたくなったんだよね……。しかも本家版!

「ありがとう! 頂きますね」

「えっ?」

セシルさんがきょとんと顔を上げた。多分作るには作ったが食べるとは思っていなかったのだろう。

貴族だしね、平民のものなんてと思っただろうけど、私は食べます。

「楽しみですわ」

笑ってすぐ近くの使用人に預けた。今ここで食べたいところだが、まぁ流石にね。

それに、私は話さなくてはいけないことがある。


まずはそうね。

「セシルさん」

セシルさんは伯爵家の使用人に騙されて伯爵がもう愛していないと思いこんでいるから誤解を解かないと。


「シュエラちゃんのお父様のお話をしましょう?」

そう告げるとセシルさんは目を潤ませ、息を飲んだ。



***



セシルさんは深く、深く頭を下げた。


「ありがとう、ございます……。なんとお礼を申し上げたらいいか」

「いえ、気にしないで頂戴」

大好きだった漫画の登場人物をみんな幸せにしたいという邪な感情ですから。


あのあとセシルさんに事情を話し、なかなか納得しないセシルさんを引きずって伯爵家まで連れて行った。勿論伯爵はずっと探していたセシルさんを即座に抱きしめ、二人は無事に結ばれたのだ。

一度途切れた絆は強いというかなんというか、伯爵は凄い勢いで使用人達と両親を納得させて、二人は今年中には結婚する予定だ。


ちなみに私、なんとセシルさんからお礼にミートパイの作り方を教えてもらった。

今度アーロンに作ろうと思っている。だって本家直伝だからね! きっと美味しいと思うんだ。

セシルさんとは私のごり押しで友人にもなった。これからもたくさん料理を教えて貰うのだ!



そして、私の懸念していた事項。

大分漫画と違うからリオとシュエラちゃんの関係はどうなるんだろうというものだが……、この前リオから嬉しいことを聞いた。


「あ、ぼくお母さまのいっていた子に会ったよ。普通にお話できたけどね。なんだか生活が変わって落ち込んでたみたい。励ましてきたよ」


恐ろしい子……っ!

ではなく、なんて可愛くて優しい子なんだろう。

違った形ではあるがばっちりと落ち込むシュエラちゃんを励ますという幼い頃のエピソードを成立させている。流石私の可愛いリオ、グッショブだ。


二人が今後どのような関係を築いていくのか分からない。悪役もいないし、きっと漫画のようには進まない。

だが、漫画の展開という事を抜きにしてもシュエラちゃんはいい子なのでぜひ嫁に来て欲しい。勿論、二人が漫画のような恋仲でも友人としてでも全力で応援していくつもりだ。


もう私は漫画の世界には関わらない。

これからは全く違った人生を側で寄り添っていくれる大好きなアーロンとともに歩んでいくのだ。


「アーロン」

私の愛おしい人。

その手をつかんでぎゅっと握る。

「リオも遊びに行ってることだし、二人きりでお茶会でもしない?」

「あぁ、二人きりか。懐かしいな」

大好きな紺色の瞳がやんわりと緩む。その優しい色の灯った瞳を向けてもらえる私はきっと世界一幸せ者だ。


そんな実感とともに、今日も私は愛おしくて、私を愛してくれる貴方とお茶を飲む。

レイラのアーロンに対する口調が変わっていますが思いを通じ合わせた後にこの口調になりました(^^)


とりあえず、ここでお話は終わりです。

が、大好きな二人なのでネタが思い浮かび次第書いていきたいと!

近日中に登場人物紹介を書いてから、小ネタですれ違っている頃の二人を書きたいなぁと考えております。


ここまでお読み下さり、ありがとうこざいました!


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