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beforestory2

短編版「今日も私は、愛おしくてほんの少し憎い貴方とお茶を飲む~before~」を二つに分けました。後半部分

それからと言うもの、私はそれはもう真面目になった。記憶を取り戻してから「どこかでみたことある! でもなんか違う?」という妙な感覚に捕らわれたりもしたが、至って平穏だ。

今まで迷惑をかけた子に頭をさげ、逆に権力を笠に好き放題するやつは説教した。そのおかげで前の取り巻きといった子ではなく友人と言える子もたくさん出来た。

アーロンとの婚約も彼が望んだので断腸の想いで取り消した。 

これから、私はもっともっと努力して今度は彼に選んでもらえるような子になるのだ。そう誓い、友人と談笑している時だった。


「レイラ様っ! アーロン様が!」


その知らせは舞い込んできた。


**


急いで馬に飛び乗る。目指すはアーロンの家。

やっと私に解放されたアーロンだが、彼は世間が放っておくような人間ではなかったのだ。

輝くような容姿、さほどない実家の後ろ盾。

―――しかも、将来は有望な事業家になるのだから。


……ってあれ? 今、どうしてそう思ったの? 

まぁ、いい。記憶を取り戻してからはよくあるのだ。なんと次は彼、私より酷い(と思いたい)好色と有名なビルド伯爵に引き取られることになったらしい。

ビルド伯爵といえば、だるだるについた肉に、禿かけの頭。目つき、手つきが嫌らしいは最悪の男だ。容姿が良ければいいらしく、男性でも自分より年下のほぼ孫同然の年でも節操なく手を出している。

アーロンの容姿は抜群。絶対に危ない!

助けなくては!

「っはぁ、はぁっ」

馬を全速力で駆けさせているので、身体への負担が激しい。だが、ビルド伯爵家に連れて行かれたら、流石の私でも対処出来ない。そのまえになんと助け出さなくてはいけない。

あぁ、こんなとき本当に前世の記憶があって良かったと思う。普通はしないのだが、馬を乗りこなせる女性って格好いいよね! と練習した自分を褒めたい。


「っ見つけた!」

とある店の前で馬を急停止させる。この紋章。ビルド伯爵家の馬車だ!

間に合った……。

「開けて下さる?」

ほっと息をついて、馬を下りると馬車の扉を叩く。

「はっ!? レイラ!?」

あぁ、アーロンの声だ。勢いよく扉が開かれた。驚いても綺麗な顔の彼に今更ながらボロボロを髪型の自分が恥ずかしくなった。

「えっと、アーロンだけですの? ビルド伯爵は?」

「どうしてここにいるっ!? ……ビルド伯爵は来てない」

「……は?」

まってよ。引き取りに来るのに本人が来るのは当然でしょう。なのにいない?

―――どれだけアーロンを下にみているの?

ふつふつと怒りが沸き上がる。が。ここはアーロンの前だ。必死で堪え、にこりと微笑む。


「もう大丈夫ですわ。私が助けに参りました」


驚いた顔をしたアーロンの綺麗な顔に涙の跡があるのには気がついていた。

馬車に上がっていつかアーロンがしてくれたようにそっと抱き締める。

「な、んで……」

アーロンが何かを言い掛けたとき、ダンッ! と大きな音がした。

「あ!」

御者が来たようだ。慌てて身を放し、馬車から降りる。そして御者に向かって話しかける。

「ねぇ、あなた。アーロンは私、レイラ・ブラッドリーの婚約者ですの。今日は帰って下さらない? 後日ブラッドリー家のものを遣わせますから」

ブラッドリー家は古くから続く侯爵家。この名前を出せばとりあえずは止められる。


そう思った私が馬鹿だった。

「なんだ小娘。なに言ってるかわかんねぇが、ま、話はまずはこいつを旦那様の元へ届けてからだな」

「ちょ、ちょって待って! ビルド伯爵の元に連れて行かれたらなにされるか分かったものではありませんわ!」

ブラッドリーの名が通じない!? なんて質の悪い使用人なの! 鞭をとって走り出そうとする御者の手を掴む。


「あぁ!? 邪魔すんな」

御者は怒鳴ると私を御者台から引きずりおろす。


「待って! 離してっ!」

必死に抵抗するが女の力では御者には適わない。このままじゃアーロンが連れて行かれる!

私はすぅっと息を吸った。もう手段は選んでいられない。


「きゃぁぁあ! 誘拐犯っ! 誰か助けて!!」


周囲に響く声で全力で叫んだ。がやがやと人が集まってくる。最初は女性、子供だけだったが、ちらほらとだが、大人の男もやってきた。

「助けてください!」

「黙れっ!!」

叫び続ける私に御者がとうとうキレた。

頬に強い衝撃が走る。

「レイラッッ!」

焦った御者に頬を殴られ、尻餅をついた。痛い。頬は勿論、お尻も地味に痛い。

ふっふっふ。しかし、好都合だ。こんな振る舞いの男では伯爵家の使いだとは信じてもらえないだろう。何人かの男が御者に飛びかかり、組み伏せる。御者がぎゃーぎゃーと喚くがここまでくるともう言葉より行動である。女を殴った男の話など誰も聞いてはいない。

アーロンが尻餅をついている私の手を乱暴にとった。

私を立たせると肩を強く激しく掴んで揺さぶる。


「あ、アーロン! ちょっと、」

「何を考えているんだ!」

女性にはもう少し優しくしないと、と笑って言おうとしたが、アーロンの怒鳴り声に遮られる。

「っ馬鹿かお前は!」

「……………え?」

アーロンが私を馬鹿っていった? 嘘。あの優しいアーロンが!?

思考停止し、ただアーロンを見つめる。

アーロンは肩から手を離し、私をすがりつくようにぎゅっと抱き締めた。

大好きな人に抱き締められてドキドキする―――じゃなく。

いや、ちょっとまって。納得できない。今のが最前の判断だったはずだ。なのに何で責められなきゃいけない!

私は悪くない! と内心で憤慨する私には聞こえなかった。



「頼むから、危ない事はするな……。君が怪我をするのが一番嫌なんだよ……」

私を心配してくれる弱々しいアーロンの声が。

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